第一話 「ゲームをプレイしていただけなのに」
「これは、完全に終わった……」
俺はゲーミングモニターの画面を見ながら落胆する。どうやら俺は自分より強い魔物に取り囲まれてしまった様だ。それも、100匹は下らない程の大勢の魔物に、だ。4匹や5匹程度の魔物なら何とか太刀打ち出来るものの、流石に今の俺のアバターの実力では100匹疎かそれ以上の数の魔物も倒せそうにない。もし真っ当に戦おうとしてもゲームオーバーにされるだけだ。今は何のパーティーも組んでいない、所謂単独状態ソロでプレイしている今、ゲームオーバーになる事だけは避けたい。どうしたもんかと、暫く頭を捻って改善策を考えていると、今は単純に戦うより逃げる戦法をとった方が良いのでは、という結論に至った。
「良し、とりあえず逃げるか。あんなのと一戦交えるなんて御免だしな」
そうして、俺はコントローラーで自分のアバターに目の前の敵から逃げる様指示を出す。程なくして、アバターは脇目も振らずに一目散に手前の林へと走り出した――かと思ったが、その途端、何故かゲームの画面がアバターが走り出す寸前で凍った。
「は?なんで!?」
俺は予想外の事態に内心慌てながらも、直ぐ様コントローラーの一番下にある電源ボタンを押してゲーム画面を凍る前に戻そうとした。いつもは押したら即座に画面が切り替わって電源が切れるのだが、この時だけは違った。アバターが走り出すモーションの一部と約百匹の魔物、前方の林が表示されたまま、依然として画面が切り替わろうとしないのだ。
「は?なんで画面が切り替わらないんだよ」
俺は半ば自暴自棄になりながらも、何度も何度もコントローラーの電源ボタンを押した。そうこうしている内にやっと画面が動き出し、アバターが敵から逃走する場面に戻った。だが、先程とは明らかに何かが違う。
その違和感の正体は、普段戦闘中には表示されない透明のウィンドウと、その中央に表示されている「ログアウトしますか? はい いいえ」という赤文字だ。本来はログアウトの項目をにカーソルを合わせないと出て来ないのだが、何故か運営側が設定したプログラミングのミスにより、それ以外の場面でも出て来てしまう様になっていた。当然本来出てくる筈のない場面で出て来た為、はいを押すと高確率でバグる事は知っていた。然し俺は判断能力が鈍っていたのか、震える手で、コントローラーを使って「はい」にカーソルを合わせてしまった。しまった、と思ったがもう遅い。気が付いた時には、バグが起こる前兆である赤い光がゲーミングモニター全体を覆っていた。
「うわ!」
俺は猛烈な光の攻撃を目を瞑って耐えると、やがてうっすらと目を開けた。
その途端、体が吹き飛ぶ様な凄まじい爆風が辺りに巻き起こる。気付けば俺・は、戦闘から離脱していた。
目の前に広がるは、優に100を超える死屍累々の魔物の山。
そして、足裏に伝わるのは、乾いた土の感触。
間違いない。
この瞬間、自分が置かれている状況を見て、確信した。
俺は、かの超国民的MMORPG、グランサーガの世界に転移していると――