ライノ先輩に呼び出される。
「今日は楽しかった?」
結局あの後前回同様、ライノ先輩はエリック様と一緒にどこかに行ってしまい、私とスヴィーは真っ直ぐ寮に戻った。
浴室で汗を流してから着替えて、私はスヴィーに聞いてみた。
「うん。楽しかった。多分、エリック隊長を悲しませるようなことはしていないと思う」
そうだったらいいけど。
何かお邪魔しちゃったけど、私たちの邪魔がなければもっと楽しかったかもしれない。
私はそう思ったけど、スヴィーは違ったみたい。
「木こり亭に来てくれた助かったわ。何を話していいかわからなかったから」
「そうなんだ。エリック様はちょっとがっかりしてたみたいだけど」
「そうなの?」
「うん」
あんな分かりやすいのに、なんでスヴィーはわからないの。
エリック様の思いはスヴィーに届いてのないんだろうなあ。ああ、なんて切ない。
「そういえばライノ先輩、嬉しそうだったわね」
「嬉しそう?」
「気がつかなかったの?あんな貴重な笑顔、あれは百年に一度の奇跡かもしれないのに」
「あ、あの笑顔ね」
「メルヤが食べてくれるのが嬉しかったみたいね」
「え、その笑顔なの?」
「そうでしょう。どうしてわからないの?」
えっと、それは私もさっきあなたに対して思ったことなんだけど……。
それからスヴィーは、ライノ先輩のことを色々言っていたけど、さっぱりよくわからなかった。
ライノ先輩の表情って分かりづらいもん。
「もしかして、スヴィー。エリック様じゃなくて、ライノ先輩が好きなの?」
「そんなことあるわけないでしょう」
「だったらエリック様」
「それも違う!」
私とスヴィーはよくかみ合わない会話をしながら、その夜をすごした。
でもやっぱりスヴィーはエリック様のことを好きじゃないのか。
……だったら、私がアピールし続ければいつかエリック様が振り向いてくれることがあるのかな?
そんなことを思ったけれど、その先のことが全然想像できなくて、ちょっと驚いた。気持ちが通じたら、私は何をしたいんだろう。
付き合いたい?それは違う気がする……。わからない。
☆
私の同期と後輩たちは、王宮警備から外れるから自由が多い。忙しい時は魔物退治に借り出されたりするのでだけど、あの巨大オオカミ以降退治案件はないようだ。
先輩たちにも仕事を押し付けられない私たちは魔術師団の訓練所で、それぞれ魔術の練習に励む。
「メルヤ先輩、やっぱり凄いです!」
炎の魔術で魔物に見せかけた木の模型を燃えつくすと、後方から歓声が上がった。
「ありがとう!」
褒められるのはやっぱり嬉しい。
「だけど、細かい芸当ができないんだよなあ。メルヤは」
「煩いなあ。魔物相手に細かい魔術は必要ないでしょう」
「確かに、魔物相手にはな」
横槍をいれたヘンモが頷き、私は彼に場を譲る。
次は彼の番だ。
ヘンモはあれから私がなぜ男性寮、ライノ先輩と一緒にいたのか聞いたこない。それはそれで別にいいけど、なんだか釈然としない。
「じゃあ、俺は水の魔術を」
新しく用意された的に向けて、ヘンモが術を繰り出す。
「水よ。力を見せよ。凍らせよ」
「馬鹿!」
手のひらは的に向いている。
だけど、その詠唱は危険だ。
私は咄嗟に「炎よ。我らを守れ」と唱え、私の前に壁をつくる。
「やべっつ!」
ヘンモをやっと気がついたようだけど、遅すぎる。
訓練所の半分が凍ってしまった。
「スヴィー。解凍よろしく!」
私は治癒の魔法が苦手だ。だから私の炎の壁で守りきれなかったり、自分で防御できなかった子たちの解凍を頼む。
「まかせて」
スヴィーは自分で勿論防御できていて、早速解凍作業にはいる。ヘンモもそれに加わり、私は解凍された子たちに温かい飲み物を用意することにした。
そうして、午前中はばたばたと過ごすことになってしまう。
「……メルヤ。少し話したいことがあるのですが」
食堂で昼食を食べているとライノ先輩に声をかけられた。妙に緊張している風で、私もぎこちなく頷いた。
がんばって、とスヴィーに声援をかけられたのはなぜだろう。
やっぱり怒られるのかな。今日のことはヘンモのせいなのに。しかも私だけ呼びされるのは腑に落ちない。
変な緊張が、怒られるかもしれないという緊張に代わり、私はライノ先輩の後に続いて、食堂を出た。




