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Lost Destinies #2  作者: 騒男
2/2

長き夜

「な、なんだ…お前」

「…ただの盗賊さ」

 受告者は、4人の男達の前にいた。人質は1人、我ながらまずい状況に自分から飛び込んだものだと思った。人質の首元に短剣を突き立てる。一刺しすれば、確実に命を奪える箇所だった。兵隊時代の技術が役に立つなんて…受告者は目の前の男たちに目をやった。

「盗賊か…何が目当てだ。金か?」

中央の男の言葉を聞きながら、腕の中の人質にも注意を配る。筋肉質な体躯、荒い吐息、明らかに普通の村人では無かった。油断をしたならば、直ぐ様こちらが投げ飛ばされる。短剣を持つ右手に力を込める。

「山賊達の住処はどこだ」

受告者は声を低く、静かに聞いた。男達はやや驚きの表情を一瞬見せ、冷静に答えた。

「知る訳が無いだろう、我々は襲われている側だぞ」

「盗賊風情が、山賊に何の用だ」

男達が口々に怒鳴る。受告者は短剣の切っ先をさらに深く人質に突きつける。

「うぐっ!?た、助けてくれ!こいつは本当に殺す気だ!助けてくれぇ!」

「殺すなら殺せ!その代わりお前も無惨に殺してやる!」

「お、お前達…」

男達が汚い言葉で罵りだす。人質の男も口調が口汚いものへと変わっていった。村長らしき男は、徐々に荒れていく男達の口調に、動揺を隠せないでいた。

「どうする?」

 受告者は、ただ一言、こう言った。その次の瞬間、村長が何かを叫んだ。受告者は直ちに人質から離れた。離れ際に人質だった男の背中を強く斬りつける。

 男達が前から襲いかかる。受告者は飛鋲を投げつけた。飛鋲はそれぞれの男の腹部に突き刺さる。2人が怯む。近付いた男は覆い被さろうとしてきた。素早く身を伏せながら男の顔面を斬りつける。後は、村長を除き1人、他の男達はうずくまるか、顔を押さえており、戦意は失っていた。

「さあ、どうする。お前達のアジトはどこだ?教えたら、助けてやる。言わないなら探すまでだ。ここにいる全員を殺す」

 短剣が血で赤く、怪しく光る。切っ先は敢えて村長に向けた。脅しの意味も含めていたからだ。

「山賊に喧嘩を売って、大人しく死ねると思うなよ…この村の裏手にある山、その中腹だ。そこで殺してやる」

「お、おい私の計画は…」

「うるせぇ!まずはこいつを殺してからだ!お前の薄汚ねぇ計画なんて今はどうでも良いんだよ!」

受告者は2人が言い争い始めたタイミングでその場を後にした。後は、自分の作戦次第、そして長期戦になる。そして、今度は山賊達を全員、殺さなければならない。殺さなければ、この村は皆殺しに会うか、山賊の奴隷のような村になるだろう。何か村長が計画をしていたようだが、それは後だ。

 御告(みつげ)を受け、贖罪を始めた筈が、既に人を傷つけ、そして殺そうとしている。受告者はその矛盾に胸の奥が酷く締め付けられるのを感じた。


 夕方、受告者は鍛冶屋を訪れた。村では既に、村長宅を襲った盗賊を見つけ出せと数少ない健常な村人達が捜索を始めていた。受告者は、鍛冶屋の奥へと招かれた。

「やったな。村長はお前を探すのに躍起になってるぞ」

 鍛冶屋は出来上がった剣を渡しながら言った。受告者は剣を抜き放つ。サビ一つない、美しい刀身が姿を現した。

「ありがとう。良い剣になった。これなら安心して剣を触れる。少しだが、代金にして欲しい」

「本当に行くのか?」

「あなたと、マーベさんとの約束だから。それに…そうするために僕はこの村に辿り着いたのかも知れない」

「裏手から行きな。俺はマーベと共に教会に行く。山賊達も教会にだけは手を出さないからな。」

「わかった。神父様も、受け入れてくれると思います」

 受告者は剣を腰に差すと、鍛冶屋の裏口から山賊のアジトへ向かった。


 アジトは、大きな洞窟を中心にして、四方に物見櫓(ものみやぐら)を備えていて、小規模な軍の基地の様だった。既に襲撃に備えているのか、火を焚き、数名が監視・巡察を行なっていた。皮肉にも、自らの村長宅襲撃により山賊達をアジトに足止めしており、今、村は安全となっていた。そして、この山賊達の厳戒態勢により村長と山賊達が何かしかの関係を持っていることが明らかになったのだ。村人の中に誰かそれに気がつく人がいれば…受告者は思った。

 鍛冶屋が渡してくれた鉄の弓矢を構える。美しくしなる鉄、鉄の弓矢を作るには優れた冶金の技術が必要だった。当たり前にこの弓矢を作れる辺り、あの鍛冶屋は優れた技術を持っているのだろう。

 狙いを物見櫓(ものみやぐら)の一人に定める。これを放てば、戦いが始まる。覚悟を決めた瞬間、受告者は矢を放った。矢は狙い通りに飛び、物見櫓(ものみやぐら)の山賊の頭を貫いた。山賊が声なくそのまま絶命したのが幸いした。辺りに気付いている様子は無かった。

 場所を変える、地面に降りる事なく、木を伝った。最初に狙撃した櫓に辿り着く。やはり、監視の賊は死んでいた。刺さっていた弓矢を引き抜く。次の狙いは、もう一つの櫓だった。四方の内、まず2つの監視を潰す事でその地域を孤立化し、作戦を容易にする。兵士であった時に教わったことだった。

 狙いを定める。次は明確に狙いを定める事ができた。ハッキリと目標が見えた。受告者は、弓矢を放った。


「な、なんですと…」

神父は愕然とした。村を出たと思っていたあの旅の受告者が、今山賊と戦っている。駆け込んだ鍛冶屋から聞いた話だった。確かに、いつもならもう襲いにくる程の時間、それが無いことに神父は気付いた。

「とりあえず、しばらくここにいさせてくれ神父様。あの旅の野朗は村長の家を襲ってる。山賊とつるんでるって言う噂を確かめに行ったんだ。下手したらアイツの剣を鍛えた俺も捕まっちまう。」

「…分かりました。教会の奥に寝室があります。そこを使うと良い」

 給仕に案内をさせた。神父は、神の偶像に手を合わせ祈った。人知れず、ただ一人で山賊達と戦う旅の受告者の無事を


「くそ、どこに行った!?」

「周りに注意しろ!」

「もう7人やられた!弓矢を使うぞ!」

 弓矢を打ち尽くした。山賊達が口々に叫ぶ。辺りは殺意に満ちていた。軍にいた時以来の久々の感覚だった。受告者は、木の上から襲いかかるタイミングを静かに待った。

 剣はまだ抜かない。焚き火の火に反射し、敵に気付かれてしまう。抜くのは敵を斬る時だけだった。

 山賊が近づく、受告者は狙いを定める。近付いて来たのは2名、自分がどう戦うかをイメージする。一瞬が勝負、二名以上に敵が増えれば一気に自分が不利になる。会敵した瞬間に勝負を決める必要があった。

「くそ…どこにいやがるんだ…」

山賊の呟きが合図になった。一気に地面へ飛び降りる。

「なっ!?て、てめ、…」

 短剣で喉を一息に掻き切る。もう一人にはそのまま短剣を投げつけた。胸に深々と刺さる。山賊二名はそのまま動かなくなった。

 恐らく、朝に倒した5名を加えるとこれで14名となる。聞いていた数から、そろそろ山賊も戦う力を失い始めている筈だ…、受告者はアジトの深くへ侵入する。

 洞窟へ入ろうとした瞬間、受告者は殺気を感じた。次の瞬間、身の丈はある巨大な斧が襲いかかってきた。間一髪でかわす、斧は洞窟の入り口付近を荒々しく砕き、突き刺さった。

「随分と暴れてくれたじゃないか…お陰で俺達一族はボロボロだ。また仲間を集めなきゃならん。せめてお前を殺して村に晒さないと仲間集めも出来んなぁ。村長の野朗にまたけしかけなきゃな。」

「…」

 今までの山賊共と明らかに違う。恐らくは頭目か、山賊内で最も強い者、受告者は剣を抜いた。

「なんで俺達を襲った?恨みか。だがお前の顔に見覚えがないな…」

「ただの、自己満足さ」

「殺す事がか?はっ!?俺達は奪うが殺さない。お前は殺す事で満足を得るのか!?とんだ極悪人だ!」

 斧が再び襲いかかる。かわすがまるで自分に吸い付く様に引き続き斧が襲いかかる。間一髪、受告者の髪が僅かに揺れた。

「さすが、人殺し様だ。戦い慣れてる様だ。弓も使えるようだな。仲間にしたい位だ」

「下衆な山賊に身をやつしたくは無いね」

「下衆な人殺しが、山賊を下衆と言うかよ!」

山賊が大きく斧を振りかぶった。受告者は飛鋲を投げる。山賊の腹部に深く突き刺さった。

「うぐぁっ!?て、てめえ!」

 間髪入れずに短剣を投げつける。短剣は胸に命中した。山賊の身体が赤く染まる。

「ぐ…こ、この」

 最早山賊に戦う力は無い。受告者はそれでも最後の一撃、山賊の喉を剣で切り裂いた。

「か…け…ひゅ…」

 力無く、山賊は倒れた。血が地面に広がり赤く染め上げる。辺りは静まりかえっていた。受告者は、洞窟の中へと入った。最後の5人を殺すためだ。

「な、なんでここまで!?」

「外の奴らは!?」

 朝、負傷を負わせた5人がそこにはいた。怪我人を戦いに参加させない位の情けも、山賊にはあったのか…。受告者は一抹の不快感を感じながら、残りの5人に刃を振り下ろした。


 朝、村は穏やかに目覚めた。村中から聞こえた筈の悲鳴や泣き声は一切無かった。代わりに、縄で縛られた村長が教会の前に放り出されていた。

「わ、私は村の人口を増やし、山賊達を自警団にすべく交渉していたのだ!」

 そう主張したが、その実、山賊と結託し、村の女達と食料の見返りに、山賊内での地位と、村での権力の維持を図っていたことが、村人達の取り調べで明らかになった。

 村長は、石打に処され、遺体は村の広場に6日間晒されて死しても石を打たれた。

「村は助かりました。…悪人ですが、酷い有様ですね」

「あなたは石打には?」

神父と鍛冶屋が話をした。鍛冶屋は顔をしかめて答えた。

「やりません。俺は、奪ったり殺したりしたくない」

 神父は悲しい顔をしながら、未だ血の跡が残る広場を、そこに意を介さない人々を見た。

「奪われていました。だが、我々も奪ってしまいましたね」







 姿を見せる事なく、村を去った旅の告人、あなたも奪い、殺したのでしょう。私達の為に。ですが、私達も、山賊達と同じだったのかも知れません…、晴れた空の下、いずこかを歩く受告者を思いながら、神父は手を合わせ、祈った。

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