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エリック様の困った顔とライノ先輩の笑顔

魔術学校は一学年が二十人で、八学年あるから百六十人くらいだ。

 ライノ先輩は私より五つ年上で、二学年の時に当時十五歳、七年生だった先輩を見て、こんな綺麗な人がいるのかと思った。

 まあ、実地を教えてもらうことになった時に、惚けた私を殴りたくなったけど。

 その時から、ライノ先輩は私を見るとなにやら嫌味?小言をぶつけてくる。まあ、どれもおかげさまで役に立つものばかりで、多分首席で卒業できたのは先輩のおかげかもしれない。

 

「さすが、ライノ先輩」

 

 必要ないと判断された紙を一斉に風の魔術で袋の中に入れたのを見て、私は感嘆する。だって、私がしたら多分紙は部屋中を散乱するだけだろう。


「これは初歩の初歩ですよ。メルヤ」

「……分かっています」


 褒めたのに返しは小言で、なんだから褒めた自分が馬鹿みたいだ。


「じゃあ、後はお願いしますね。これを外で燃やしてください。焼却炉の中で燃やすのですよ。わかりましたね」

「わかってます!」


 私だって自分の魔術の威力がどれくらいかは分かってる。

 紙の入った袋を掴むと、部屋の外を出た。


「あれ?メルヤ?なんでここに?」


 部屋から出ると、同期のヘンモに出くわした。

 うわ、なんて運が悪い。


「それは、」

 

 ライノ先輩の部屋の片づけを手伝っている、と答えようとしたのだけど、ヘンモの表情が突然固まる。


「ははは。余計な詮索はしないほうがいいよな。じゃあな。また」


 ヘンモはなぜが怯えるように来た道を戻ってしまった。


「おかしいですね」


 背後から聞こえてきたのはライノ先輩の声で、ヘンモが怯えた理由がなんとなく想像できる。だけど、いや、別に怯えてなくても?ライノ先輩って普段から無表情だし。


「早く燃やしてきなさい。それが終わったら木こり亭に行きましょう」


 木こり亭!

 忘れそうになっていた。

 後が怖いけど、もう決定事項だし、楽しむしかない。

 美味しいものを奢ってもらおう。でも一番安い奴で。



わざと?

多分、ライノ先輩はわざとだ。


木こり亭に行くと、エリック様とスヴィーに鉢合わせした。

スヴィーは嬉しそうに小走りにやってきて、引きつった顔のエリック様の席へ連れて行かれる。


「偶然ね。ライノ先輩に連れてきてもらったの?」

「うん。片づけを手伝った報酬だって」

「そうなの」


 エリック様の隣には当然とばかり、ライノ先輩が座り、私はスヴィーの隣――先輩の真向かいに座る。

 ちらりとエリック様の顔を窺うと、ちょっとだけ困ったような顔をしたのを見た。

 なんだかごめんなさい。なんでライノ先輩は!


「シフォンケーキのクリーム添えが物凄く美味しかった。ケーキもクリームもふわふわなの」


 今日のスヴィーは意地を張るのをやめたらしく、蕩けそうな顔をして美味しさを語っている。それを眺めるエリック様の顔もなにか蕩けそうだ……。

 ライノ先輩、これって新手のイジメですか?

 思わず前に座る先輩を睨むと、少しだけ表情が動く。黒い瞳が揺れた気がした。


「ライノ先輩……?」

「ライノ。ここの珈琲は渋めが丁度いいんだ。珈琲なんて置いているところ少ないだろう。試してみろ」

「……そうします」


 瞳が揺れた気がしたけど、気のせいだったみたい。

 いつもの通り無表情のままライノ先輩は答えていた。

 それから私はスヴィーお勧めのシフォンケーキセットと紅茶、ライノ先輩は珈琲とシフォンケーキを頼む。


「もしかして甘いの苦手なんですか?」


 シフォンケーキはめちゃくちゃ美味しかったのだけど、ライノ先輩は一口食べると珈琲だけを飲んでいた。なので思わず聞いてしまった。


「苦手なものなどありません。ただ思ったより甘かっただけなので珈琲を先に飲むことにしたのです」


 それって苦手ってことじゃ。

 この間のパンケーキはそんなに甘くなかったもんね。


「ライノ先輩。私が食べてもいいですか?」


 なんて食い意地が張って、と返ってきそうだったけど、先輩はびっくりしたような顔をしたほど、見たことも無い笑みを浮かべた。


「いいですよ。どうぞ」


 微笑は一瞬だったけど、その破壊力は凄まじく、隣のスヴィーも固まってしまった。


「いらないのですか?」

「いります。ありがとうございます!」


 黙っている私に対して表情を戻した先輩が、聞いてくる。

 慌てて答えると私はライノ先輩のシフォンケーキも美味しくいただいた。


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