闇の扉を開く勇気はまだ無い
「…………」
休み明け、教室の前で佇む男が一人。
キングオブ童貞こと鈴木次郎。
怖い。
入った瞬間、殺意の波動に目覚めた男達に睨まれると思うと扉を開ける気にならない。
ついでに佐々木さんと会うのも怖い。
どう挨拶しようとか何を話せばいいとか。
あとは佐久間の言っていた事とか。
回想―回想―回想―回想―回想―回想―回想―回想―回想―回想
「思い立ったが吉日、とりあえずメッセで聞いてみようぜ」
「あー……」
メッセ、メッセージね、うん。そうね
「知らない」
「は? お前佐々木さんに聞いてない、というか聞かれなかったわけ?」
「あの日は逃げるようにして帰ったから」
そう言えば佐々木さん、何か言いたそうにしてたようなそうでもないような。
「マジかよ、幸先悪いなー」
「まぁ明日聞けばいいだろ」
「聞けんの? お前に?」
「おいおい、いくらなんでも馬鹿にしすぎだろ。それくらい俺でも聞けるっての」
簡単なもんだよ。
連絡先交換しよう、とでも言えばいいんだろ?
「ふーん」
「……なんだよ?」
急に目を鋭くさせた佐久間が意味ありげに俺を見る。
やめろ、見るな。 俺をそんな目で見るな!
数少ない友人のお前にそんな目で見られたら人間不信になるだろ!
「いや、もしかしたら最悪のパターンもあるかもってな」
「最悪のパターン?」
「罰ゲーム」
「ゴフッ」
真剣な顔で、佐久間はそう呟いた。
罰ゲーム。それは古来より遊戯の神と称された王が、勝負に負けた者へ与えるという。
「いや、佐々木さんに限ってそんな事」
「わからないぞ? 今頃友達と
『アハハー、童貞超チョロくてマジウケたー。いい玩具ゲット! みたいなー』
とか盛り上がってるかも」
「佐々木さんそんなキャラじゃなかっただろ!」
佐々木さんはそんな事言わない!
彼女に限ってそんな、そんな……
「いやいや、女ってのは怖いよ? 表と裏でまるで別人、それこそ二重人格を疑うレベル」
「まさか、いやでも……」
回想―回想―回想―回想―回想―回想―回想―回想―回想―回想
それなら、俺に告白した理由も納得できる、というかそれ以外ないと思えてくる。
我ながら悲しいが、そもそも俺が告白されるという事自体おかしいのだから疑ってしまうのは仕方がない。
少なくとも、可能性は考えて置かなければ。
すでに俺はイジメのターゲット、その可能性を。
いざとなったら佐久間に泣きつこう、うん。
「行くか」
俺は意を決して扉を開いた。