しかし扉は閉じられた
そして放課後。
いや、あれ? 放課後? その間のなんやかんやは? と思ったろう。
結論から言おう。何もなかった。
本当に、何にも、無かった!
佐々木さんから何かアクションがあるかと思ったがそれも無し。
というか挨拶もされなかったよ。仲良くお友達と談笑しておられましたよ。
マジ何なの? 放置なの? 放置プレイなの?
釣った魚に餌はあげない派閥の方ですか?
でも正直助かった。
今までろくに絡みのなかった彼女に挨拶されて、どころか仲良く談笑なんてしようものならクラスで注目の的になることは明らか。
そして話題の中心は俺となり、彼氏だと言うことがバレ、俺のあだ名はキングオブ童貞に。
そんな事態はノーセンキューだ。
俺は騒がしい俗世から離れてひっそりと生きたい。それは田舎のバス停の如くひっそりと。
少し、ほんの少しだけがっかりしたのは確かだが、そう考えれば結果オーライ。俺はこのまま帰るとしよう。
何か佐々木さんに用事があったような気がするが、それはまた機会があればということで。
「……ん?」
手紙だ。見覚えのある封筒。
俺の下駄箱に置かれていたそれはあの日、佐々木さんに呼び出された時のものと同じだった。
「今どき連絡手段が手紙ってどうなんだ」
面と向かって話すよりは緊張しないので俺的にはありだが、若者としてどうなんだ。
「また教室に来てください、と」
内容も前と変わらず、告白された空き教室へ呼び出しの内容。
大方、俺との交際を知られたくないからこうやって密会をセッティングしているといったところだろう。
超助かる!
彼女の普段を考えれば、気にせず教室で話しかけてきそうなものだが。
まぁ、相手が俺だしね。仕方ないね。
今来た道を戻り、自分の教室を通り過ぎて、たどり着いたが目的地。
「……よく考えたら教室で二人きりなんだよな」
扉の前で、今更な事実に気がついた。
何かするわけではないし、彼女は当然そんな事考えていないだろうけど、なんとなく緊張する。
というか告白の時もそうだったんだからマジで今更だな。
「ふぅ、よし」
本日2回目、扉の前での精神統一。
一回目の時より手は軽く動いた。
そして時間が経ったからだろう。俺はすっかり忘れていた。
佐久間に言われた事を。
「やぁやぁ鈴木くん、遅かったね」
「ホントにね、すっとろいの見た目だけにしなさいよ」
「あ、あはは、ごめんね鈴木くん、また来てもらっちゃって」
教室の中には、佐々木さんと女子が二人おまけで待ち構えていた。
この二人はよく知っている。
今日も朝、佐々木さんが談笑していた二人。
目つき鋭く、性格物言いすべてが尖った大宮京子。
「何固まってんのよ、キモ」
芝居がかった口調で、いつも微笑みを崩さない小南……名前なんだっけ。まぁいいか
「とりあえず中に入ったらどうだい?」
そして俺の彼女、佐々木佐紀は困ったようにはにかんでいる。
「あはは……」
あまりにも不意打ちすぎてたっぷり数秒硬直した後、俺はようやく口を開いた。
「すいません、間違えました」
扉を締めて、俺はそのまま逃げるように駆け出した。