プロローグⅡ
黒羽と桜花が通っている学校、新音高等学校は偏差値もそこそこのいたって普通の学校だ。
この辺りに済んでいる大人は基本的にこの高校を卒業し、社会人になっている。
黒羽が入学する前までいた校長先生は有名でテレビにも出たことがあるほど。
そんな新音高校に黒羽は入学し、一年が経った。
黒羽が新音高校を選んだ理由は学力が平均クラスというのもあるが近場というのが理由だったが、桜花が新音に通うと決めた理由は、表向きには近いというのが理由だが実は黒羽が通っているから、というのが本当の理由。
そんな理由を隠している桜花と共に新音高校の門をくぐった。桜花は男子からの人気より女子からの人気の方が高い。その理由を黒羽は女子に聞いてみると、やはりかっこいい、というのが一番の理由だった。
そしてその人気は今日も現在のようだ。
桜花が靴を履き替えようと、下駄箱の戸を開けるといつも通り休み時間を手紙だけで潰すような程の量。
「相変わらずの人気だな」
圧倒的な人気の幼馴染みを見ながら、自分の下駄箱の戸を開ける。
瞬間、黒羽の目に白い靴とは違う薄く白い長方形の何かが、黒羽の靴を隠していた。
その時、黒羽の脳はその薄く白い長方形の何かを分析、これは手紙だ!という解釈をした。
その手紙を手に取った瞬間、その手紙からフワッと良い香りが黒羽の鼻孔をくすぐり、手紙を凝視する。
そして、隣で大量の手紙をかばんに詰め込み終えた桜花は黒羽の方向を向いた。
「黒羽、それは・・・ラブレターなのか、差出人は?返事は?」
桜花がその手紙を見た瞬間剣呑な眼差しに変わり、黒羽に問い詰める。
「そ、そういえば、差出人!差出人を見ないと!」
このままではまずい、黒羽の本能がそう言っている、今はその本能を信じ、差出人を見てみると・・・。
「綾崎恵玲奈・・・って、恵玲奈ちゃん!?」
黒羽にラブレターを差し出した人物、綾崎恵玲奈は黒羽が一番可愛がっている後輩。
その後輩の好きは先輩としてではなく、一人の男性として見てくれていた事を知り、黒羽は赤面してしまう。
「わからなかったの?恵玲奈ちゃんが自分の事を好きってこと」
桜花のその言葉にえ?という表情をする黒羽。つまり桜花は恵玲奈の好意を知っているという解釈になるからだ。
「知ってたのか?なんで?そんなそぶり俺には見えなかったんだが・・・」
「黒羽は鈍感だからな、前も気づいてなかったし」
前も、という言葉を聞いて黒羽は背筋が凍りついた。以前もこんな事があったのだ、中学の後輩に告白され美月に監禁されたというホラーな話を。
あの時の美月以上に怖いものは見たことが無い程、黒羽の脳には焼き付いていた。
「私の気持ちも気づいてくれないんだな・・・・黒羽のバカ・・・早く私の気持ちに気づけ・・・バカ」
「桜花、行くぞ」
桜花の呟いた言葉は黒羽に届くことは無く、二人は教室に向かった。
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ガヤガヤとした教室の扉をガラッと開けるといつもの空間が広がっていた。
とある男子グループが黒羽が入ってくると、その中の一人が挨拶をした。
「黒羽、帝さん、おはよう」
爽やかな声と共にこっちにきたのは高田直樹。その容姿、性格など、女性が魅力を感じる部分が多い為新音ではかなりの人気者だ。
最近では他校の女子生徒からも告白されるらしい。モテる男はそれなりに苦労するらしい。
「今日も手紙あるな」
「「ちくしょう、羨ましい‼」」
と、後ろから涙を流しながら二人の少年がこっちへ歩いてきた。
この二人も黒羽の悪友で小学時代からの付き合いだ。黒羽、桜花、直樹、友也、俊介の五人は昔からの友達。
桜花は今日も女子に囲まれ、少し困っている様子。
と、友也と俊介が直樹の前で抗議する。
「羨ましいぞ!直樹!」
「爆発しろ!リア充!」
「爆発しろって酷いな」
直樹が少し顔を歪め、黒羽は二人を落ち着かせる。
「友也、俊介落ち着けって」
「黒羽は黙ってろ!」
どうやら今日も二人のリア充に対する怒りは収まらないようだ。
(ここで手紙を出すのはまずいな・・・)
今ここでそんな物を出すと二人が暴走しかねない、黒羽は瞬時に判断し、そそくさと自分の机の引き出しにしまった。
と、教室の黒板側の扉がガラッという音をしながら、このクラスの担任が入ってきた。
「おーい、席につけー」
「今日も先生不機嫌だな」
少しダルそうな感じで声を発した担任の教師は悶々とした様子で教室の指揮をとる。
その教師の名は野中涼子、ルックスは特に問題無いのだがその性格さ故に色んな男性から避けられ、現在絶賛独身中なのだ。
以前はこの学校のモテる女子生徒に恋愛相談もしていたそうな。
「あの機嫌からすると昨日も合コン行ってダメだった感じだな」
「おい、五十嵐、斉藤聞こえてるぞ」
「お前ら宿題二倍!」
友也、俊介がこそっと呟くと教師はそれを見逃すこと無く、重い罰を二人に浴びせた。
「「うぁぁぁぁぁ」」
二人の悲しみの声が教室を木霊した。
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友也、俊介の罰が決まり、そのまま午前の授業が終わり新音は昼休みに突入した。
黒羽はノートに書き留める物を終え、ぐっと背伸びする。背中を反るとボキボキという音と共にふぅ、と息をする。
と、ずっと寝ていた俊介が辺りを見回し、時計を確認すると黒羽の席まで来た。
「黒羽ー、昼飯買いにいこうぜ」
あくびをこぼしながら、俊介が言ってきたが今日は予定がある為、今日は断ることにした。
「悪い、今日はパスで」
「ん?あぁ、いいけど、誰かと約束してんの?」
俊介が黒羽に問うと黒羽はノートをしまいながら言った。
「あぁ、ちょっと恵玲奈ちゃんに呼ばれててな」
すると、さっきまでの少し眠そうな表情は一変した。
「羨ましいーーー!」
一つ言い残し、猛スピードで教室から逃げるように出ていった。
「えっと、校舎裏か」
恵玲奈に呼ばれていたのは、さっきの手紙に書いてあったのだ。
教室で見るわけにはいかない、そう判断した黒羽はダッシュでトイレに駆け込み、手紙を見てみると校舎裏に来てほしい、と書いてあったのだ。
やはり、他人に好きと言われると何かむずがゆい物がある。
ドキドキが止まらない、校舎裏に近づけば近づくほど心臓の高鳴りが小刻みになっていく。
(落ち着け俺・・・)
深呼吸し、高鳴りを押さえる。だが、心臓の高鳴りはそう簡単には止まらない。
もう一度深呼吸し、校舎裏まで到達した。そこには、さっきの黒羽同様胸を押さえ深呼吸している恵玲奈がいた。
「恵玲奈ちゃん」
「ひゃう!」
黒羽が恵玲奈の名を呼ぶと、恵玲奈はすっとん狂な声をあげ、黒羽がいる方へ振り向いた。
恵玲奈の表情は真っ赤になっていて、今にも爆発そうだ。
「く、黒羽先輩・・・・」
いつもなら特に緊張もせずに話せるのに今日はまともに話すことも無理そうだ。
それは黒羽だけでは無く、もちろん恵玲奈も・・・。
「そ、それで話って言うのは・・・・」
「い、言わなきゃダメですか?」
真っ赤になった顔で言う恵玲奈は物凄く可愛くて、守ってあげたくなるような保護欲をそそられる感じがした。
「え、えっと、これはこういう事で・・・いいの?」
黒羽がそう言うと恵玲奈は何も喋らないまま、こくこくと頷いた。
という事は、そういう事だ。恵玲奈は本気で黒羽の事が好きらしい。
「桜花先輩がどれだけ美人で黒羽先輩の幼馴染みでも、負けません!」
すると、恵玲奈は黒羽に抱きつき顔を黒羽の胸に埋めた。程よく育った女子高生の胸が黒羽の胸でフニュッとつぶれる。
それだけではない、女の子特有の甘い香りが黒羽を包み込み、不覚にも赤面する。
「そ、その、まだ答えが出てないから、また明日でもいいかな?」
恵玲奈の気持ちはわかったが、黒羽の気持ちはまだ整理できていなかった。黒羽に好きな人はいない、というか誰が好きなのか本当の所、わかっていないのだ。
「・・わかりました、速く答え、くださいね」
恵玲奈が去っていった瞬間に、予鈴が鳴り黒羽は昼ごはんを食べられずに午後の授業に挑むことになったのは言うまでもない。
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授業内容が全く入ってこなかった午後の授業を終え、ようやく放課後。
おそらく恵玲奈も黒羽同様、授業内容が入ってこなかっただろう。
ちなみに桜花はと言うと、美月に用があるらしく先に帰っている。
(どうするかなぁ・・・・)
赤く染まった黄昏の空を見つめ、答えを見つけようとするが空を見上げるだけでは答えなど出てこない。
瞬間、棒立ちしていたはずの体が大きく揺れた。
え?という表情で前を向くと、周りの生徒達は何やら騒がしく逃げる生徒もいればスマホを片手に全速力で走る生徒もいる。
そして辺りの建物からは、けたたましい程のサイレンが鳴り辺りの一帯はパニックに陥っていた。
「地震だ!逃げろ!」
「お母さん!大丈夫!?」
「近くにいる方は講堂まで避難してください!」
今回の地震はかなり大きな地震のようだ。黒羽も講堂に逃げる為に、引き返すはずが黒羽は家の方向へ全速力で走っていった。
その時、助けたい!と激しく思ったのはある少女だった・・・・。
「はぁ・・・はぁっ・・・・」
本当なら全速力で走るとすぐに体力が切れるが、今黒羽にそんな物は無く家に行く、ただこれ一つだった。足がどれだけ痛かろうが、黒羽は足を止めること無い。
そしていつもの曲がり角を曲がると、いつもの景色が・・・・。
無かった。
家の並ぶ住宅は全て崩れ、その瓦礫と化した家に原型は無かった。
そこに人の影など無い・・・事は無く黒羽が捉えた人間は・・・・。
「美月姉!桜花!」
瓦礫に挟まり、血を大量に流している二人の少女がいた。黒羽は側まで行き、二人を確認するが息をしていない。
「美月姉!桜花!」
二人を瓦礫から引き出し、確認するが傷がひどく出血も大量、おまけに体の体温も奪われている。
「・・・・くそっ!」
思いきり地面に拳を当て、救えなかった自分に苛立ちを感じる。
刹那、黒羽のいた地面がひび割れ、黒羽は奈落へとなんの抵抗無く、落下する。
下へ行く度に、黄昏の空色が段々と見えなくなって行く。
そして、黒羽は一番底へ到達した瞬間、体中の骨が鈍い音と共に粉砕して行く。
それと同時に体から鮮血がどくどくと流れて行き、視界がぼやける。
血が流れる程体の体温は徐々に失われて行き、やがて黒羽は目を閉じる。
その瞬間、黒羽はもう目を開けることは無くなった。
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どうもミカエルです!
プロローグは一応完結です!
次から異世界です!よろしくお願いします!
一応毎日更新していくので完結まで暖かい目で見守ってくれるとありがたいです!