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ラピッド・ラービット

 エラミナの街は今日も多くの人で賑わっていた。

 殆どの者がエラミナの街の近くで起こった、盗賊団と思われる者達の死を知ることもなく過ごしている。


 人が死ぬのは当たり前だ。

 街の外では常に危険と隣り合わせ。


 モンスターに襲われるか、盗賊団に襲われるか。

 死は常に身近に存在するものであり、珍しいものではないのだ。


 旅人の出入りが激しいこの街で、少女は澄み渡る青空を仰ぎ見た。





 ラピッド・ラービット。

 一人旅の少女は自分をそう名乗る。


 麻布の服に、フード付きの白い外套。

 腰には短剣を携えてはいるが、少女の細腕では扱いきれるのかどうかも怪しい。

 フードを深く被り、そのフードからは二房の白い塊がまるでウサギの耳のように垂れている。


 胸元にはやや大きめの鈴が下げられ、歩く度に小さく音を鳴らしていた。



 彼女は冒険者である。

 正式に、ギルドへ登録された下位に属する数多の冒険者の中の一人。

 大型のポーチを肩に下げ、薬の材料となる薬草摘みの依頼をこなして街へと戻ってきていた。



 その足をゆっくりと、のんびりと、ギルドへと向けて歩いていく。



 それから暫くして、ギルドへ辿り着いたラピッドは複数ある納品のカウンターの一つへと向かった。


「おや、ラービットさん薬草採取は終わりましたか?」

「終わったよー。もう、クタクタかもー……」

「それはそれは……お疲れ様です」



 納品カウンター担当のギルド職員の若い男が、ラピッドの下げているポーチを確認してカウンターへと置くように促す。

 内容を確認しながら、薬草が規定通り納品された事を確認して、報酬の金額をラピッドへと手渡した。


「ん、ありがとう。こっちの余った分も換金お願いしてもいい?」


「はいはい。ところでなんですが、ラービットさんはそろそろ少し上のランクの依頼を受けたりなどはしてみませんか?」


 ギルド職員の言葉に、追加の金額を受け取りながら、ラピッドは小首を傾げる。


「私がですか?」


「ええ、そうです。ラービットさんの足を見込んでの事なんですけれども……受けてみる気はありますか?」



 ギルド職員がそう言うのは、ラピッドは戦闘能力こそ並以下ではあるものの、足の速さ……速力と持久力に関しては目を見張るものがあるのだ。

 それこそ、モンスターと遭遇したとしても、己の足だけで逃げ切ることができる程に。


 ラピッドは唸るように悩む素振りを見せる。


「内容次第……ですかね。私もお仕事はできるだけ多くこなして、お金たくさんもらいたいですけど。あんまり危険なのはちょっと……」


「そう言うと思ってましたよ。兎にも角にも、話だけ聞いてみませんか? 無理そうなら辞退して頂いても構いません。難易度が上がる分、普段受けている依頼よりは危険度は増しますが、ラービットさん一人への依頼ではありませんから」



 ラピッドは更に唸る。

 確かに、それならば懸念しているほど危険な目に合うこともないだろうか。いやいや、まだ早計だ。何よりもまず内容を聞いてから判断するべきだろう。


 そう結論づけて、ラピッドはギルド職員の持ち掛けた依頼の話を伺うことにした。




「それでは、こちらがその内容になります」


 ギルド職員はそう言って少し意地の悪い笑みを浮かべながら、一枚の書類を取り出す。


 それを怪訝に思いつつも、手に取った書類をに目を通していくラピッドだったが、次第に表情は険しくなっていく。


「謀ったね……こんなの、断れるわけがないじゃない」

「では、そのように」


「意地が悪いんだから、もう! 」


 憤慨するラピッドに対して、ギルド職員は表情を変えることなく手続きを行う。



「また、3日後の朝にお願いします。報酬は弾みますので、よろしくお願いします」


「はーい、どうせもう断れないんだし仕方ないかぁ……」



 硬貨袋を手に立ち去るラピッド。

 ゆるりとした口調とは裏腹に、内心では思考を巡らせていた。


 依頼とは名ばかりのあの内容。

 ギルド職員の言葉も、他者を誤魔化すためのものだった。


 よりにもよって、あんな内容を平然とあの場所で出すなんてどうかしてる。


 ギルドが預かる機密書類の配達。

 それも、王都のギルド本部へなんて、私みたいな冒険者にやらせるような仕事ではない。


 断ろうにも、機密がいつ、どこから、何処へを知ってしまった私には断る術なんてないのだ。

 本当、どうして私なんだろう。


 依頼を受けるのは(ラピッド)一人ではないという言葉から、数あるダミーの一つと考えるべきなのだろう。


 そう思うことで、無理やり自分を納得させる。



 少し重たい足取りで、ラピッドは行き付けの宿へと向かう。報酬が良いとはいえ、危険であることに代わりはない。

 自分の足で、どこまで逃げ切れるだろうか。と、商売道具に問いを投げ付けた。

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