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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

あるケルベロスさんの1日。

作者: すなアザラシ

リハビリ第4弾です。

今日もあたしの耳がかじられている。


はむはむと甘噛みされている。


もう朝か。

そろそろ起きよう。


あたしはグイッと前足を伸ばし、あたしの耳をはむはむとしていた存在を引き離す。


「ふあっ。」

起き上がり、頭をプルプルと振る。


今日もあたしの耳がヨダレでベタベタする。

浄化(クリーン)。」

耳のベタベタが無くなり、スッキリする。


あたしは、『人化』をする。

青い髪、青い眼、三角に立った耳、先が白く、青いきつねのようなずんぐりした尻尾が生えている犬の獣人の姿になる。


おっと、全裸はマズイな・・・。

素早く身支度を整える。


青いワンピースに白いエプロン、所謂エプロンドレス姿になり、あたしは朝御飯の支度をする事にする。



あたしの名前はケル。

皆にはケルちゃんと呼ばれるケルベロスらしくないケルベロスだ。


何故ケルベロスらしくないかと言うと、あたしと妹二人は、お母さんのお腹に居る時に、一つの身体にあたし達姉妹三人の魂が入ってしまったらしく、このままでは母体が危ないと、星の女神様が、一つの身体を三つに分けてくれたんだけど、生まれたあたし達を見たお母さんは、あたし達姉妹を『無かった』事にして、木箱に詰めて森に捨ててしまったんだ。


あたし達姉妹の姿は、地球で言う所の尻尾があるコーギーとソックリだ。


頭も一つだし、全然ケルベロスの姿をしていないもんだから、お母さんが捨ててしまうのも、分からないでもない。


それで、森で拾ってくれたのが、あたし達の飼い主のリリスって、女の子だったんだけど、色々あって、この世界を救う為に消滅しかかって、何とか生還したけど、その時に、あたし達姉妹を含む殆どの記憶を無くしてしまっていて、リリスは完全にあたし達の事を覚えていなかったんだ。


あたし達姉妹の記憶が無くなったのは、悲しかったけど、失ったと思っていたリリスが帰って来たことの方が嬉しかったんだ。

思い出は作り直せるからさ・・・。


それで、あたし達姉妹は、星の女神様に一芝居打って貰って、リリスとまた拾って貰った森でまた出会った事して、飼い主と飼い犬の関係をやり直す事にしたんだ。


のちに星の女神様に聞いて、驚きだったのが、リリスが愛の女神だった事だけど、あたし達姉妹を大事にしてくれているから、気にしないでいる。


で、肝心の飼い主であるリリスなんだけど、ただ今星の女神様こと、エスタノール様と、異世界に旅行中なんだよね。


「お土産楽しみにしていてね。」と、あたし達姉妹をギュッと抱き締めてから、出掛けて行ったよ。


この時に、世界を渡る条件とかで『設定』を変えないといけないとか、星の女神様が言っていたんだけど、あたしには良く分からなかったよ。


ああ、出来ればあたしも一緒に行きたかったな~。


あたしの尻尾が元気無く垂れ下がる感じがする。


まあ、あたしの妹達が居るし、先ずは朝御飯を作る事にしよう。



基本的にあたし達は、朝からステーキや、カツカレーなんかでも平気で頂いたりする。


胃もたれなんてしない強靭な胃袋をしているぞ。


なもんで、今日はウサギ肉のステーキを一人?一匹?に、トマト、きゅうり、タマネギ、レタスのサラダ、ドレッシングは、フレンチで、ライス特盛に、何故か豚汁を添えて置く。


あたし達は、玉ねぎを食べても体調は悪くならないぞ。

犬だけど犬じゃないからね。


朝御飯の豚汁は週六で出さないと妹達が不機嫌になるんだ。


ステーキソースのおろしポン酢、または、醤油ベースのステーキソースを用意し、妹達を呼ぼうとしたけど、もう椅子に座って首元にはナプキンをして、「ごはん、ごはん。」と、準備万端みたいだった。


「いつの間に起きたんだ?」

あたしは、妹達の前に用意した朝御飯を置き、彼女達に絞りたてのオレンジジュースをピッチャーで其々の前に置く。


あたしもピッチャーでオレンジジュースを飲むぞ。


「おはようございますお姉様。」

赤い髪に、赤い瞳、先端が白い赤い尻尾を持つ、ほわほわした犬耳少女が次女のベロで、

「モグモグ、お姉ちゃんの作るご飯は美味しいワン・・・。」

挨拶より早くご飯を食べている金髪に、金の瞳、先端が白い金の尻尾を持っている犬耳のちびっ娘が三女のスゥだ。


あたし達の名前ケル、ベロ、スゥはリリスに付けて貰ったんだ。


あたしは気に入っている。

妹達も不満は無いようだ。


皆は、あたし達の事をケルベロス三姉妹と呼んでいる。


あたし達の仕事は、携帯食糧や、干し肉等の加工品や、魔石で光るランタン等の魔道具を売る事だ。


『ケルちゃんの加工品店』それがあたし達のお店の名前だ。


主なお客様は、コボルトさん達だ。


この世界では、コボルトと言う二足歩行の犬の種族が国を作っている。


穏やかな種族で、敵対しない限り、どこまでも友好的な優しい種族だ。


人間の国家とも友好関係を築き、お互いの文化の交流も盛んに行われている。


あたしの店がコボルトさん達に人気なのは、ズバリ、ワンコ用の加工品が置いてある事だろうか。


あたしもワンコの神獣?らしいし、ワンコに寄り添った品物を自分達で用意出来るのも、強みだろう。


さて、朝御飯は食べたし、片付けもしたし、開店準備も出来てるし、お店を開きますか!



「お待たせしました。 ケルちゃんの加工品店開店です!」

あたしは気合いを入れてお店のシャッターを開いた。

※シャッターは、夜の女神様が付けてくれたんだ。

あたしの中では、『デスの人』と呼んでいる。


「ケルちゃん、豚汁が欲しいワン!」

朝イチで来ると、豚汁の匂いがして堪らないワン!


ブルゾイ族のコボルトさんが、あたしに豚汁を注文してきた。


あたしのお店、加工品店なんだけどな・・・。

でも、「何杯要りますか?」と、答える。


コボルトさん達があまりにも豚汁を売って欲しいと言うので、広場にイートインコーナーを作り、販売するようになった。


「えっと、12杯だワン!」

ボルゾイさんは、後ろの仲間に数を確認してから注文してきた。


「スゥ、豚汁を12杯だ。」

「了解だワン!」

スゥが手際よく豚汁を用意する。


「銀貨一枚に、銅貨二枚だけど、銀貨一枚にしておくよ。」

あたしはボルゾイさんにそう言う。


あたし達は、儲けはあまり要らない。

グレートボアのお肉は自分達が狩るし、野菜も自前だし、調味料も自前で作っているので、コストはあまり掛からない。


商売にはサービスも必要なのだと、夜の女神様が言っていたし、あたしもお客さんが喜ぶ顔を見られれば、満足なのだ。


「ケルちゃん、ワンコガムのプレーンを10個欲しいワン。」

ワンコガム。

あたしのお店の主力商品だ。


あたしの妹、スゥの為に開発した適度な固さに、噛むほどに味が出るこの商品は、気が付いたら、全部食べてしまう程に美味しいと、コボルトさんにも、妹達にも人気の品である。


「銀貨一枚になります。 あと、これは新作の『シーサーペント味』です。 気に入ったらご購入して下さいね。」

あたしはおまけも袋に入れて渡す。


ベロは、加工品店でもクッキーや、ケーキ等のお菓子部門を切り盛りしている。


加工品店では、あたし達姉妹の他に、パートのワンコ達が6人程手伝いに来てくれている。


シベリアンハスキー族の三姉妹に、スピッツ族の三姉妹だ。

彼女達は、独自の進化を遂げていて、人化しているので、あたし達と変わらない犬耳、犬の尻尾の付いた女の子だ。


「店長~。 またあの方が来ているワン!」

シベリアンハスキー族のシアちゃんが、大物の姿を確認したらしい。


「ケルちゃ~ん、また来ましたわよ~。」

「一国の王妃様が、護衛も付けないで来店しないでください!」

「え~。」

「え~。じゃありませんよ!」

あたしは頭が痛くなった。


此処は、ファランクス国のリリス辺境伯領と呼ばれる自治が任された辺境の地であり、海を隔てた隣国、トライデントの王妃様が単独で来る所では無い。


数年前まで、この美しいトライデントの王妃様は、命を狙われていたのに、危機感が無いのか、こうしてのほほんとあたし達のお店に現れたりするのだ。


「王妃様。 王子様と王女様達はどうなされましたか?」

この王妃様は、王子様と、二人の王女様達と、公務をほったらかして来るのだ。


「夫が面倒を見ていますわ。 あと、乳母が・・・。」

王妃様は猫耳をピコピコ動かしている。 なるほど、トライデント王に子供達の面倒を見させているようだ。


あの人族のトライデント王は、大の猫耳好きの男だ。

ソマリ族の王妃は、トライデント王の好みに完全に当てはまったみたいだ。


猛烈な勢いで彼女を口説き、彼女を王妃にしたのだ。


因みに、トライデントは多民族国家なので、偏見は無い。


また、トライデント王はあたしの妹であるベロに、「側妃にならないか?」と口説いていた。

トライデントの王は、犬耳も守備範囲らしい。


でも、あたしの可愛い妹が欲しいなら、あたしを倒してからにするんだな・・・。

あたしを倒しても、あたしのお父さんが倒せないと思うけどさ・・・。


ウチの妹達はよく求婚される。

主にコボルトさん達にだが・・・。


だけど、誰も彼女達をモノに出来ていないのだ。


あたしも妹達が嫁に行くまでは、嫁がないからな。


それよりもトライデントの王妃様を何とかしなくては・・・、あたしは特殊な犬笛を吹く。


たらり~らり~。


これでトライデント王妃付きの忍に王妃の居場所を知らせるのだ。


しゅた。

「王妃発見との事で、参上したタヌゥ。」

現れたのは、狸の耳と尻尾を持つ狸人の忍だ。


「おお、何時も大変だな。」

「全く王妃様には手を焼かされるタヌゥ。 はあ、隠密を巻くなんて規格外タヌゥ。」

彼女は、眠そうなタレ目であたしに見ながら、溜め息を吐いていた。


そもそも、トライデントの王妃様が誰にも気付かれずに厳重な警備体制のお城を出て、転移門を使用して此方に来る事自体が異常だとあたしも思う。


まあ、この世界の危機は、リリスが命を懸けて戦ってくれたおかげで無くなったし平和だけど、変態は何処からともなくやってくるから、油断は大敵だ。

元に下着泥棒なんかは後を絶たないし、盗まれた物なんぞナニをされているか分からないから、たとえ返されても使えないから、買い換えないといけないのだ。


この世界の下着は高いから、よく下着を盗まれるような子は可哀想だ。


なので、スゥが下着の販売をしているから、格安で販売をしている。

『下着職人のスゥちゃん』と一部では呼ばれている。

あたしは呼ばれたくない。

なんか、別の意味に取られそうだ。


「ケルお姉ちゃんヒドイ・・・。」

スゥが拗ねている。

あたしに言われてもね・・・。


そんなやり取りをスゥとしていると、トライデントの王妃様が騒いでいた。

「わ、私はイートインでジャーキーと豚汁を頂いてから帰るにゃん!」

忍に捕まった王妃様は、子持ちとは言え、十分に綺麗だし可愛い。

でも、王妃様の威厳は無いようだ・・・。


そんな王妃様でも、拐われたりしたら、あのトライデント王がどんなに荒れ狂うか分からない・・・。


「いや~! まだ帰りたく無いにゃ~!」

「駄々っ子タヌ! 歳を考えるタヌゥ!」

忍に捕まる王妃様だけど、まあ暴れること、暴れること・・・。


「大きな幼女ですわね。」

ベロが困った子を見るような目をしている。


そんな時は、早めに対処しておこう。

「ベロ、あの駄々っ子にお帰り頂く為に、例の物を・・・。」

「かしこまりましたワン。」

ベロは、空間収納から、お土産用の白い紙の箱を2つ程取り出すと、暴れる王妃様に近付いていく。


「王妃様、これを。」

ベロが荒ぶる王妃様に恭しく箱を献上する。


「ベロちゃん。 何ですにゃん?」

「一つはいつものケーキ詰め合わせで、もう一つはウチの新作、ブリオッシュですワン。」

ベロがそう説明する。


「ブリウォッシュ? ブリを洗った物ですにゃん?」

お魚はトライデント近海で捕れますから間に合ってますにゃん。

王妃様は不思議そうな顔をしている。


「ブリウォッシュでは無く、ブリオッシュと言う甘めのパンですワン。」

ベロはブリオッシュについて語る。


ブリオッシュは、地球のフランスで誕生したパンで、現地では、水と塩、小麦粉を使った物がパンとされていた時代に、ブリオッシュはそれに、卵やバター、砂糖等を加える事から、お菓子として扱われていたらしい。

かの革命に翻弄された悲劇の女王も、「パンが無いなら、お菓子を食べればいい。」と言っていたのは、このブリオッシュの事を言っていたのではないかとの説もある。


あたしは、分けて食べやすいように、王冠型のブリオッシュを作ってみた。


「また来ますにゃん!」

そんな忍に引き摺られていく王妃様を見送りながら、あたしはトライデント王や王子、王女の為にケーキを買いに来た王妃様に笑顔で手を振った。


忍が戻って来た。

「あの、豚汁を10杯お土産に包んで下さいタヌゥ。」

仲間と頂くタヌゥ。

彼女は、代金を払い、品物を受け取ると消えるように居なくなった。

「王妃付きの影も大変ですわね・・・。」

ベロはそう呟いていた。


朝の営業が終わり、お昼になった。

パートのワンコ達には、交代で休んでもらい、あたしも腹ペコな妹達のお昼ご飯を用意する。


まあ、パッと食べてしまいたいので、作り置きなんだけど、今日はカレーライスに、手羽先揚げ、鶏唐揚げに、トマトとブロッコリー、パプリカのサラダに、冷たいお水を用意する。

サラダには、フレンチドレッシング、唐揚げにはレモン汁を用意した。

パートのワンコ達にも同じのを提供している。


妹達はスプーンとフォークを持ち、尻尾をブンブン振っている。


「頂きます!」

あたしも妹達のコップに水を注いでから、食べ始めた。


山盛りの唐揚げを頬張りながら、モリモリと食べるスゥの食べっぷりは凄いの一言だ。


彼女は、手羽先と唐揚げをこよなく愛している。

手羽先なんか、骨ごとバリバリ食べる。


あたしもだけど、ケルベロスは強靭な顎と、牙を持っているから、これぐらいは普通なんだよね。


妹スゥは、手羽先と唐揚げが好き過ぎて、ファランクス主催の早食いと大食い大会のチャンピオンに輝いている程の好物だ。


あまりの食べっぷりに、あたしの分の唐揚げを半分追加してあげる。


「バクバク・・・、ケルお姉ちゃん、ありがとー!」

うん、一杯食べな。


あたしは妹の頭を撫でる。


「わたくしも撫でて欲しいですワン。」

ベロの頭も撫でる。


あたしの可愛い妹達。

この可愛い妹達の旦那さんになる人は誰だろうか?

あたしはちょっぴりしんみりする。


まあ、今は色気より食い気なあたし達だから、あんまり考えないでおこう。


その時が来たら、あたしのお父さんが「僕を倒せないと、嫁にはやらんぞ!」って言いそうだ。


あたしのお父さんは有名な剣士だから、あれに勝てる人が居るのかは分からない。


クラーケンを食べたいが為に、斬撃で海を割るのはやり過ぎだとは思うよ。


そんなあたし達のお父さんは、お母さんが卑劣な輩の手に掛かって亡くしてから、暫く塞ぎ混んでいたらしい。


で、先に生まれていた子供も同じ者の手に掛かり、亡くしてしまったんだ。


あたし達?

あたし達は、居ない事になっていたから、お父さんも最初は知らなかったんだ。


あたし達も、他に兄弟が居て、それが亡くなっていて、更にお母さんも亡くなっていたなんて、知らなかった。


何年か経って、お父さんはあたし達が自分の娘だと知ったんだって。


その時には、お父さんを大事にしてくれる女性が居たから、あたし達はお父さんとは暮らさず、リリスと一緒に暮らす事を選んだんだ。


今は、お父さんには美人な奥さんが三人も居て、あたし達の腹違いの弟や妹達が沢山いる。


普通、奥さんは一人じゃないかって?

なんか、お父さんの氏族がお父さんしか居なくなってしまったみたいで、氏族保護法?みたいので、特別に奥さんを三人まで持つ事を許可されたんだとか・・・。


あたし達姉妹は、お父さんの血が流れている筈なんだけど、ケルベロスとかけ離れた姿をしているから、氏族にカウント出来ないって言われたよ。


まあ、見た目コーギーのあたし達じゃあ、それも仕方ないと思うよ。


なんて言うか、ケルベロスってのは、兎に角格好いいんだ。


藍色の毛なみをした、野生のオオカミみたいな鋭い感じ。

犬だけど・・・。

お父さんは、人化すると優しい感じのイケメンになるぞ。

頭は何故か一つになるぞ。

不思議だよな。


あたし達は迫力が無いし、可愛さの方が先に来る感じだもんな。


そんなあたし達姉妹だけど、お父さん達がたまにあたし達の顔を見に来るんだ。


そんな時は、チビ達の面倒を見たり、遊んだり、一緒に寝たりするんだ。

そして、お土産を沢山持たせて次に会う約束をするんだ。

帰りたく無いって言う子を宥めるのも、大変だよ・・・。


可愛いし、あたしも離れたくなくなりそうになるからさ・・・。

毎回精神的に来るものがあるんだよ。

あの、「また会えるけど、寂しいよ~。 きゅ~ん、きゅ~ん。」て、ウルウルした目を向けてくるんだよ。 


あたしも子供が欲しくなってしまうけど、あたしはまだ若いからね・・・。

 

おっと、午後の販売をしなくては・・・。



「ケルちゃん、ワシの孫とお見合いしないかの~?」

コボルトのおじいちゃんがまた孫を勧めてくる。


「おじいちゃん、お孫さんは女の子ですからダメですよ。」

あたしはおじいちゃんにそう返す。


「そうか~。 そうじゃったの~。」

ワフ~。


「もう、おじいちゃんったら! もう私は結婚していますワン!」

お孫さんらしきコボルトの女性がおじいちゃんを引き摺っていく。


あの、何か買うんじゃ無いのかな?

あたしはそれを聞けなかった。

次のお客さんが注文を待っていたからだ。


「ケルちゃん、携帯食糧でお湯に入れるだけで食べられるヤツって、まだ在庫あるワン? 仲間から聞いて初めて買いに来たワン。」

冒険者の格好をしたコボルトさんは、携帯食糧が欲しいみたいだ。 


「ありますよ。 雑炊になるタイプと、麺料理になるタイプ両方在庫がありますよ。」

あたしは携帯食糧をコボルトさんに見せる。


リリスが記憶を無くす前に製造してから、あたし達のお店の人気商品の一つになっている携帯食糧だ。


この商品は、スライムをベースにしたフィルムの中に、凍結乾燥させたご飯や麺、スープを閉じこめてあり、それを沸騰させたお湯に入れると、フィルムが溶けて、中身も水分を吸い込んで食べられるようになるんだ。


スライムは?

無味無臭で無害な物を開発したから、そのままフィルムを剥がさなくても安心だよ。


フィルムは水に溶けるんじゃ無いかって?

沸騰したお湯じゃないと溶けないように出来ているんだよ。


だから、川に落ちたりしても水を弾いてくれるから、安心だよ。

水を弾くのは、スライムが一定の温度まで耐えられる身体をしているからだと、ウチのリリスが言っていたよ。


あとは、この専用の箱に入れておけば、ホコリとかも気にならないよ。


あたしはコボルトさんの質問に答え、納得してもらう、携帯食糧とそれを入れる専用の箱を渡す。


「今回は初めてみたいだから、専用の箱に新作の『コカトリス出汁』の雑炊も付けておきますね。」

あたしはコボルトさんに、「気に入ったら、また買いに来て下さいね。」と笑顔を向けた。


「ま、また来ますワン・・・。」

コボルトさんは、何故か照れながら去っていった。


「ケルお姉ちゃん。」

「なんだ?」

「ケルお姉ちゃんは、自分がモテるって自覚したほうが良いワン・・・。」

スゥがジト目であたしを見る。

あたしはベロの方を見ると、彼女も大きく頷いていた。


そうなのか? あたしより、ベロやスゥの方が魅力的だぞ?


ベロはあたしよりグラマーだし、スゥは小さいけど、とっても可愛らしいし・・・。


まあ、あたしを可愛いと思ってくれるなら、嬉しく感じるよ。


あたしは、あたしのお店の商品を通じて笑顔になる人達を見るのが好きだ。


最初は妹達の為にオヤツのジャーキーや、ガムを作っていたのに、こうしてあたしの作った物で笑顔に出来るなんて考えていなかったんだよな。


「本日の携帯食糧と、ケーキ類は品切れの為、この後の営業は豚汁と手羽先揚げ、魔道具のみの販売になります!」

今日も沢山売れた。


お手伝いのワンコ達にお店を任せて、明日の分の用意と、数日後に出す加工品の仕込みをしておく。


特にケーキ類は、頑張って作らなくてはならない。


まあ、あたしを溺愛している豊穣の女神様と、スゥを溺愛している深緑の女神様達が沢山作ってくれているから、大丈夫だけど、後で沢山モフられるんだよな・・・。 


頑張ったご褒美は必要だよね。


あたしは、ジャーキーの仕込みを始めた。



お店の営業時間が終わり、夕飯の仕込みをする。


お手伝いのワンコ達と、女神様達、妹達の為に沢山作らなくてはならない。


皆沢山食べるから、沢山作らなくてはならない。


女神様達もお肉大好きだし、ワンコ達もお肉大好きな子ばかりだ。


ゴールデンカウのお肉があるから、ローストビーフ風と、サイコロステーキに、しゃぶしゃぶにしてみるか。


しゃぶしゃぶ用にネギと白菜、水菜、椎茸等も用意してと・・・。


ご飯も沢山炊いたし、そうそう、フライドポテトを用意しておこう。


以前、あたしはリリスに料理を作って貰っていた。


彼女の料理を美味しく食べていると彼女は嬉しそうに笑っていた。 


幸せそうな笑顔。

あたしも皆を笑顔に出来ているだろうか?

 

彼女の失った記憶の中にあった幸せな時間。


彼女はそれを忘れてしまったけど、あたし達は忘れてなんかいないよ。


楽しい事もあったけど、悲しい事の方が多かった彼女の人生。


彼女には辛かった過去なんか忘れて、今でも変わらないあの笑顔を浮かべて欲しい。


「ケルちゃん、妾はお腹がペコペコじゃ。」

あたしを可愛いがる豊穣の女神様は空腹が限界らしい。


「もうすぐ出来るよ~。 ベロ、スゥ、料理を運ぶの手伝え。」

「はい!」

「わかりましたワン!」



穏やかで幸せな日々。

リリス、あたしの飼い主。


「可愛いワンちゃん。 私はリリス。 何処にも行くところが無いなら、私の家で一緒に暮らさないかな?」

あの森で最初に出会った時に掛けられた優しい言葉。


「ケルちゃん、この世界は美しいね。」

記憶を失いながら、あたし達と再会した時に、あたしを優しく抱き締めながら、彼女が言った一言。


彼女に聞いても、「なんか自然と口にしていたよ。 何でだろうね?」と不思議そうにしていた。


そうだな、リリス。


この世界は厳しいけど、美しいな。

あたしもそう思う。

命が軽い世界。

だけど、この世界を命を懸けて守り通した女神様が居て、その女神様は皆に愛されている。


あたしは、今日も彼女が救ったこの世界で幸せに暮らしている。


あたしはケル。

ケルベロスのケル。


愛の女神様と暮らすケルベロスらしくないケルベロスだ。









 




お読み頂きありがとうございます。


この話は、作者の削除した作品のキャラが出ています。

多分あまり居ないとは思いますが、削除した作品を知っている方にしか、意味不明な物になっているとは思います。


削除した作品を直して、再投稿するには作者には時間が無いようです。


でも、少しでも残してやりたかったのです。

ただの自己満足です。

お目汚し失礼しました。

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