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序章

 夜も深まった、暗闇に覆われた森に浮かび上がる白い影が一つ。


 月明かりの中で、優雅に舞うその姿は、どこか幻想的で非現実的だった。

 白い影が舞う事に、一つ……また、一つと人間の命が失われていく。



「ば、化物だ……!」


 そう叫んだ男は音も無く穿たれた一撃の元に沈黙する。肉塊となって。




 白い影。

 白い、兎を模した長く垂れた耳のフード。白い、毛皮に包まれたかのように全身を覆う不思議な衣服。白い、時折覗かせるフードの中の美しい顔。


 その赤い紅い瞳が、妖しく煌めいた。





 音も無く、地を駆け、そして屠る。


 月明かりの影に潜む白兎。




 その動きが止まった時、そこにはたった一人しか生きてはいなかった。



「…………また、私は……」


 数多の骸の中に佇む真っ白な兎は呟く。

 土にも汚れず、返り血も浴びず。ただただ真っ白なその姿は、次の瞬間には音も無く姿を消した。











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 -----------










 翌日。

 日も昇り、陽気な天気の中一人の哨戒兵が異臭に気付いた。

 明らかな血の臭い。

 哨戒コースからは少し外れるが、臭いが漂ってくる方向は分かる。

 そして、同時に全身から感じ取れる悪寒。その気に、彼はあてられた。


「これは……いや、すぐに報告に戻ろう」


 哨戒兵は森の奥へと立ち入ることは無く、その場で踵を返しギルドへと駆け出す。

 それは、彼がギルドへ登録する前からずっと言われていたことが、頭に過ぎったからだ。

『新人が任務中に死ぬ原因は、手柄を求める欲のせいだ。自分に出来る事以上の仕事はするな』


 それが、彼の命を助けたのだ。



 その哨戒兵の姿を、捉え続けていた視線は彼の姿が見えなくなると同時に消えた。






「報告です! 近隣哨戒の依頼を受けていたロディです!」


 彼が街のギルドへ報告に戻ると、一部の者達の空気が一様に張り詰めた事に気付いた。

 けれど、そんな事よりも報告する方が先だ。



「ロディさんですね。えっと、哨戒は東の森のルートでしたね。何があったのですか?」


 ギルドの看板でもある受付嬢が、普段の人当たりの良い笑みではなく真剣な面持ちで確認を促す。


「森の道の半ば辺りに異変です。えっと……血の、血の臭いがしました」


「血の臭い……? モンスターとかの狩猟が行われたとかではなく?」


「自分も最初はそう思いました。けど、自分だってもんすたーは何度か狩猟しに行っています。今回のは……なんというか、凄く……濃密な血の臭いというか」


「……臭いの発信源は見つけましたか?」


「いえ、探そうとしたんですが……森に立ち入ろうとした瞬間に背筋が凍るほどの悪寒を感じたのでこちらに報告に……」


 受付嬢はそれを聞き、少し考える素振りを見せた。


「……分かりました。すぐに確認の者を向かわせましょう。報告、ご苦労様でした。危険なモンスターの出現の可能性がありますので、本日の依頼はこれで完遂とさせていただきます」


「は、はぁ……ありがとうございます」


 ロディは受付嬢から依頼の成功報酬を受け取り、そのままギルド内の酒場の空いている適当な席へと腰を掛けた。


 その様子を遠巻きに見ている人は数人居るが、それだけである。珍しいことではない。


「……思ったより、早く終わっちゃったなぁ」



 ロディとしては、今回受けた依頼で哨戒中に弱いモンスターでも出てくれれば御の字だったのだ。

 戦闘経験を積んで、倒せばモンスターの素材が手に入って、売ればお金になる。


 哨戒クエストなど、初心者御用達の任務であり、報酬は微々たるものなのだ。


「これっぽっちじゃなぁ……」


 そう呟きながら報酬の入った袋を開く。

 当然、報酬通りの金額しか入ってはいない。



「……また、何か適当なクエストでも探すしかないか」


 それも、自分に達成できそうな難易度の低いものを。


 ロディは立ち上がり、クエストボードへと足を進めた。

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