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僕のパーティーには脳筋しかいない  作者: naki太
イナゴスレイヤーと呼ばれて
1/5

第1話 アドバイス

初めてみました。

よろしくお願いします。

週一投稿予定です。

 休日の羨ましくなるくらいな青空を窓からチラリと見て、少し高揚した気分になりながら本を読む。生活の一部となっている読書にこれほど充実感を与えてくれる天気は他にあっただろうか。

 椅子に腰掛け、テーブルの上に置いたティーカップを手に取る。先程から鼻先をチラチラと漂う爽やかなハーブティーの匂いを楽しみ、口につけようとしたその時だった。


「クリス! オレ、大将軍になる!」

「ぶっ!」


 盛大な打撃音を鳴らすドアと共に快活な声が、僕の耳を攻撃して、僕は噴水のようにハーブティーをぶちまけていた。読んでいた本にもかかってびしょびしょだ。


「いつも急に入ってくるなと言っているだろう! ノックくらいちゃんとしてくれ!」

「あ、悪い。ところで大将軍になるんだけど!」

「いつも突然だが、今日のお前は勢いが良すぎるぞ。どうしたんだ」


 唐突に現れて突然にわけのわからないことを言ってきたチビの筋肉ダルマのはアルベルト・ロマンソンといい、僕とは二つ下で孤児院出身の奴だ。

 発言から伺えるように変わった奴で、僕としては趣味の一環なのだが、外出先でも一人で読書をしていることを自分の仲間だと感じたらしく付きまとわれるようになった。

 最初はこっちも意地で無視を決め込んでいたのだが、よほど気に入られたらしく、四六時中付きまとわれては色んな話を振ってきて、終いには家まで付いて来られてしまい、それ以来ほぼ毎日来るようになった。いち時は訴えることも視野に考えたが、家で暴れるようなことはしないのでこちらの根負けという形で仕方なく相手をしている。

 僕は近くに置いてあった布巾を手に取り、本に付いた水分を拭き取るが、そんなことに御構いなしといったアルベルトは嬉しそうに事の発端を話し始める。


「それがだな。今さっき、おじさんから大将軍の強さを教えてもらってよ。オレ、めちゃくちゃそれになりてえって思ったんだよ」

「ほう。ところで、そのおじさんってのは孤児院の人かい?」

「ああ、そうだ」

「何か本みたいなのを待ってたか」

「本? いや、絵が描いた紙だけど」

「そうか。で、周りに背の高い子はいたかい?」

「いいや。歩きたてほやほやのガキばっかりだ」

「……」


 完全に読み聞かせの紙芝居じゃないか。僕も昔、母さんと何回か見に行ったことがあるし、大将軍といえばあれしかなさそうだ。タイトルは確か『ヴィクトリア大王と七人の大将軍』だったか。あの紙芝居は大将軍たちの活躍っぷりがふんだんに盛り込まれていて胸が高鳴ったのが今では懐かしい。

 さて、そんな昔話は置いといてアルベルトにこんな質問をしてみよう。


「アルベルト。質問いいか?」

「いいぜ。っていうか、いつになったら親しくアルと呼んでくれるんだ?」

「僕がお前に対して微塵も親しいとは思ってないからだ」

「えー」

「お前は今自分が暮らしている国の軍隊に大将軍っていう役職を聞いたことあるか?」

「あぁ? お前、オレをバカにしてんのか? そんなもんあるに決まってんだろ。クリスが知識人だということは知っているけど、そんな常識問題を振ってくるなんてオレを舐めすぎなんじゃねえの?」

「ないよ」

「えっ」

「僕は今、お前が『常識問題』という言葉を知っていることに驚いた」


 最初の段階でこうなることが予想できていたが、まさか本当になってしまうとは……。こいつは本当にこのカーウィン共和国の義務教育を受けたのか?

 一度、教育内容や指導方法を見直す必要がありそうだ。


「じゃあ、オレ。せっかくクリスに大将軍のなり方を聞きに来たのにどうしたらいいんだ……」

「人を頼る時点でおかしくないか? そもそも僕を賢く見積もりすぎだ」

「オレ、どうしたらいい!?」

「さっき言ったこと聞いてたか?」

「いや! そんなこと言われてもよー!」


 アルベルトにぐわんぐわんと体を揺すられる。あんまりされると三半規管が狂って大変なことになるんだよな。

 あくまでも自分の身を守るためにアルベルトへのアドバイスを考えた。


「アルベルト君。君が本当に見たものは大将軍だけだったのかね?」

「え、なんだよ。急に。頭おかしくなったのか……?」

「お前にだけは言われたくなかったよ。とにかく、見たものは大将軍だけだったのか?」

「え、えっと、大将軍だけじゃなかったような……大将軍だけのような……」

「大将軍だけだったら人物像だけで終わっちゃうだろ。仕方ないな。大将軍は何をしてた?」

「そ、そりゃ、ひ、人殺し?」

「よし、それが今日から目指す職業だ」

「あっ、そうか。オレは人殺しをやればいいのか!」

「ごめん、今の冗談な。後戻りできなくなるから絶対にやめとけ」

「え? 違うのか?」

「考えてみろ。大将軍は大王になんて言われてたんだ。遠征に行ってこいだろ?」

「あ、そうだ! それだ! オレ、遠征に行くよ!」

「結論を早まるな、馬鹿者」


 走ってどこかへ行こうとするアルベルトを呼び止めて、部屋の中は引き戻す。


「な、なんだよ。オレはこれから遠征に行かなくちゃならないっていうのに」

「遠征って意味わかってるのか?」

「知ってるぜ。とにかく遠くに行くんだろ?」

「ちょっと違うけど、そういうことにしようか。じゃあ、それと似ていることをしているなっていう職業は? 何かあるんじゃないか?」

「はっ!?」


 アルベルトは雷を食らったかのように体を硬直させた。きっと答えが分かったのだろう。僕は安心して飲みかけのハーブティーに口をつける。


「オレ! 陸上選手になる!」

「ぶっ!」


 さっきよりも盛大に吹き出したせいで今度は虹が見えた。慌てて布巾を取り出して、水分を拭いていく。

 自分は大喜利でもやれと言ったのだろうか。

 首を傾げながら「変な奴」と洩らすアルベルトを見てため息を着く。日が暮れても嫌だし、もう答えを出してやるか。


「冒険者だよ。お前がそこまで難しい回路をした脳みそだとは思わなかったよ」

「そっか! なるほど、冒険者か!」

「冒険者なら旅もするし、魔物だって退治する。ほら、大将軍の仕事そっくりだろ?」

「おお、ほんとだ! さすがクリスだ! じゃ、行ってくる!」

「ああ、行っておいで。さて」


 ドアを矢のように潜り抜け走り去って行ったアルベルトを見送り、自分の手元の本に目を落とす。「あっ」と気付いたのも遅く、お茶を吹き出すのも二度目になると、本はインクの字が滲んで読めなくなっていた。

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