乙女ゲーの続編が同ジャンルだと思うなよっ!
思いついて、勢いのまま投稿してしまった。
あとが怖い。(黒歴史的な意味で)
「レイージョ・ワールエキ、君との婚約を破棄する!!」
見目麗しい,カガヤキ王国の王子、ヒイロ・カガヤキが元婚約者に冷徹な視線と共に言い放つ。
そして、側にいたピンク髪の少女を抱きかかえ、
「そしてこの、オートメ・ヒーロインと婚約を宣言する!」
多くの民衆の目の前で、そう言い放った。
「さらに、ここで罪人の断罪を行う。レイージョ! お前はオートメに陰湿ないじめや、さらには殺害しようと画策・実行したな! 未来の王妃への危害、万死に値する!」
言うや否や、腰の剣を抜き、レイージョと呼ばれた少女の首を刎ねてしまった。
「ここに悪は滅びた! これより始まるのは輝く未来への栄光。皆、俺についてこい!」
顔に返り血を浴びながらも、その目からは栄光の未来を疑わせない光があった。人々はその瞳に引きつけられ、王子万歳と沸き立つ。
こうしてヒイロ・カガヤキとオートメ・ヒーロインは結ばれ、幸せになりましたとさ。
「……っと言うのが、大人気乙女ゲー、『カガヤキの向こうへ』の正規エンドだそうだ。やってないから友達から聞いた内容だけど。勧善懲悪、とても王道だ。物語にしたいぐらいにね」
あ、物語だったな、とおどけてみせる。
俺は今、カガヤキ王国の王座に座っている。目の前には話に出てきた二人が手足を縛られた状態で、恨めしそうにこちらを睨みつけていた。
「この素晴らしいハッピーエンドにはダメな所なんてなかった。ただ1つ、今の幸せしか描かれていないこと以外は」
ため息をついて続ける。
「ビックリだよな。大ヒットしてアニメ化、コミック化とかメディアミックスしたりして儲けていた会社が、まさか横領や新規事業失敗などで倒産寸前になるなんて」
あの時の報道は俺も驚いた。乙女ゲーをろくに知らなかった俺でさえも、名前を知っている作品で、続編が出るんじゃないかって噂されていたぐらいなのだから。
「結局、買収されたことで、新作も出たけどね。しかし、意外だったよなぁ。まさか買収した会社が、あのエイカンだったなんて」
そうなのだ。何を思ったのか、『狸の野望』や『キンカン立志伝』などの作品で有名な、戦略シミュレーションのエイカンが買収を決めたのだ。当時の感想としては、血迷ってるとしか言いようがなかった。
「ま、新作と言っても、ファンの期待した新作じゃなかったけど」
買収した翌年、エイカンはこの人気作の新作を発表した。
その名も、『カガヤキの向こうへ ~野望編~』
驚いたね。ジャンル変えちゃうんだもん。どうやらこの作品、世界観や文化、魔法などやたら緻密に設定しているらしいのだ。乙女ゲーなのに。本屋で見たんだが、発売された設定集が六法全書なみに分厚かった事を覚えている。「その設定を戦略シミュレーションに転用できるんじゃね?」と思ったのが、当時のエイカン経営陣。ネームバリューもあるし、一から設定も作る必要もないしと、天啓を得たようだったそうだ(ゲーム雑誌のインタビューより)
当然、前作のファンは大勢離れていった。(それはそうだろう)が、同時に新規ファンも多く獲得でき、結果そこそこの売り上げだったそうだ。
俺も売り上げに貢献した1人だ。
異世界で、武器とか魔法とか独特なんだけど、しっかり設定が作ってあるから矛盾なく、現代にない文明が、今までにない新しい戦略を必要とさせる。そんな世界観に、俺は嵌まってしまった。国を変えて、ときには縛りプレイをしながら、プレイ日記を綴りつつ、何十周も楽しんでしまった。
寝食を忘れるほどに。
それが死因になるとは、一体誰が思おうか。
気が付いたときにはゲームの世界。しかもやりこんだゲーム。そして好きだった帝国の皇太子。
これは統一するしかないでしょう。
ということで俺はとりあえず2つ隣にある大国、カガヤキ王国のとある「イベント」を待った。
その名も『内乱のカガヤキ』
カガヤキ王国の王子が、爵位の低いの娘と結婚したいために、婚約者に罪をなすりつけ、殺してしまうというイベントだ。
この婚約者というのがミソで、彼女は宰相のウラーミ・ワールエキの愛娘だったのだ。
婚約解消だけならば、恨みの1つぐらいで済んだかもしれない(本当に済むかはわからないが)
しかし、婚約者は法にかけられない、王子の「独断の裁量」によって、短い命を絶たれてしまった。
そのときの宰相の無念さ、怒りは、推し測って余りあるものだったのだろう。
1か月後、ウラーミ宰相は自領へ戻り、まわりの領主と手を組み、王国に対し反旗を翻した。
これが世にいう「内乱のカガヤキ」の始まりだ。
貴族の中でも、トップ3に入るほどの広大な領地を持った男の反乱。
短期で終わるはずもなく、また戦火は瞬く間に王国全土に広がった。
これを機に独立を目論む南領地帯、ヒイロに罪があるとして廃嫡を望む、第2皇子を擁する西領、ワールエキ連合軍のいる北領、辛うじて直轄地の多い東領以外は初期に戦地となったのだ。
ということで、無事にイベントが起こったことを確認した俺は、皇帝に禅譲を迫り、隣の国に攻め込んだ。カガヤキ王国との同盟に支えられたこの国は、支援が期待できなくなったことで早々に瓦解し、予定より早く征服できた。
というか、カガヤキ王国に攻め込もうとしていやがった。同盟ってあてにならんな。
そして編成をそこそこに、目的であった王国へなだれ込む。あまりの侵攻の速さに、あっという間に首都まで占領。
その後、南領の独立を容認し、協力関係を築き、その戦力と共に西領の軍勢を打ち破り、北領を降伏させた。
そして今に至る、ということだ。
「まあ、俺もさ、ほんとにイベント通りになるとは思ってなかったよ。だから工作員を送り込んで常に動向を監視させて、イベント通り進まなかったら、別の所から切り崩していく予定だったし」
用意した軍勢を転用し、周囲の弱小を平らげてから、正面衝突という、時間がかかるから出来るだけ避けたいプランだが。
「本当に、君たちには感謝しているよ。出来れば、開放して愛を貫かせてあげたいんだけど、ちょっと難しんだよね」
そんな話をしていると、側近君がやってきて、ゲストの来訪を教えてくれた。いいタイミングで来るね、彼も。
「君たちを捕虜としたのは、今から来る彼の降伏条件だったんでね。だから放してあげられないんだ。今作戦の最高功労者の君たちには、本当に申し訳ない」
お、ちょうど来たようだ。と2人に彼を紹介した。
「これから帝国の末席に加わることになった、ウラーミ・ワールエキ君だ」
そこには殺意と怒りをまとわせた復讐鬼がいた。身なりこそ整えているが、その顔色は土気色になっており、頬はこけ、眼は三白眼となっている。さわやかなダンディだったと聞いていたが、見る影もない。
「ウラーミ君、約束通り2人を引き渡すよ。連れて帰るといい。臣下としての話は後日としようか」
2人に目を離さないまま、臣下の礼を取る。器用だね。
「ご配慮痛み入ります、陛下」
控えていた近衛兵達に手伝ってもらい、2人は出荷される牛のように連れていかれた。女の方は俺と同じ転生者だったのかな。訊けばよかった。
「あ、側近君。事の顛末はあとでしっかり報告するように」
連れて入れた後、解放されましたなんてことがないようにね。独立されたら面倒だし。保険はつけましょ。
こうして今戦争は一段落し、うーんと体を伸ばして、気合を入れなおす。
「さて、次はどこを攻めようか」
野となれ、山となれ。
ひどい事なりませんように。