シリアス先輩が通る!
「単刀直入に言うわ。佐紀から告白された件、あれ忘れなさい」
「は……?」
昼休み、俺は彼女の友人である大宮宮子にそう告げられた。
「忘れろって、無かった事にしろとかそういう?」
「その認識で間違いないよ」
次いで小南さんが返事を返す。
どういうことだ。罰ゲーム云々とは違うみたいだけど、そもそもなんでこの二人が出てくるんだ。
「説明、してもらっていいかな。佐々木さん」
ともかく、本人に聞かない訳にはいかない。
というかそれが一番手っ取り早そうだ。
大宮さんはまるで親の仇みたいに睨んでくるし、小南さんはこの状況で尚笑みを受かべている。
大方、一時の気の迷いだったのを取り消したいが、言いづらいから友達に頼んだ、とかそんな所か?
「うん……あのね」
そうして佐々木さんはぽつぽつ話し始めた。
予想は正しかった。
曰く、あの時は勢いのまま告白したのだと言う。
告白の経緯に嘘は無いけれど、いざ冷静になってみれば何故そうしたのかわからない。
鈴木次郎という男の事は殆ど知らない。話したことも無い。
ただ目に付くようになった、追いかけるようになった。
でもそれだけ。
それが恋なのだと勘違いしていただけなのだと。
「佐紀はモテる、けれど恋をしたことはまだ無いんだ」
「それがどういう物かわからないから、それっぽいのに勘違いしたのよ」
「なるほど」
ここまで聞かされ、二人に補足され、ようやくわかった。
なぜ俺だったのか。
答えは簡単で、たまたまだったのだ。
たまたま俺が目に付いて、たまたまそれが気になった。
要は誰でもよかったのだ。
なんにせよ。
「わかった、ならあれは無かった事にしよう」
俺からすればありがたい話だ。
相手の方からそう言ってくれるなら是非もない。
断る理由は無いのだから。
複雑だけどね? 告白されて嬉しくなかった訳じゃないし。
「……ごめんなさい」
「いいよ、俺だって身の程はわきまえてるつもりだし」
はっきり言って、彼女と俺では釣り合わない。
別に自信を卑下するつもりはないが、言うなら畑が違う。
彼女が色とりどりのフルーツだとするなら、俺は稲や粟と言ったところ。
まさしく畑違い。けっして交わらないのだ。
「驚いた、てっきりごねると思ったのに」
「そう? 私は丸く収まると思ってたけどね」
驚く大宮さんとは対照的に、まるで予想通りの結果と言わんばかりの小南さん。
なるほど、さっきの表情はそういう事だったのか。
「本当に、ごめんなさい」
もう一度、佐々木さんは深く謝罪を述べる。
俺としては気にしていないし、むしろありがたいのでそこまでされると逆にこちらが申し訳なくなってくる。
「あー、コーヒー」
「へ?」
「缶コーヒー一本でチャラってことで、どう?」
なんとか場を和ませたくてそんなことを言ってしまう。
やっちまったー! つい佐久間と同じノリで言っちゃったよ!
なんだよ缶コーヒー一本でチャラって、クサすぎるだろ!
「う、うん、それで許してくれるなら!」
「いや、女子に奢らせるってどうなのよ」
「なかなかどうして、鈴木君は面白いね」
佐々木さんは至って真面目な顔。
大宮さんは呆れながらも笑みが浮かび、小南さんはくつくつ笑っている。
思いの外効果はあったようで、少し張っていた空気が弛緩する。
当初の予定とは全く違う結末。
けれど円満な解決には違いないなと。
俺は心の中で安堵するのだった。