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ライノ先輩は所謂「魔王」に似ているような気がする。

「スヴィー。ちょっと話があるから」

 

 食事の後、妙な雰囲気が続き、結局そこでお出かけは終わりになった。どうせ宿舎に戻るのだからと、ライノ先輩は私たちを一緒に帰るのかと思ったけど、先輩はエリック様とどこかに行ってしまった。

 その背中を見送った後、私はスヴィーをお茶に誘う。

 あのパンケーキの果物添えで足りなかったとかそういう訳ではなく、スヴィーと話がしたかったからだ。


「美味しい!」


 お菓子はどんなにお腹いっぱいでも入る、所謂別バラという奴だ。

 スヴィーもそうみたいで、私たちはお茶と一緒にアップルパイを頬張っている。


「スヴィーは甘いもの好きだもんね」

「ごめん」


 嫌味のつもりはなかったけど、幸せそうにアップルパイを食べている様子に思わずそう言ってしまった。とたんにしゅんとしてスヴィーが肩を落とす。


「どうして嘘をついたの?」

「それは……」

「わかってる。私に気を使ってでしょう?他にもエリック様が聞いているのに、答えなかったり、私に答えたり、酷かったよ。本当」

「ごめんなさい」

 

 スヴィーは小さくなって泣きそうだ。

 周りから視線を感じ始めるくらいで、私はいい過ぎたと溜息をつく。


「私はそんな風に気をつかってほしくない。エリック様が悲しそうにしているとこっちまで悲しくなるし」

「……悲しそうにしてた?」

「うん。物凄く」

「悪いことしたわ」

「そうよ。だから次は二人だけで出かけてね」

「え?」

「今日ははっきり言って全然楽しくなかった。ライノ先輩もいるし」

「ライノ先輩!それには私もびっくりしたわ。……二人とも同期で親しそうだから、よく考えればわかることだったのに、ごめんね」

「謝ることはないよ。まあ、ライノ先輩には服も買ってもらったしね」

「ライノ先輩、趣味いいよね。前からそんな服、きっとメルヤに似合うと思っていたんだ」

「本当?おかしくない?」

「おかしくなんかない。可愛い」

「可愛いとか、言われたことないよ」

「メルヤは可愛い。なのにエリック隊長は……」

「スヴィー。だから私のことは考えないでよ。そんな風に気を使われて好きになってもらっても全然嬉しくないもん。恋は自分で勝ち取りたいのよ」

「……メルヤは凄い」

「だから凄くないって。スヴィー。お願いね。今度は二人だけで出かけて」


 エリック様の今日の悲しい顔を思い出して、私は次の二人のデートのことを考える。二人でデートなんて羨ましいって気持ちはあるけど、私のせいでスヴィーが変な態度をとって、エリック様を傷つけるのはいやだった。

 あと、スヴィーは絶対にエリック様のことが好きだと思う。

 言っても認めないと思うけど。

 勝負は公平に。

 スヴィーがエリック様に好かれてる時点で勝敗はないけど、卑怯な手は使いたくないし、好きになってもらうなら、自分の力で頑張りたいから。


「明日にでもエリック様に話してみるから」

「メルヤ!」

「今度は逃げないでね。二人だけで。これは私からのお願い」

「……わかったわ」

「あと素直になってね」


 そう続けるとスヴィーは物凄い嫌な顔をした。


 ☆


 騎士団がシフトを組んで王宮を警備するように、私たち魔術師団もシフトを組んで王宮警備に当たる。けれども担当する者は入団してから三年たった魔術師ばかりだ。

 私とスヴィーはまだ二年目なので、王宮警備の仕事はなくて、魔物退治の際の助っ人として借り出されるだけだ。なので意外に暇で、自分たちで訓練をしたり、後は先輩たちの手足をとして使われる……。


「それでは今日はよろしく頼みます」

 

 私は今、ライノ先輩の部屋にいる。

 一人部屋で、私とスヴィーの部屋と大きさは同じだ。彼女は私と違って実家が王都にあるから、家に戻れるのだけど、彼女の希望で寮住まいだ。別の子と同室になるよりよっぽどいいけど、実家のご両親は心配してるんじゃないかと思っている。

 手紙を頻繁に書いているのをみて、その返事もかなりの数だ。

 スヴィーはちょっと怒りながらいつも返事を書いている。

 話はそれてしまったけど、なぜ私がライノ先輩の部屋にいるのか、それは先輩の部屋の片づけを手伝うためだ。ベッドと机以外は踏み場がないくらい、本や紙が散らばっていて、先輩の印象がちょっと変わった。

 魔術の本ばかりなので、私の役にも立つからと無理やり片づけを押し付けられた。私以外にも同期の魔術師はいるのだけど、服を買ってもらった御礼は?と圧力をかけられ、頷くしかなかった。

 ちなみにスヴィーも同じなのだけど、彼女はエリック様とデートだ。

 今頃楽しんでいるのか、それとも素直にならないスヴィーがエリック様を困らせているのか、実は気になっている。


「……気になりますか」


 まずは、本と紙をそれぞれ一箇所に纏める作業をしているとライノ先輩に聞かれた。

 本当にこの人は時たま心を読めるのかと思うときがある。


「何がですか?」

 

 何か心を透かされているようでムッとして返すと、先輩が急に近づいてきた。そして私は頬に両手を当て、じっと見つめる。黒い瞳、本当に真っ黒で感情が読み取れない。っていうか、物凄く近くて何かどきどきするんですけど。顔だけはいいから。ライノ先輩。

 先輩はしばらくそうしていたけど、溜息をつくと私から手を離す。


「本当……。まあ、いいですけど。今日は頑張って働いてもらいます。報酬に木こり亭のケーキセットを奢ってあげましょう」

「いいんですか!?」


 木こり亭は貴族御用達の喫茶店で、値段が高めで外からしか見たことがない。スヴィーはきっと行ったことがあるんだろうけど……。魔術学校に通っていた頃、噂で木こり亭のケーキセットは伝説級の美味しさだと聞いたことがあるんだよね。値段を聞いて目が飛び出すかと思ったけど。

 えっと、待て私。

 また貸しを作ったら、何か押し付けられるんじゃないだろうか。無料ただより高いものはないしね。


「ライノ先輩、報酬は要らないですよ。ほら今回だって服を買ってもらった御礼ですし」


 幻のケーキセットのことを思いながらも、はっきり断る。

 すると先輩は嫌な顔をする。普段無表情のライノ先輩の不機嫌顔は空恐ろしい。余にいう魔王って奴がこういう顔じゃないだろうか。

 ちなみに魔王っていうのは、魔物の頂点に立つもので、噂によれば、二つの姿を持っていて、魔物の王としての異形の姿、もう一つは偉く綺麗な姿らしい。


「私に奢られたくないのですか?この私に?」

「いえ、そんなことは!」

「それでは、片づけが終わったら行きましょう」


 結局魔王みたいなライノ先輩に押し切られて、行くことが決まってしまった。




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