惑星ウルスラグナⅢ
「さぁ、初陣よ!」
「それが、フィオナの、真の姿・・・」
妖しく光る魔剣ダークスレイヴは、可憐な少女の面影など無く、漆黒の魔剣は黒く煌々と輝いている。
(この敵ならそこまで苦戦はしないわね)
魔剣から発せられるフィオナの声は、黒羽の脳へ直接語りかけてくる。
魔剣となったフィオナの声は持ち主である黒羽にしか聞こえることは無い。
フィオナは軽々しく黒羽の前に立ちはだかる巨大な生き物を余裕と解釈したがいくら魔剣を持っている黒羽でも余裕とは到底思えない。
その巨大な生き物、ジャックウルフは黒羽に向けて咆哮し、黒羽は剣を構え、炯眼な目付きでジャックウルフを見据える。
(独特な剣の構えね)
地球の人間の剣の構えとウルスラグナの人間の構えは違うようだ。
しかも黒羽は道場の中でも少し独特な剣の構えをしていた為、剣の構えに関して言われるのはフィオナが初めてではない。
右手にある剣の剣先が右の爪先に向いているような剣の構え。
魔剣の柄は頭の真横にあり、常に右腕は肩と同じ位置にある。
「よく言われるよ」
黒羽が一瞬気を抜いたその瞬間にジャックウルフは黒羽に噛みつこうとする。
(避けて!)
魔剣から発せられるフィオナの声に黒羽はすぐさま反応し、ジャックウルフの視界から外れる。
(地球にいた頃の剣道の感覚を思い出して剣を振りなさい)
「あ、あぁ」
ジャックウルフはもう一度黒羽と目が合い、互いに睨み合いながら少しずつ間合いを詰めていく。
ーーー刹那、ジャックウルフは思いきり地を蹴り、鋭い牙を黒羽に向け、肉薄してくる。
「ふっ!」
鋭い牙が黒羽の肉を削ごうとしたその瞬間、黒羽はジャックウルフの股をすり抜け、がら空きの背後から大振りな一撃を上から放つ。
黒羽の構えは下段を得意としていない、だが上段からの攻撃が構え的に容易ということ。
上段からの攻撃をかわす事もできずにヒットしたジャックウルフは怯みを見せ、その瞬間を狙い黒羽はもう一度斬撃した。
「はぁっ!」
黒の魔剣を横から一閃、ジャックウルフは咆哮をあげ、体から真っ赤な鮮血が舞う。
ヨロヨロとしているジャックウルフに黒羽は更なる一撃を加える。
「百鬼流の剣術、くらえ!」
黒羽はもう一度懐へ潜りこみ、地球で習得した剣術の放った。
「百鬼流剣術 鴉羽!」
黒羽の家である百鬼は元々剣の家で百鬼流剣術は代々受け継がれてきた。
百鬼流剣術を引き継ぐのは長男、または長女なのだが黒羽の姉である美月は剣の才能が無く、特別に黒羽が百鬼流剣術を受け継ぐこととなった。
その中でも初級の剣術が鴉羽。
鴉羽の攻撃は至ってシンプルな一閃。鴉羽は斬る事を主とした剣術だが、百鬼流剣術を受け継いだ先祖の中には突きに徹した鴉羽を使う使い手もいたらしい。
この鴉羽を習得することで、他の剣術も習得できる、いわばチュートリアル。
たが、チュートリアルといってもこの剣術を極めれば、鴉羽一つで相手を沈める事も可能な、奥が深い剣術。
黒羽の光速の一撃がジャックウルフを薙ぎ、断末魔と共に地面に倒れていく。
と。黒羽がふぅ、と息をつきリラックスしようと瞬間に辺りの茂みからガサガサという音がして辺りを見回すと、今黒羽が倒したジャックウルフよりも小さめの肉食獣が黒羽を囲んでいた。
その獣達の目はとても獰猛で完全に黒羽を補食対象として見ている。
(ここは私に任せて)
フィオナがそう言うと、黒羽の右手にあった魔剣ダーク・スレイヴは艶やかな黒髪の少女へと戻っていき、その美しい少女が姿を現す。
さっきまでこの可憐な少女が魔剣だったとはとても思えない。
「黒羽、こっちに来て」
「?わかった」
フィオナが言った事はよくわからなかったが、フィオナの言う通りにフィオナに近づくとフィオナは黒羽の頭を掴みフィオナの胸に押し付ける。
「むぐっ!」
急に視界が暗くなり、同時にこの世のものとは思えないほど柔らかい何かに触れる。
息が吸えない中で鼻に入ってきた香りはとても優しく、ほのかに甘い香りが黒羽の鼻腔をつつく。
「ダーク・ミスト」
黒羽がフィオナの胸の中にいる頃、フィオナは自分を中心に放つ黒い霧を生み出し、その黒い霧は周りを囲んでいた獣達の吸う息と共に霧も入っていく。
そして、その獣達が黒い霧を吸って数秒も経たないうちにその獣達に変化が訪れる。
獣達は悶え苦しみやがて、静かにジャックウルフと同様地面に倒れていく。
「ぶはっ!な、なんなんだよ・・・」
「私の胸の中、どうだった?」
フィオナは小悪魔のような笑みを浮かべ、クスクスと笑いながら言った。
黒羽はさっきまで自分が胸の中にいたことに改めて確認し、赤面した。
「って、なんでこいつら、倒れてるんだ?」
黒羽の視界がフィオナの胸に占領されている間に黒羽とフィオナを取り囲んでいた獣は一見無傷で全員倒れていた。
「私の魔法で少し気を奪っただけよ」
「魔法・・・」
地球とは違う生き物や概念がこの星にはあった。
黒羽はこの星の成り立ち、そして黒羽がここで本当にやらなければならない事をやるために二人はロストフォレストを抜け、中央に位置する場所に行こうと決意した。
「なぁ、俺はいったいここで何をしたらいいんだ?」
そんな純粋な質問にフィオナは少し暗い顔をして、言葉を放った。
「今後この星にものすごく大きな災厄が降り注ぐの、それはこの星にいるどれだけ強い人でも止められない、私のような天使でもね」
それは避けることのできない宿命。
フィオナいわく、上にいる神は上の世界で起こる大きな戦争に巻き込まれ、人間界どころの話ではないと、現時点でそうならないために結束力を高めているが、影は必ず現れる。
もしも人間の世界が災厄に巻き込まれた時の切り札として黒羽が救世主となるらしい。
「災厄・・・」
「私にはね、姉がいるの、姉様はすごく強くて誰からも頼られる存在だった。でもある時力を全て失って、死んでしまったの」
続けてフィオナは悲しげな声音で呟く。
「聖天使だった私は姉様を失った悲しみから堕ちたの」
フィオナは両翼の黒い翼を広げた。
漆黒の羽がどこか悲しさを物語っていて悲壮に見えた。
「あなたがなぜここまでの力を有しているのかわからない、でもあなたは姉様が認めた唯一の人間なの」
「俺が・・・認められた・・」
黒羽自身も自分の力に気づいてもいないし、目の前の獣を倒すのが精いっぱいだった。
「さ、私の過去の話は置いておいて中央へ向かいましょうか」
フィオナは翼をしまい、歩みをすすめた。
「俺、お前の姉さんの期待に応えられるように頑張るよ、あの時守れなかった悲しみはもう味わわねえ」
「私はあなたを守るためにここにいる、だからあなたを死なせないし、もう悲しませたりしないから」
フィオナのその眼には決意が現れていた。
どーもミカエルです!
戦闘シーン難しかった・・・
でもなんとか伝わるように書けたと思います。
今回はこの辺で。次回もよろしくお願いします!