~Re;~
~Re;~
真っ白な靄のかかった場所に気が付いたら立っていた。またこの場所に来られた。来られなくたっていいと思った。だって、2回も目の前で美穂を亡くしているのだ。心が壊れそうだ。
「なんでまた来るんだよ」
声をした方を見ると少年が立っていた。あいかわらず、うっすらと光り輝いていて、野球帽をかぶりスカジャンを着ている。しかも見たことがない大きなペロペロキャンディをなめている。ただ、スカジャンの色が金色になって背中に龍があるくらいだ。少年がなんでこんなもの着ているんだ。そう思った。
「なあ、お前に聞きたいことがある。未来は変えられないのか?」
俺は思った。美穂が死ぬ運命を変えることができないのなら俺はどうすればいいんだ。美穂が死ぬと言う結果は変わらず、その過程だけが変わると言うのなら、俺はやり直す度にどんどんおかしくなっていきそうだ。少年が言う。
「さあ、知らない。僕はただの調整役だからね。でも、簡単だよ。世界を変えるなんて。また、やり直したいの?」
俺はこう言った。「告白前に戻してくれ」と。
「いいよ。ならとっとと行くがいいさ」
そう言って俺の足元にあった白いもやがなくなる。下におちる。浮遊感。気持ち悪い。
その勢いに俺はまた気を失ってしまった。
気持ち悪い。浮遊感の中俺は頭を振った。美穂が舞台に上がり、俺がスポットライトを調整し終わった所だ。
これから俺は舞台に向かって歩いていく。そうだ。さっきはそういう選択を取ったんだ。俺は周りをそして上を見る。
意外とこのライブハウスの天井は色んなものがぶら下がっている。もし、何かが落ちてきて美穂の命を狙うとするのならばこのライブハウスから出ることがいいのかもしれない。でも、それは明らかに不自然だ。
その中で俺は一つだけ天井に何もない個所を見つけた。そう、それはさっき俺がその場所にたって告白をした場所だ。スポットライトをつるしている場所の奥。そこが安全地帯だ。
俺は舞台に向かって歩いて行った。
「美穂!」
俺は美穂の腕をつかみ、引き寄せた。強引かもしれない。でも、これが必要だ。
「何?どうしたの」
やはり話しにくい。俺は少し距離を置く。美穂は俺が前の世界で立っていた場所にいる。そして、俺の立ち位置は前の世界で美穂が立っていた場所だ。場所が入れ替わっている。
この位置なら俺が後で落ちてくるスポットライトを避ければいいんだ。それに落ちてきたスポットライトは1つだ。さっきは偶然にも1個のスポットライトが落ちてきて、それがたまたま美穂の頭に直撃をして、運悪く美穂が死んでしまったんだ。だったら、俺が避ければいいんだ。俺は深呼吸をした。
「美穂。まず、本当にありがとうな。お前が居てくれたから俺は頑張れた。
だから今の俺の気持ちを正直に伝える。俺お前のことが好きだ。お前に会って、お前の歌声に出会って、ずっと恋をしていたんだ。
今日の「To be with you」さ。実はお前のためだけに俺はギターを弾いたんだ。伝わらなかったかもしれないけれど、俺はいつだってお前を思ってギターを弾いていた。
俺の中心はお前がいなきゃだめなんだ。俺と付き合ってくれ」
前回は最後まで言えなかった。そう、音がしたからだ。でも、今度は全部言い切れた。なぜだ。俺は上を見上げた。その時、この違いの意味に気が付いたんだ。
スポットライトが揺らいでいる。まるで意思を持ったかのように。しかも今度はスポットライト1つじゃない。一気に3つ落ちてきた。それも美穂をめがけて。
「きゃあ」
俺が上を見上げたので美穂もつられて見上げたのだ。そして、美穂は自分にスポットライトが向かってくるのを見ている。どうにかしなければ。俺は力いっぱい踏み込んで美穂を突き飛ばした。
安全だと思った場所。そこに美穂は立っていたはず。でも、違った。だが、これで美穂は助かる。
そう思った瞬間俺にものすごい衝撃が走った。世界がかすんでいく。目の前に美穂の泣き顔が見える。
だが、声が聞こえない。音がきこえない。何かが流れて行く。血の臭い。ああ、そうか。これが死ぬってことなんだ。
世界はどんどん暗くなっていく。もう一度やり直そう。次はもっと前からだ。そう、やり直せばいいんだ。こうやって美穂が死ぬのじゃなく。俺が死ぬことで。俺はそうできると信じていた。
真っ白な靄のかかった場所に気が付いたら立っていた。またこの場所に来られた。うっすらと光り輝いていて、野球帽をかぶりスカジャンを着ている少年を見つけた。俺は自分から声をかけた。
「戻りたい。次は戻れるだけ過去に」
そう、もう一度やり直す。俺一人じゃ無理だ。皆に相談をして美穂の死の回避を考える。どこかにあるはずなんだ。でも、その道がわからない。けれど少年はこう言ってきた。
「今度はバグだな。ダメだよ。君は今回痛みを持っていないから。本来ならここに来ることもないんだけれど、何回かここに来ちゃったから間違ったのかもね。本当にめんどくさいな」
そう言って少年は見たことがない大きなペロペロキャンディをなめている。どういう事だ。あれだけの痛みだ。
俺は白い世界にうっすらと開いている地面から自分が血だらけになっているのを見ている。美穂が泣いているのみ見るのがつらい。すぐに戻るから。いや、すぐに俺の死なんてなかったことになるから。だから待っていてくれ。だが少年は無情にもこう言ってきた。
「ちゃんと言っていなかったね。痛みは肉体的なものじゃない。心の痛みだよ。ここにきる時君はどこかで納得をしていたよね。だから戻れはしないよ」
なんだって。心が壊れるような痛みじゃないとダメとか今さらそんなこというなよ。確かに俺はどこかで美穂が無事でよかったと思ったよ。でも、そんなこと今さら言われても。少年がこう言う。
「ああ、なんか更にめんどうなことになってきた。とりあえず、君はここにいるべきじゃないから、本来いるべき場所に行ってちょうだい」
そう言われてすぐに俺の足元が消えてなくなった。今までと違う浮遊感。どこまでも落ちていくその感覚。
徐々に体が削られて何も残らないように感じる。なんだこれ。まるで、この世から俺という存在が削り取られていくみたいじゃないか。こんな風に俺が終わると言うのか。気が付いたら俺は気を失っていた。
~エピローグ~
俺は気が付いたら天井を見ていた。見知らぬ天井だ。白い天井。頭が痛い。いや、頭だけじゃない。体中痛いんだ。
おかしい。白い世界にいて、落ちて行ったはずだ。どこまでも落ちて行って俺と言う存在が削り取られて跡形もなくなったように感じたはずだ。でも、俺は今横になっている。白いカーテンが俺を囲っている。
だが、俺の身体はうまく動かない。
「気が付きました」
カーテンを開けて俺を確認した人がいる。俺の記憶では、その人の恰好は看護婦だ。結構年配の看護婦さん。恰幅の良い女性だ。
しばらくして、白衣を着た男性がやってくる。看護婦がベッドを動かす。別途が動き俺は上体を起こすことができた。体は少しだけだけれど手が動くようになった。
医者が言う。
「落ちたんだって」
俺は思った。意味がわからないと思った。落ちた?何がだ。俺が鉄橋から落ちたことを指しているのだろうか。それともスポットライトが落ちたことを指しているのだろうか。今まで見ていたものは夢だったのだろうか。何が夢なんだ。どこまでが夢で何が現実なんだ。
わからない。
ひょっとしたらすべてが夢で、美穂は死んでいて、何もかも俺の希望がつまった妄想だったのだろうか。
そりゃそうだ。過去にもどれるなんてファンタジーすぎる。そう思ったら泣きそうになった。笑いそうになった。気がおかしくなりそうだ。
「大丈夫なの?」
俺はゆっくり声をした方を見た。そこに頬にガーゼを当てて膝も怪我をしたのかギブスをした美穂がいた。
美穂が言う。
「もう無理かと思った。よかった。あれが最良の選択だったんだね」
俺はわからない。何が起きたんだ。美穂が言う。
「信じないかもしれないけれどね、伝えたいことがあるんだよ。
ねえ、聞いて。私が頭がおかしい人って思うかもしれないけれど、でも、本当のことなんだよ。あのね、悲しみで心が壊れた分だけ過去に戻れるという世界に出会ったの。そこで、うっすらと光り輝いていて、野球帽をかぶりスカジャンを着ている生意気な少年に出会ったの。
おっきなペロペロキャンディ―なめているから奪ったら本気で怒るしね。んでね私、そこで何回もやり直したんだ。
それでようやく見つけたの。浩ちゃんを助けられる道を。まあ、私たち二人とも怪我をしちゃったけれどね」
俺はびっくりした。そういうことだったのか。
「ああ、信じるよ」
俺はそう言って美穂を見た。その奥にあるカレンダーに天秤が描かれていた、ちょうど天秤は左右の重さが釣り合っているのか水平だった。
そういえば、てんびん座ってライブラって言ったかな。そういえば、あの少年の名前だったような気がする。




