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いつも寝てるてる子

作者: みずぶくれ

俺のクラスにはてる子と呼ばれてる女子がいる。

本名は花山陽菜。てる子ではない。

こいつは授業中も休み時間もずっと寝ている。


体育の授業とか、お昼ご飯とか、掃除の時間なら寝ないだろうと思うが、いつだって船をこぐ様に頭をゆらゆらさせて参加している。


「いつも寝てる子」だから「てる子」。


ここまで話をすると、「その子、虐められてないの?大丈夫なの?」と普通心配するらしい。

近所のおばちゃんにてる子の話をした時にそう言われた。

言われてみれば。と俺は思った。



ところがどっこい、てる子はクラスで嫌われていなかった。


最初のうちはクラスカースト上の方の女子からいじめぎりぎりの扱いを受けていたし、てる子は無駄に身綺麗で清潔でいかにもオシャレが大好きです。って見た目をしていたから、オタクの女子からも引かれていた。


けれどそれをひっくり返すほどてる子は話すことがうまかった。


人と話すとなると常に目をきらきらさせて相手の話をうんうんと聴いて、肯定的な言葉を繰り返す。質問するのもうまくて、相手が気持ちよく返事できるような聞き方ばかりしててちょっとすごいなと思った。

それにてる子はなんでも知っていた。今流行のアイドル、モデル、ファッション、美容・化粧の仕方、インスタ映えスポットなどなどの昔のことから最新のことまで。それから少しディープな漫画やアニメのことも。


まあ、そんなこんなでてる子はカースト上の女子からもオタクの女子からもそこそこ好かれていた。そういう才能があるのだなと思ったし、このままてる子はクラスの中心に据えられるんだと思ってた。


実際は全然そんな事はなかった。

理由は簡単。てる子は「寝てる子」だからだ。

話せば楽しいんだけど、誰かが話しかけに行ったり、本人が偶然起きてた時に周囲の何かに興味を惹かれなければ常に寝ていた。


てる子は嫌われてこそいなかったが、てる子が寝ている時に「どうせ聞こえはしないだろう」からと苦い野次を投げるやつも居たし、寝てて勉強なんか全然してないしできないし注意されても起きないから先生には居ないものとして扱われていた。


嫌われてもいないし、好かれてもいない。

常に寝ている。

動物園に似た動物がいた様な気がしたが、思い出せない。俺的には確かかわいくはない生き物だった。



ある日、図書室でてる子を見かけた。

他のクラスが授業で図書室を利用した後の休み時間だったから部屋の中はみちみちぎゅうぎゅう。

他のクラスのやつらは、次の時間のグループワークのために皆んなして似たような本を持って休み時間にわーわー話していた。

休み時間なんだから休めよ。と思った。


俺はどうしても辞書で確認したい事があったけど、本を借りる程でもなかったのでみちぎゅうの図書室の中で座れる席を探していた。


やっと1つ座れる席を見つけたと思ったら、てる子の隣だった。

どうせ寝てるだろうしまあいいか。と思ってそこに座った。

でも寝てるのかと思ってたのにてる子は起きていた。こいつ、こんなに起きていられるんだ。と思うくらい目をぱっちり開いていた。


読んでいるのは世界の絶景写真集。

見開きで載っている綺麗な写真をじいーっと見ていた。


「起きてるなんて珍しいな」


思わず声をかけてしまった。


「今は起きてても損じゃないから起きてるの。この写真集、とっても素敵で。行ってみたい、行ったらずっと起きてる。ぜったい」


てる子は写真集から目を離さずに返事をした。返事はしたけど俺をクラスメイトだと認識しているのか怪しかった。

失礼な奴だ。ムカついてくる。


「損ってなんだよ、寝てれば損じゃないのかよ」


俺が嫌味っぽくそういうと、てる子はやっと写真集から顔を上げて俺を見た。

クラスの女子と話す時の顔つきになっている。


「わたしは、鮮やかだったり綺麗なものを最高の状態で楽しみたいんだ、だから寝てるの」

「はあ?」


「人生って長いからね、起きてる時にずっと綺麗な物を見続ける事ができない。汚いもの、暗いもの、楽しくないものを見てる時って損」


「知ってる?目も日焼けするんだよ。

起きてて太陽の眩しさで目をくらくらさせてる時とか、超焼けてる。日焼けをしたら見えるものも色褪せて綺麗な物を最高の状態で楽しめないから損」


「だからね」

「人生は起きている時間が長いほど色あせて損するから寝ていたいんだ、起きてる時間が短けれ色あせないし…あとなおかつ短く生涯を終えたい!」


かなりびっくりした。

俺の聞き方に何かきっかけがあったから、自分の価値観をこうも喋っているんだろうが、あまりにも穿ちすぎている。

反社会的だ、どうかと思う。クラスの他のやつが聞いたら一気にいじめに発展するぞ。


「なに、お前ウツビョーとかなの?人生は長く元気に生きていたいだろ。早く死にたいとか、引く」

てる子は一気にムッとした。


「早く死にたい、じゃないよ。短く生涯を終えたい、だよ。

なるべく綺麗で楽しい物を目から耳から肌から、全部で感じて、そして人生を終えたいの。長いほど鮮度が落ちて、五感全部が色あせやすいから」


俺もなんだかムッとしてきた。

てる子はあーあ。なんて、落ち気味の、いつもは言わないような愛想の悪いことを言って、腕を枕に寝はじめた。


後5分で次の授業がはじまるぞ。そう言葉にしかけたが教えてやるのもなんだか癪で言わずにその場を離れた。

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