いい人が転生した こんな転生もありだろうか。
通勤時間にでもどうぞ。
転生、それは生まれかわり。転生、それはやり直し。転生、それは人生の見つめ直す場。
私の名前は表野 札次。ついさっきまでサラリーマンをやっていたが死んだ。発注先の町工場のおやっさんにガチギレされてナイフに刺されたのだ。でも、上の命令で動いているとはいえ、容赦ない死刑宣告とも受け取れるコストカットの通告、おやっさんにも同情しているから恨んではいない。それどころか、ローン地獄から解放されたので感謝したいぐらいだ。
ただ、悪いことばかりでもなかった。内心冷静じゃなかった私に、「ズルもなく正直に生きてきた貴方を優遇しろと主神が仰せです」直線上の目と鼻の先、女神様がやさしく微笑みかける。
ここは生と死の狭間だそうだ。見渡す限り緑一色。幸いフィルターが掛かっているかのような草色なので目に優しい。何処かのOS初期画面と表現すれば一言で済むが、神聖な場所に情緒がないので脳内から削除した。
「次の人生、何かご要望はありますか?」
要望? と私は聞き返す。
「はい、チートですか? リスタートですか? このまま記憶保持も何でも望みのままですよ」
「いえ、私に高い望みはないです。ただ、何もストレスがなく長生きがしたい」
前回無理だった、自然の中でのびのびと人生を謳歌したい。
「なるほど、本当に欲のない方ですね。分かりました。今ちょうど条件と合致する転生がありますのでご案内しますね」
まるで不動産物件または職安のノリで事が進められる。書類に走り書き、羽ペンが踊った。
それと人の為に役立ちたい。だが、その言葉を発する前に私は世界からフェイドアウトするのだった。
――転生後。
私は生きているのか? 何も見えない、感じない。でも、こうして思考を巡らせる事は可能だ。もうこの状態になってどのくらい経ったのか。状況が分からない今の私には判断できなかった。
「よし完成だべ」
「この地方初の開拓の村。これからどしどし冒険者達が流れてくるべさ」
神の気紛れまたは女神の配慮なのだろうか、聴こえる筈のない話し声が聴こえてきた。
「だどもこの看板、みすぼらしいが今のおら達の精一杯だぁ。都会の冒険者にナメられないだろうか心配だべ」
「大丈夫だべ。素材は超一級品。この木は近くにある世界樹から作ったんだっぺ」
「おお、そんだら一万年は腐ることは無いだべさ」
「うんだ」
こうして私は始まりの村の看板として、数え切れない年月の間、初心者冒険者に希望と夢とロマンを与え続けるのであった。
当初の意図とは随分ズレがあったが、私に書かれている文字を読んで後の英雄達が育ったとすれば、これはこれで感無量とも言える。
『ここは始まりの村』
完