ゲームならここでOPムービーが流れると思う
さて、まるで大団円で終わったかのような雰囲気を出したが話は全く終わっていない。
そもそもどうして俺が恋人関係を解消したかったのか。
そう、目立ちたくなかったからだ。
男子から嫉妬の視線を浴びたくなかったからだ。
女子から奇異の視線を向けられたくなかったからだ。
俺はクラスでぼっちだ。
しかしそれに劣等感を抱いた事は無いし、辛いと思った事も無い。
誰に邪魔されるでもなく、一人でいる時間を謳歌していたと胸を張れる自信がある。
だからこそ佐々木佐紀という、カースト上位勢とのそういう関係は面倒以外の何物でもなかった。
佐々木さん自体に思う所があるわけではない。
彼女がもし目立たない、言ってしまえば地味な女子であったなら俺も純粋に恋愛に興味を抱いたかもしれない。
けれど彼女は目立つ。
整っているその顔立ちが、明るく元気なその振る舞いが、分け隔てないその優しさが。
周りの人間を惹き寄せてしまう。
それは俺に無い物で、不要なものだ。
何度も言うが俺は一人が嫌いじゃない。むしろ好んですらいる。
だというのに。
「鈴木って見た目に似合わず結構食べるのね」
「男子が健啖なのはいいことだよ」
「男の子のお弁当ってやっぱり大きいんだね」
何だ、この状況。
一体何がどうして女子三人と教室で弁当広げて食っているんだ?
おかしいよね? 無かった事にって言ったよね? 俺達は知り合わなかったって事じゃないの?
「えっと、何で一緒に食べる必要が?」
思い切って聞いた。
俺以外おかしいと思っていないみたいだから自分で聞くしかない。
おいやめろ大宮、その唐揚げは俺のメインだぞ!
「はぁ? 別に友達同士で食べるなんて普通でしょ」
箸で掴んだ俺の、俺の唐揚げを揺らしながら大宮はそう吐き捨てた。
こいつ、俺のメインを弄びやがって! なんて女だ。
「京子、行儀が悪いよ。というか人の物を勝手に盗らない」
「ふぁーい」
頬張りながら返事をする辺り、改善の兆しは無さそうである。
「で、鈴木くんの質問だけど」
「あ、はい」
大宮の口へ消えていった唐揚げから視線を外し、小南さんへと向き直ると。
……それはそれは不思議そうな顔をしていた。
「質問で返して申し訳ないけれど、どうしてそんな事を聞くのかな?」
本当にわからない、という様子だ。
いつもの笑みは影を潜め、困惑の表情。
「例のアレは無かったことにするんだろ」
できるだけ声を潜めて確信をつく。
内容が内容だ、ぼかしてはいるが邪推する人間が居てもおかしくはない。
ただでさえ視線を集めている。警戒するに越したことはない。
これ以上俺の平穏を崩してたまるか。
「ふむ」
思案げに顎に手を当てる小南さん。
なんとも様になっている。
「それはそれ、これはこれだよ鈴木くん!」
そこで佐々木さんが乱入。
しかもかなり返答に困る答えを携えている。
「そんな、よそはよそ、うちはうちみたいに言われても」
「……何、私達と食べるのが嫌なわけ?」
「なるほど、実は私達は嫌われていたという事かな」
「そう、なの?」
教室の空気がざわついた。あきらかに視線が俺に集中している。
おいやめろください。ただでさえ針のむしろなんだからそんなこと言ったら火に油どころの騒ぎじゃない!
「ち、違う違う! そんなわけないだろ!」
しまった。思ったより声が大きくなった。
「なら問題無いじゃない」
「問題、無いね」
「よかったー!」
三者三様の反応を返すが、一人だけ肩が震えている。
小南さーん? 人をからかうのは良くないですよー?
「はぁ」
俺のここ数日の悩みは解消した。それは間違い無い。
しかし根本的な所はもはや手遅れレベルで解決不可能である。
どうやら彼女達の認識では、既に鈴木次郎は友達にカテゴライズされているらしい。
晴れて上位カースト勢の仲間入りである。
意味ねーじゃん! 関係リセット無意味じゃん!
むしろ悪化してるよ、何この展開! 責任者出てこい!
まるで学園モノで定番の、テンプレハーレム展開。
例に漏れず、彼女達はタイプは違えどみな大層なべっぴんさん。
分不相応な俺がそこへ収まるのもまさにテンプレ。
これから彼女達と交友を深め、あわや本当に恋人になったりするのがお約束。
この流れに身を任せるしか無いのだろうか。
俺にはもう、孤独の学校生活は訪れないのだろうか。
「これからよろしくね」
二度目になるその台詞を聞きながら、俺はこれからの学校生活を憂いた。
「おい、最後の唐揚げまで持ってこうとするな」
「チッ」
マジで不安だわ。