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第六章 朽ちた教会の下で

 あまりの寒気に、路貴(ろき)は意識を取り戻した。

「……」

 反射的に漏らしそうになった声を、ぎりぎりで呑み込む。相手に気づかれる前に状況を把握しておくべきだと、路貴の長年の経験が告げている。

 灯りはない。光の届かないこの場所は漆黒、のはずなのに、路貴の視野にはこの空間が青白く浮かび上がって見えた。

 周囲をよくよく観察しようとして、改めて路貴は肌に感じる冷気に歯を食いしばる。

 寒い……。

 真夏の季節とは思えないほどの、冷気。寒さに耐えながら、身体(からだ)を動かさないままに周囲を観察する。

 目に入るのは、同じ色の床と壁、そして天井。辺りは静かで、何の音も聞こえない。魔力の気配を探ってみると、感じるのは二つ。路貴の腕を拘束している魔術と、路貴の背後に似たようなものが一つ。どうやら、(きん)も路貴と同じ部屋で拘束されているらしい。それ以外は、これとった異常はない。

 ……冷房のせいじゃない。

 ……魔術で気温を下げてる、ってわけでもない。

 なら、ここはどこか?

 部屋には窓もなく、灯りもない。外の様子は窺えないが、この真夏でここまで冷え込むとなると、地下だろうか。

 ――なら。

 路貴は記憶を掘り返す。

 路貴たちは教会に来た。そして、金が教会の奥へと続く扉を見つけた。それから。それから……。

 そこから先の記憶が、ない。誰かに口を塞がれた気がするが、その後すぐに意識を失ったらしい。

 ……ここは、どこだ?

 教会の地下だろうか。まだ確信は持てない。もう少し情報を集める必要がある。周囲の気配を探ろうと、路貴はさらに意識を集中する。

「――もう目が覚めたか」

 その瞬間、上から声が降ってきた。

「……っ」

 目を(つぶ)ったまま意識のないフリを続けようかと思案したが、すぐに無意味だと判断して、路貴は首を(ひね)る。

 ぼんやりと、そこに人の気配がある。しかし、この漆黒の中ではその姿の細部まで見通すことはできない。

 と――。

 ――パチ。

 軽い音とともに、周囲に灯かりが灯る。

「……っ」

 反射的に、路貴は目を細める。

 不思議な灯かりだ。どこか一つに光源があるわけではなく、床や壁、あるいはこの空間そのものが微細な光を放っている。

 光に慣れてきて、路貴はその男を見上げる。上から見下ろされているというのに、この部屋を包む独特な光のせいか、影になることなく、男の表情までよく見える。

 若者、と呼べそうな顔つきなのに、その頭は白髪のショート。瞳は硝子(がらす)のような灰色で、口元には陰惨(いんさん)な笑みを浮かべている。

「予想よりも早いお目覚めだ」

 ああ、と男はどうでもよさそうに付け足す。

「貴様は呪術師だったか。こういうのには、抵抗があるほうか」

 改めて、路貴は周囲の気配を探る。動きがあるのは、この男と自分だけ。路貴の背後にいるはずの金に動きはなく、他にこの部屋にいるものはないらしい。

 路貴は薄く視線を上げたまま、男に問う。

「……テメーは誰だ?」

 ふん、と男はさも見下すように鼻を鳴らす。

「貴様がそれを知ることに何の意味がある?楽園(エデン)争奪戦の脱落者である貴様が」

 そう、あっさりと言ってのける男に、路貴は注意深く気配を探る。その、なんとなく感じた違和が間違いないと確信し、路貴は低く吐き捨てる。

「テメーに言われる筋合いはない。――たかが式神の分際で」

 ほう、と男は感嘆の声を漏らす。

「俺の正体に気づくか。……ああ、そうか。いまは欠片を使ってないからか」

 薄く笑みを漏らす男の口元は、喩えようもなく、不気味で不吉だ。

「なら、特別に教えてやろう。――ああ、その通り。俺は式神だ。貴様らにわかるように言えば『最後の』神託者(しんたくしゃ)の式神、マツキだ」

「最後の神託者、の式神……」

 その言葉を、路貴は反芻(はんすう)する。

 ――最後の神託者の式神。

 それは、路貴も予想していた。目の前のこれが式神で、それでいて楽園(エデン)の名を知っているなら、その主人たる魔術師は神託者。

 だが、と路貴は思考を重ねる。

 ……何故、そんなモノがここにいる?

 路貴たちは調律者の意見を聞こうと、調律者のいる教会を訪れたはずだ。そうして、教会の奥まで行こうとして、路貴たちは捕まった。

 調律者は、楽園(エデン)争奪戦を管理する者。あるいは、楽園(エデン)争奪戦の存在が社会に漏れないよう、魔術師同士の闘争が全うに行われるよう、監督する存在。

 そんな存在がいる教会に、果たして最後の神託者が潜んでいられるだろうか?調律者の膝元で路貴たちを襲って、それで調律者が見過ごすとでも?あるいは、見逃すように賄賂(わいろ)でも受け取ったか?それこそ、あり得ない。調律者とは、中立でなければならない。戦いが終結してもいないのに、調律者が誰か一人の神託者に肩入れするなど……。

 なら、何故この式神は路貴たちを捕まえることができた?式神は主人の命令に忠実だ。これは明らかに、最後の神託者の意思。――最後の神託者が、調律者のいる教会で、路貴たちを捕まえろと、そう命令を下したことに他ならない。

 調律者……最後の神託者……。

「!」

 唐突に、路貴は理解する。

 しかし、その閃きをすぐには呑み込めない。それでも、他に考えられることがあるだろうか、と自身に問い返す。

 哄笑(こうしょう)が、路貴の頭上で爆発する。まるで最高の見せ場を目撃したように、男――マツキ――は何も(はばか)ることなく、腹を抱えて、膝を打つ。

「随分と頭の回転が速いな、名継(なつぎ)路貴。こういう不意打ちも悪くない」

 まるで飽くことなどないかのように、マツキの笑い声は止まらない。仕組まれたイカサマに気づいた獲物の動揺を心底(たの)しむように、その衝撃と憤怒を嘲笑うように、マツキはどこまでも自制なく、突き抜けるままに、その愉悦を堪能する。

 その様を見るだけで、路貴には十分にすぎた。低く抑えた声で、しかし自身の激怒を抑えきれぬままに、その致命的な解答(こたえ)を吐く。

「――調律者のくせに、神託者かよ」

 それ以外に、考えられない。

 調律者なら、自分の城で罠を張るくらい、造作もない。しかも調律者なら、その権限を使って神託者のことを調べ上げることも容易だ。……自身が、楽園争奪戦(このたたかい)規律(ルール)なのだから。

 ああ、とマツキはようやく嘲笑を抑えて頷く。

「そうだ」

「それって、ありか?」

「別に問題なかろう。楽園(エデン)が選ぶのは、楽園(エデン)に相応しい魔術師だ。その有能な魔術師の一人が調律者であっても、楽園(エデン)争奪戦というシステムには何の障害も生まない」

 ハッ、と路貴は吐き捨てる。

「莫迦言え。調律者は楽園(エデン)争奪戦の管理者だ。管理を名目とした特権があるだろう。そんなモンがこの戦いに踏み込んだ時点で、すでに公平な戦いじゃない。調律者は本来、楽園(エデン)に触れることのない、中立な存在であるはずだ」

 調律者は楽園(エデン)争奪戦が問題なく行われるよう、戦いの様子を知る権利がある。この〝索敵し撃破せよサーチ・アンド・デストロイ〟において、敵情を知ることができるなど、どれほど有利なことか。

 だから、調律者が神託者などと、本来はあり得ない。そんな思い込みがあるから、誰も神託者の一人として調律者を疑うことはない。今回の最後の神託者は、最後になるまで気づかれることなく、安全な位置(ところ)から他の神託者が争う様を眺めていることができた。

 ああ、とマツキはまだ愉悦の余韻を愉しむように、口元を歪めたまま応える。

「今回の調律者も、そのことは心得ている。調律者はあくまで楽園(エデン)争奪戦を管理する者。楽園(エデン)が正しく(ただ)一人の神託者に渡るように、そのためだけに存在している」

 理解が追いつけずに黙した路貴に、マツキは幼い子どもを教え諭すように、限りなく優しく路貴に告げる。

「安心しろ。咲崎は楽園(エデン)を欲しない。あれはすでに、何の望みも持たないのだから」

 その明白な言葉を耳にしても、路貴は即座に納得できなかった。納得できるわけもない。楽園(エデン)とはあらゆる願いを叶える大魔術。遥か昔より、魔術師たちが望む世界の起源に達することもできるだろう。あるいはより俗な、自身の欲望を満たすこともできるだろう。

 人間ならば、いや、生命ならば、誰であれ何であれ抱く願望の形。

 ――それを持たないとは、一体どういうことか?

 理解できぬまま、路貴は自然、呟きを漏らす。

「…………どういうことだ?」

 怪訝と見上げる路貴に、マツキは小馬鹿にするように表情を歪める。

「おいおい、さっきの頭の良さはどうした。神託者は二人しか残っていないが、すでに一人は楽園(エデン)を得るつもりはない。――なら、楽園(エデン)が誰の手に渡るのか、それは明らかだろう?」

 残る神託者は、あと二人。――調律者の咲崎薬祇と、(にわ)か魔術師の雪火夏弥(ゆきびかや)

 咲崎薬祇は調律者としての立場に忠実で、そもそも楽園(エデン)に託す願いなどないという。もしも彼に望みがあるとすれば、それは正しき者に楽園(エデン)が渡ること。

 ――なら。

 楽園(エデン)を手に入れるのは、もう、一人しかいない――。

 (しか)り、とばかりに、マツキは()みを深くする。それは最後の饗宴を心待ちにする、惨忍(ざんにん)と嗜虐に恍惚とする捕食者の笑み。

「あとは、その一人が楽園(エデン)を望めば、此度(こたび)楽園(エデン)争奪戦は終わる。――いよいよ、待ち望んだ終焉が始まる」


 頭の中でノイズが響き渡る。それは、漆黒の夜に降る雨の音に似ていた。

 自然、夏弥は八年前の夜を思い出していた。それは、夏の夜の雨。夏なのに、その雨は真冬を連想させるほどに、冷たい。何もかもがなくなって、ただ、冷たい。

 家が崩れ、建物が崩れ、橋が崩れ。街灯はなく、路面は無残にひび割れ、辺りを暗い炎が照らしている。

 人の声はなく、人の姿も見えない。見えるのは、瓦礫の山、暗い炎、海の向こうで小さく蛍火が揺れている。

 あとは、ただ、冷たい雨だけ。

 それは、冷たい。夏なのに、夏のはずなのに、それは真冬のように冷たい。触れるそばから、何もかもを奪っていくような、そんな無慈悲。

 そこは、死んだ町。地図から消え、町としての機能も失って、周囲から外れてしまった場所。

 そこで、独りきり。それはきっと、孤独ですらなかった。自分さえ、この雨に流されて消えてしまいそう。

 その雨を浴びていた。

 その雨を眺めていた。

 いつやむとも知れず、辺りは寂れたように、暗い。ただ、ただ、流れる。夏の季節に、冬の雨が降り続ける。

 ――まるで。

 世界が、その死を悼むように――。

 雪火夏弥は目を開けた。

「…………」

 肌が、あまりの寒さに震えている。息を吸い込むと、凍えた空気が雪崩れ込んでくる。開いた瞳は、闇を見据えているだけなのに、この寒気に凍ってしまいそうだ。

 ――いや、ここは真に闇だけの場所だろうか。

 覚醒するにつれ、夏弥は周囲の様子に目を凝らした。

 狭い部屋だ。(ぼう)()に照らされて、ここは夏弥の部屋と同じくらいに、狭い。

 夏弥は、どうやらベッドの上にいるらしい。ぼんやりと、机の前にいる人影を見る。それが、この部屋の全て。夏弥のいるベッド、仄かな灯かり、机と、その机に向かう一つの人影。それ以上のものはなく、同時にそれ以上を詰め込めるだけの余裕もない。

 まるで、閉じ込められたような閉塞感。

 部屋という体裁を整えただけの、ここは棺桶(かんおけ)のよう。

 吊るされた灯だけが、唯一の温もり。されど、その灯は風前の灯火。風が舞ったら消えてしまいそうな、そんな弱々しい(またた)き。

 その灯に照らされて、夏弥はようやくその存在に気づいた。

「……っ」

 反射的に、夏弥は身を起こそうとして、失敗する。

 ……体が、ふらつく?

 意識は戻ったはずなのに、頭の中に重りでも吊るされたように、目の前が安定しない。体は止まっているはずなのに、まるで周囲が回転しているみたいに、不快。上半身を起こすのがやっとで、夏弥は立ち上がることができなかった。

 それでも、夏弥はその相手を見据える。男は机に向かって、何やら書き物をしているらしい。机の上には羊皮紙が並べられ、羽ペンとインクを使っている。夏弥の様子に気づいてか、男は羽ペンをインクの瓶に突き入れる。

 ゆるりと、咲崎薬祇は夏弥のほうへと振り返る。黒衣を身にまとい、両の手にも黒いグローブをはめている。顔に刻まれた皺は深く、瞳は硝子玉のような灰色。調律者にしてこの教会の主、咲崎薬祇は神父というより死人めいた姿で夏弥と向かい合う。

「――気づいたか、雪火夏弥」

 その声は、この死んだ部屋に相応しく低く、亡者の(うな)り声のような響きを含む。ベッドに手をついたまま、夏弥は対峙するように相手を睨む。

「咲崎、薬祇……」

 咲崎の、感情のない口元に、ふいに笑みが刻まれる。

「わたしのことを覚えていてくれたか、実に喜ばしい」

 口元は笑っているのに、しかし彼の表情は少しも微笑(ほほえ)んではいない。その硝子の瞳だけではない。顔全体が、まるで口の形は贋物であるかのように、笑みを感じさせない。

 夏弥は起き上がろうと両手を張ったが、しかし夏弥の身体(からだ)はそれ以上の動きに悲鳴を上げる。

 ……ただ、ひたすらに気持ちが悪い。

 視界は正常に働いているはずなのに、頭は世界が回転し続けているように痛む。無理にでも身体(からだ)を持ち上げようとすれば途端に吐いてしまいそうな、そんな不快を感じる。

「……どういうつもりだ?」

 ようやく、夏弥はその言葉を吐いた。

 身動きが取れずに見下ろされるのは快くなかったが、そんなことにかまっていられないほど、吐き気が酷い。

 夏弥の挑むような視線に、咲崎は沈痛な雰囲気を(かも)し出す。

「手荒なまねをしてすまない。だが、君にのみ話をしたかったがために、こうしてわたしの部屋にお招きした」

 まるで読み上げるような口調に、夏弥は無意識に身を固くする。

「話?」

 夏弥を眠らせてこの部屋まで運んだのは、どうやら咲崎の手配らしい。だが、咲崎がそこまでするほどの話など、夏弥には想像もつかない。

 訝しむ夏弥に、咲崎は迎え入れるように両手を広げる。

「まずは、君に祝賀を送ろう。おめでとう、雪火夏弥。君は楽園(エデン)争奪戦に最後まで勝ち進み、見事、楽園(エデン)に至る道を手に入れた」

 手を下ろした咲崎に、しかし夏弥は反応できないでいた。

 ――だって、そうだろう。

 夏弥が、楽園(エデン)争奪戦に最後まで勝ち残った……?

 楽園(エデン)を手に入れた……?

 突然そんなことを言われて、はいそうですか、なんて納得できるわけもない。

 だって――。

「……何を」

 一〇秒の間をおき、夏弥は口を開いた。

「何を、言っている?楽園(エデン)争奪戦は、まだ、終わっていない。俺の他に、もう一人、神託者が……」

如何(いか)にも……」

 低く頷きつつ、咲崎は右腕の(そで)をまくる。黒いグローブにかかった黒衣に手をかけ、曝した腕を夏弥に示す。

「君の他にもう一人、神託者はいる」

 そのセリフと、その腕に刻まれたモノが同時に夏弥に衝撃を与える。

「……!」

 咲崎の右腕に刻まれた禍々(まがまが)しい模様。楽園(エデン)争奪戦で〝刻印〟と呼ばれる、それは参加者の証。すなわち、刻印を持つ者こそ、神託者。

「お前が…………」

 吐き出した声は、震えていた。恐怖では、ない。それ以上の、これは、怒りだ。

 だって、そうだろう。

 目の前の男こそ、最後の神託者。無関係な人たちを襲い、魔力を強奪し、神隠しという名の恐怖を町に呼びこんだ、張本人。

 だが、と咲崎は再び腕を隠す。

「その神託者は楽園(エデン)を望まない」

 芝居がかった口調で、なおも咲崎は続ける。

「わたしは調律者。楽園(エデン)が、それを手にするに相応しい魔術師に渡ることを望む。わたしが楽園(エデン)を手にするなど、そのような(おそ)れ多いことは考えもしない」

 穏やかに目を閉じ、緩やかに首を横に振る様は、咲崎の心境を反映しているようにも見える。しかし、激昂した夏弥にはそんな演出にすら、怒りが込み上げる。

 何故、そんなことをする――?

 何故、そんなことができる――?

 行方不明者は、いまだ見つかっていない。現場には、襲われた人のモノと思われるバッグや衣服が落ちている。

 魔術師ではない一般人には、それほど魔力はない。しかし、魂から魔力を抽出するのなら、話は別だ。魂からは、膨大な魔力が得られる。人間一人で、大魔術に匹敵するほどに。

 ただ行方不明者が出た、という事件ではない。人が、忽然と姿を消す。バッグだけでなく、衣服まで落ちているなんて、それは異常だ。

 ゆえに、人々はそれを神隠しと呼ぶ。魔術師たちなら、魔力を得るための法だと、多くの者が気づいている。

 ――なら。

 夏弥は咲崎を睨み上げる。

 こいつが、この男が――。

 そんな夏弥の感情など無視するように、咲崎は最後のセリフを語る。

「ゆえに、君が真に楽園(エデン)を望むのであれば、わたしが預かった刻印は君のものだ。そして、楽園(エデン)への鍵は君の前に現れ、君は、楽園(エデン)に相応しい最高の魔術師という名の栄誉を勝ち取るのだ」

 それは、舞台の上で演じられる役者のセリフのようだ。この男が口にする一つ一つが、(あらかじ)め定められているかのよう。

「何を……」

 夏弥は、しかし――いや――だからこそ、咲崎のセリフを無視する。そんなものは相手になどしてやらないと、(たぎ)る憤怒のままに、問う。

「咲崎薬祇。お前が〝神隠し〟の正体か――?」

 それは、問うまでもないこと。しかし、意識が安定しないせいか、夏弥は問わずにはいられなかった。

 咲崎は目を閉じて俯く。それが苦悩ではなく、まるで嘲弄(ちょうろう)するかのようだったから、夏弥の激怒はさらに言葉を吐き出させる。

「答えろッ!」

 夏弥の周囲が、ぐらぐらと揺れるような錯覚。しかし、そんな吐き気に堪えようと、夏弥はただ激情のままに咲崎を睨む。そして、目の前の男からの返答を、ただ待つ。

「――如何にも」

 静かに、咲崎は呟くように応える。

 咲崎の口元が、一瞬、歪んで見えた。しかし、再度夏弥が視覚に意識を集中させたときには、咲崎の顔は変わらぬ無感情のままだった。

 それでも、夏弥の激情は止まらない。

「お前が…………。お前は…………ッ!」

 溢れて、止まらない。そのままに、夏弥は叫ぶ。身体(からだ)がぐらついて、今にも倒れそうだったが、両の手に力を込めて何とか耐える。

「お前は、言ったはずだ。神隠しを起こすようなヤツを、なんとかしないといけない、と。自分の手ではどうすることも、できない、と!」

「わたしが口にしたのは――」

 静かに、咲崎は夏弥の言葉を遮る。

「神託者の中に、人を襲う者と、それを世間に告知しようとする者の、少なくとも二人が存在する、ということ。そのような存在は早急に対処しなければならないが、楽園(エデン)の意思を受けたものを止めるのはなかなか容易ではない、ということのみだ」

 それが何を意味しているのか、夏弥は咄嗟に理解できなかった。

 しかし、吐き気に耐え、意識を集中させるにつれ、じんわりとその言葉の真意を理解する。

 ――襲撃者と、密告者。

 ――その二人が、神託者の中にいる。

 咲崎は、そのような存在は早急に対処しなければ、としか言っていない。それがどのような存在かなんて、咲崎は明らかにしていない。咲崎がなんとかしなければと考えている相手が果たしてどちらかなんて、咲崎は口にしていない。

「咲崎……!」

 そのイカサマに、夏弥の胸の内はさらに黒く(よど)む。卑怯だと吐き捨てることができればどんなに楽だろう、しかし夏弥は怒りのあまり、そんな思考も回らない。

 咲崎の口元が、夏弥の目の前で明らかに歪む。

王貴士(おうきし)、か。彼に阻まれてしばらく身動きが取れなかったが。だが、感謝する、雪火夏弥よ。君のおかげで、わたしは再び、何ものにも(おび)えることなく、町を歩くことができるのだから」

 咲崎薬祇が、神隠しの犯人だった。王貴士は、咲崎の気配を追っていた。例え咲崎の欠片が魔力の気配を隠すものであっても、貴士の欠片は微弱な気配を探知することができた。

 だから咲崎は、最初こそ無関係な人を襲うことができたが、次第に貴士の影に怯え、身動きが取れなくなっていった。しかし、貴士は一週間ほど前、夏弥に敗れた。だから、咲崎は再び楽園(エデン)争奪戦とは無関係な人たちから魔力を奪うことができるようになった。

「咲崎。お前が。お前が、無関係な人たちを、襲って……!」

 もはや、疑う余地などない。そもそも、咲崎もすでに認めたのだ。――咲崎(じぶん)が、神隠しの犯人だと。

 夏弥にとって、それは許しがたい告白だ。

 夏弥は、誰も死なせたくなくて、だから楽園(エデン)争奪戦に参加すると決意した。魔術師でもなんでもない、魔術師の考え方も目指すものも知らない夏弥が楽園(エデン)争奪戦――魔術師最高峰の戦い――に自分の意思で臨むと、そう決意したのは、魔術師の在り方に納得ができなかったからこそだ。

 ――敗者は死んで当たり前だとか、何かを得るために犠牲はつきものだとか。

 そんな理不尽が許せなくて、雪火夏弥は戦うと決意したんだ――。

 だから、夏弥は許せない。

 無関係な人を襲い、ただ自分の都合で誰かを傷つけた、っていうのに、目の前の男は、まるで何とも思っていない。

 そんな咲崎の無表情が、なおも夏弥の激情を(あお)る。にやり、と咲崎の口元に愉悦が浮かぶ。その歪んだ口元は、夏弥にとってはより致命的だ。

「――わたしを殺すか?少年」

「……!」

 夏弥の喉が、急に締め上げられたように苦しくなる。返す言葉もなく、思考すらまともに回らない。

 だって……それは……。

 咲崎が、幽かに頷きを見せる。

「そう――。それは君の真の願いではない」

 自身の思考を見透かされて、しかし夏弥は何も返せなかった。それが夏弥の(なか)の真実だから、夏弥は打ちのめされたように、言い返せなかった。

「君は殺人を犯したいがために楽園(エデン)争奪戦に参戦したわけではあるまい。君は、この町を戦火から救うべく、戦う意思を固めたのではなかったか」

 それが、夏弥の意思。

 もう、誰も理不尽に命を落とさないように。それは、きっと憶測だけれど、八年前の災害から続いている。何もかもが失われ、夏弥だけが生き残った。一人、崩れた町を見ながら、死体の無い(むくろ)を眺めながら、夏弥は、無性に泣きたかった。

 世界は、哀れむように、冷たい雨を降らせる――。

 だから、夏弥は決意した。

 ――もう、誰も死なせない、誰にも殺させない、守る、と。

 その決意を見透かし、そのうえで(えぐ)るように、咲崎はさらに言葉を重ねる。

「――だが、楽園(エデン)争奪戦の最中(さなか)、多くの犠牲者が出た」

 心臓が、鷲掴みにされたように、(あえ)ぐ。

 夏弥は、それを知っている。他でもない、夏弥自身が関わったこと。守ると、そう決意したはずなのに、夏弥が守り切れなかった人たちは、たくさんいる。

 本当に、それは仕方のないことだったのか。守れなかったことは必然だったのかと、夏弥は苦悩した。その解答(こたえ)は、今もまだ見つかっていない。

 その夏弥の苦悩を知ってか、咲崎は罪状を読み上げる審判官のように、優しく笑む。

「神託者の中にも、命を落とした者はいる。その他、楽園(エデン)争奪戦とは直接の関わりを持たぬ者までが傷を負った。魔術師だけでなく、この町に住む、無知な子羊たちも……」

「お前が、それを言うか?咲崎」

 息苦しさに耐えかねて、夏弥は反発するように口を開く。声を上げても、ちっとも苦しさは消えてくれない。余計に喉を締め上げられたような錯覚さえ感じる。

 夏弥は返事を求めて、咲崎を見上げる。見下ろす咲崎は、被告人を眺める裁判官のように、問う。

「では君は、わたしを糾弾(きゅうだん)するか?断罪を求めるか?」

「……っ」

 夏弥は返事に詰まる。

 人の悪行を許せないから、その人を裁くのか。許せないから、だから報復を望むのか。

 憎悪、怨嗟、そして憤怒。その先に、人は罪という形を作る。それを罪と呼び、そこに罰を求める。

 その処断を、夏弥は求めるのか……?

 咲崎は優しく、その先を形にする。

「君がそれを望むのであれば、きっと楽園(エデン)はその求めに応えてくれるだろう。わたしのみならず、この世のあらゆる悪を葬ってくれる」

 だが、と咲崎は問いを発する。

「それは君の真の望みか?雪火夏弥。自身に問うてみるが()い。それが君の求めるものなのか?欲するものなのか?君の願いは、()くあるか?」

 自身に、問う。

 ――それは。

 ああ、なんて。

 無意味――。

 夏弥は決意したはずだ。

 夏弥の意思は、すでに形になっている。

 だから、問うまでもない。迷いなんて、そんなものは認めない。そんな躊躇(ちゅうちょ)、夏弥自身が許せない。

 何故、夏弥は楽園(エデン)争奪戦に参加すると決めたか?魔術師の自覚もない夏弥が、魔術師最高峰の戦いに挑む。その決意は、真意は、一体どこから、何から生じたものか?

 魔術師ではない、だからこそ、ではなかったか。人が理不尽に死ぬ様を見たくないと。人が人を殺すなんて、そんなものは許せないと、そう叫んだからではないか。

 守る、と――。

 ――そう、決意したからではないのか。

 夏弥は吐き気を抑え込み、真っ直ぐ咲崎を見返す。

「違う」

 夏弥は、違えぬ意思を口にする。

「俺は、誰かの死を望んだりなんか、しない。もう、そんな。理不尽に誰かが命を落とすなんて、許せなくて。だから俺は、最後まで、勝ち進んだんだ」

 どんな相手でも、夏弥は死んで当然なんて、口にしない。例え敵でも、どれほど憎悪する相手でも、夏弥は死ぬべきだとは思わない。

 死とは、それほどに重いこと。

 死の後に残るのは、ただの虚無だ。何も、ない。残るのは、ただの闇。世界はその死を悼むように、冷たい雨を降らせる。

 ――そう。

 冷たい――。

 八年前、海原(あまはら)の町がただ冷たかったように。

 五年前、育ての親である玄果の肌が冷たかったように。

 ただ、冷たく。無性に、泣きたい。

 ……それが、死。

 夏弥は、そんなものを望まない。例え相手が、どれほどの罪を犯していたとしても。夏弥が裁く権利など、ないのだから。

「――宜しい」

 夏弥の決意を受け止めるように、咲崎は重く頷く。瞑目した闇の向こうで何を思うのか、夏弥に知る(すべ)などない。

「だが、それで満足かな?」

 薄く瞼を開け、咲崎が問いを発する。その呟き漏らした問いに、夏弥は反射的に問い返す。

「なに……?」

楽園(エデン)ならば、その理不尽を取り戻すことができよう」

 灯に照らされて、咲崎は告げる。その揺るがぬ姿勢に、夏弥はぐらぐらと身体(からだ)が揺れる錯覚を感じる。

 咲崎は、歪み一つなく続ける。

「理不尽が許せないというのなら、それこそが君の願いだ。理不尽に人が死ぬのを認められないならば、それを望めばいい。さすれば、楽園(エデン)は君の求めに応じよう」

 ぐらり、と視界が歪む。

 夏弥は、理不尽な人の死が許せない。誰にも、人の命を奪う権利なんて、ない。己の都合で人を殺めてしまったら、どんな言い訳を重ねても、無意味だ。

 人の死は、その瞬間に決定される。そして死とは、致命的。限りなく虚無で、どこまでも冷たい。

 その夏弥の思想の前に、この教会の主が(ささや)きかける。

 ――その理不尽を覆す。

 ――それを望むのであれば、楽園(エデン)はその求めに応えてくれる。

 理不尽な死を覆すとはいかなることか。夏弥は即座に理解する。だが、その理解は、夏弥の備えている理解の範疇を逸脱している。

「そんな……」

 莫迦な、と叫びかけた声が喉に引っかかる。あまりの衝撃に、夏弥の声はそれ以上続けられなかった。

 何度も、荒い呼吸を繰り返す。そのたびに視界が揺れ、(ボウ)、と宙空(ちゅうくう)の灯が揺らめく。また視界が歪まぬうちにと、呼吸を整えた夏弥は叫び込む。

「……死んだ人間が、蘇るわけがない!」

 それが、夏弥にとっての当然の結論だ。

 死んだ命を救い上げるなど、そんなことができるわけがない。瀕死の淵にしがみつく命に手を差し伸べることはできるだろう。しかし、一度奈落の底に墜ちたものを再び現世に還すなど、そんな奇跡はあり得ない。

「――君は、魔術の深奥を知らない」

 灯の後光を浴び、黒衣の神父は必定とばかりに説く。

「魔術には、不死を求めた秘術が数多くある。不老長寿の秘薬、生ける屍(リビング・デッド)。死と再生は、古代より人々を惹きつけた奇跡。世界に最も近いとされる楽園(エデン)が、その奇跡に遠く及ばぬとでも?」

 その揺るがない姿勢に、夏弥の身体(からだ)はふらりと浮く。

「……っ」

 倒れまいと、夏弥は両手でベッドを握り締める。視界は正常なのに、頭の中の認識だけがぐるぐると回り続ける。まるで、頭蓋を遠心分離器にかけたように。ギリギリと頭蓋が痛み、酷い吐き気が夏弥を襲う。

 この吐き気に、しかし夏弥は逃れる術を持たない。目を閉じることもできず、夏弥は対峙する相手を見上げ続ける。

「全ては、君の求めるままに。人々の死を嘆き、その理不尽に怒るというのなら、願うがいい。君の真実の声に、楽園(エデン)はきっと応えてくれるはずだ」

 (ボウ)、と灯が揺れる。

 その灯かりを視界に捉えながらも、しかし夏弥は温かさを感じない。この部屋は、すでに死んでいるように、冷たい。

 その寒気すら、夏弥の望むままだというように、咲崎は静かに笑みの形を作る。

「――さあ、雪火夏弥」

 歪んだ口元が、その言葉を吐く。

 教会の下、棺桶のように冷たい部屋の中、栖鳳楼(せいほうろう)が死んだ魔術師と称したその神父は、その問いを口にする。

「君は、楽園(エデン)に何を望む――?」


 問いが、夏弥の頭の中で木霊(こだま)する。それは、言葉という形すら保てていない。反響し、残響した音は、意味のないハウリングに似ている。そんな形のない問いが、夏弥の思考の中で霧となっている。

 ――俺は……。

 自問という名の独白。口になどしない。ただ、思考の中で、孤独の中で問うているだけ。その問い先が真に自身なのかもわからないまま。

 霧の中に、薄く影が浮かぶ。白の中に滲む、灰色の群れ。初めは遠かったその歪みは、次第に夏弥との距離を詰めるように、その暗さを深めていく。

 夏弥は、金縛りにあったように動けない。心さえ、その得体の知れない者たちの接近に、揺さぶられることもない。思考すら停止した中で、その不吉は徐々に夏弥に迫る。

 (ボオ)、と。

 正面の影がその姿を見せる。

 ――竜次(りゅうじ)、先輩……。

 夏弥と同じくらいの背丈、だがその顔だちは夏弥なんかとは比べものにならないくらい美形で、髪には少し癖があり、そんなところも彼の魅力を引き出す。自信家で、気取った身振りなども、彼の性格をよく表す。感情がすぐ態度に表れて、激昂することも多々あるけど、そんなワイルドさも女子の間では人気だったりする。

 水鏡(みかがみ)竜次――。

 しかし、いま夏弥の目の前に立つ竜次には、彼の魅力は欠片も感じられない。

 ボロボロの制服、硬いアスファルトの上を転げ回ったように汚れて、所々破れている。霧のせいで細部までは見て取れないが、彼の表情だけははっきりと見える。いつもならちゃんと整えられた髪も、もはや無秩序。頬からは明るさが消え、目は死人のそれだ。あの自信に満ち溢れた竜次の面影は、まるでない。

 と。

 竜次の目から(なみだ)が流れる。

 ――その色は、(あか)

 頬を伝い、首を伝い、その色は脚まで流れて霧の中に滲む。

 目、だけではない。口からも、髪の間からも、その色は流れ出す。流れ出して、止まらない。まるで竜次自身を赤く染めようとするかのように、容赦なく。

「…………」

 竜次の目が、そこで初めて夏弥の存在に気づいたように、じっと凝視(みつ)める。その()は、何の感情も表していない。感情が表に出るタイプなだけに、その無表情はあまりにも異常すぎた。

 その異常を突きつけられて、しかし夏弥は黙って見返すことしかできない。まるで心が石ころになってしまったように、ただ記憶だけが掘り起こされる。

 ――竜次先輩……。

 丘ノ上高校での、夏弥の先輩。その竜次は、楽園(エデン)争奪戦で命を落とした神託者。竜次は楽園(エデン)争奪戦で勝ち残るために、丘ノ上高校に結界を張り、残っていた生徒・教師関係なく、無差別に魔力を得ようとした。

 魔術師の中で、一般人に魔術の存在を知られることは禁忌(タブー)とされている。魔術を行使するなど、もってのほか。ゆえに、禁を犯した竜次は処断された、栖鳳楼の手によって――。

「……」

 夏弥は何も言わない。竜次に声をかけようとさえ、しなかった。そういった思考が、何故か働かない。

 夏弥は竜次の死を直視していない。しかし、夏弥は竜次を死に追い込んだ、その意識はある。

 夏弥は竜次の結界を破壊し、竜次の刻印も奪った。神託者ではなくなった竜次を、夏弥は生かして逃がした。そもそも、夏弥には竜次に止めを刺す、なんて考えはなかったのだから。

 しかし、それは魔術師たちの流儀には反する。魔術師同士の闘争において、勝負を決するとは生か死かを分かつということ。加えて、竜次は一般人に手を出した。弁護の余地すらない。だから、白見の町を影から支える血族(けつぞく)(おさ)、栖鳳楼は竜次の命を断った。

「…………」

 それは、魔術師たちにとって当然の結末。しかし、夏弥はもともと魔術師ではない。魔術師の素質はあっても、魔術師としての教育はこれまで受けていなかった。だから、夏弥は魔術師たちの常識を知らないし、そんな考え方を認めない。

 だから、これは夏弥への問い。……助けることはできなかったのか?どうして止められなかったのか?自分には、これ以上のことは本当にできなかったのか?

 周囲の影が、また揺れる。自然、夏弥の視線はその影に引き寄せられる。

 ――雨那(あまな)ちゃん……。

 白のジャンパースカート、腰まで伸びた翠の髪、赤いリボン。小学校中学年くらいの小さな女の子。

 そんな容姿をした彼女は、夏弥の前では一生変わらない。だって、その姿(かたち)は魔術によって構築されたものだから。その恰好が、本当に彼女のものかわからない。その容姿が、本当の彼女のものかわからない。その年齢が、その性格が、真実の彼女なのか、夏弥にはわからない。

 夏弥が知っているのは、雨那という名の少女だけ。痛みを知らない、どこか遠くの場所から世界を見下ろしているだけの、そんな女の子。

 目の前に現れた彼女は、ただ儚く微笑(わら)う。その表情は、彼女の最期の瞬間を夏弥に想い起させる。

 雨那は死んだわけではない――そう、夏弥は信じている――けれど、その瞬間は、夏弥の中で鮮烈なイメージとして残っている。

 心臓を貫かれ、磔にされた少女。彼女を刺した剣を握っているのは、夏弥自身。例え幻想の肉体(からだ)でも、開いた穴からは鮮血が溢れ続ける。

 ――目の前の灰色の彼女が。

 微笑を浮かべたまま、(あか)く染まっていくように――。

 雨那の()に狂気の色はない。しかし、彼女の胸を中心に、その強烈な色が波紋のように拡がっていく。

 ――雨那、ちゃん……。

 突きつけられて、呆然と、夏弥は思い返す。

 決して忘れてしまったわけではないのに、彼女のことについて、夏弥はこれまで深く考えていなかったことを知った。

 あんな姿になっても、彼女は死んだわけではない。魔術で作られた肉体(からだ)は、その姿(かたち)を維持するだけの魔力を失って消えただけだ。

 なにより、夏弥は雨那から刻印を受け取っていない。だから、彼女は死んでいないのだと、夏弥は信じることができた。

 ――けれど。

 その後は――?

 雨那は神託者だ。他の神託者が、放っておくはずがない。今に至るまで無事でいられるなんて、誰が保証できる?

「……」

 夏弥には、わからない。だから、夏弥は何も言えない。こんな単純なことに気づけなかった、自分には。

 そして。

 もう一つの影が、夏弥の前にその正体を見せる。

「…………」

 名前が咄嗟に出てこなかった。決して、忘れたわけではない。ただその存在そのものが、夏弥にはあまりにも致命的だった。なのに、この霧の中では夏弥の感情はちっとも動いてくれない。ただ淡々と、目の前の事実を受け入れる自分は、まるで機械と同じ。

 ――み、か、が、み。

 丘ノ上高校の同級生、同じクラスで、初めの頃は席も近かった。今でも、幹也(みきや)と混ざって昼は一緒に食べる。家も割と近くだからと、待ち合わせて登校している。夏弥が自炊していることを知ってから、彼女も自分でお弁当を作るようになり、料理部にも顔を出している。

 夏弥にとって、彼女は近くにいた存在。楽園(エデン)争奪戦が始まる前から、ずっと続いていた交友。

 ――なのに。

 目の前の水鏡は、竜次や雨那以上に、色が抜け落ちている。恰好も、丘ノ上高校の制服姿ではなく、身につけているのは真っ白な死装束。

「…………」

 認識した途端、その存在は霧に溶けることなく、夏弥の視界を埋める。まるで、背景が夜に変わったよう。

 ――そう、あの夜。

 白見の町は結界で覆われ、辺りは歪な闇。彼女は半壊した民家の中で、一人、立っていた。歪な闇の中に浮かぶ、異常な白。身にまとった衣装も、肌も、髪でさえ、それは透けてしまいそうなほどの、白。唯一、白に染まらない瞳は、死斑(しはん)のような薄いスミレ色。

「…………」

 夏弥の前に現れた彼女は、しかしこれまでの二人と違って、それ以上の変化はない。その異常な白のまま、その空洞の()を夏弥に向けるだけ。何も語らず、何も発せず、生きた人形のように、水鏡は静止している。

「……………………」

 夏弥は、動けなかった。

 水鏡は、まだ生きている。病院のベッドの上で、意識不明のまま、けれどまだ生きている。それを、夏弥は知っている。

 なのに、夏弥は何も言えなかった。

 彼女の名を呼ぶことも、否定することも、何もできず、夏弥は彼女の姿を見ているしかない。いや、見えているのかさえ、怪しい。夏弥の動きは止まったまま。

 周囲で、灰色がざわめく。

 それ以上の形は見えない。しかし、いま夏弥が目にした無慈悲以上のものがあるのだと、そう訴えるように、姿(カタチ)の無い影が(うごめ)いている。

 白い霧が、次第に灰色の群れで埋まっていく。闇に近い、暗い灰色。それが、グルグル、グルグル、と。夏弥の周囲を埋めていく。夏弥が知っている姿も、次第にその色に呑まれて、一瞬見えるような気がするだけだ。

「――――」

 夏弥は無感情に、その悪夢を凝視し続ける。

 その正体を、夏弥も気づいている。蠢く影の中で、暗い腕が手招きしているような気がする。それは、呼び声ではなく、きっと、懇願の声。失われたモノ、けれど、それは失われる必然なんてなかったモノ。その消失は、理不尽と呼ばれるもの――。

「――――――――」

 喉が渇く。あるいは、息苦しい。求めるように、夏弥は口を開く。無音の中で、鼓動が脈打つ。凍えそうな霧の中で、体が灼熱しているような錯覚。

 グルグル、グルグル……。

 灰色の視界、影が廻る、暗い腕が夏弥へと伸びる、それは声無き求め、この苦しみを救える唯一の存在へ。

 ――君は、偽善者か?

 不意に、声が夏弥の体を揺さぶる。その声は、一体誰のものか。

 ――これだけの不条理、これだけの絶望を前にして、君は彼らに背を向けるのか?彼らの求めを振り払うのか?

 灰色の影が廻る、その隙間から時折、白い霧が揺れる。もう、その影が誰なのかもわからない。なのに、差し出される腕だけは脳裏に残り続ける。

 ――君の願いを、口にしたまえ。

 失われるはずのなかった命。理不尽に突きつけられた死。どうして、この世界はこんなに無慈悲に死を与えるのか。

 ――ああ。

 この理不尽を――。

 そう、口が動きかけた、瞬間。

「………………」

 あの光景が、フラッシュバックする。

 そこには、なにもない。あるいは、満ちている。そこは、それだけで完成した閉じた輪。ゆえに、そこは永遠に変わらない。

 きっと、無限に変わらない。

 停滞し、静止し、停止する。

 ――ああ、そうだ。

 腕が、動く。同時に、その感触を思い出す。

 顔を上げる。視野が広がる。灰色の影は次第にぼやけ、その存在は虚のように白に溶けていく。

 ――そんなのは、ウソだ。

 口を動かそうとして、頬に力が入る。まだ口は動かなかったが、それは問題ではない。少しずつ、体に力が戻る。感覚が蘇り、白い霧さえ暗転する。

 ――それは、もうずっと前に否定した。

 体の熱は残っている。周囲の寒さも消えはしない。でも、握り締めたこの感触は本物だ。

 目の前に灰色の影はない。白い霧もない。あるのは、たった一つの灯。そして、それ以外の圧倒的な闇。まるで生命を許さないような、暗く冷たい棺桶の中。

 棺桶の中の死者に向けて、夏弥の口は遂に言葉を吐く。

「いらない」

 躊躇することなく、(かす)れることなく、その言葉は確かに形になった。

「……………………なに?」

 死者は訊き返す。無表情で見下ろしてくるその顔には、得体の知れない力が込められていた。

 しかし、夏弥は(ひる)まない。夏弥の意思は決して歪んだりしないのだと、その決意を表明し、宣言する。

「俺は、楽園(エデン)なんか、いらない」

 夏弥は理不尽な死を許さない。けれど、それを覆そうと、永遠にその死を受け入れられないなんて願ったら、それは停止だ。過去を永遠に保とうとして、幸福であり続けようとする。でも、それは現在(いま)の幸せにはならない。だから夏弥は否定した。そして、いまも否定できる。

 ――楽園(エデン)なんか、いらない。

 見下ろす死者に向けて、夏弥は不屈を目で訴え続ける。どれだけ懇願されようと、どれだけ罵倒されようと、――――どれだけ激昂されようと。

 ――そう。

 咲崎の表情(かお)が、憤怒に歪んでいる――。

 それは、確かに歪だ。今までのどんな表情より、いっそ清々しいくらいに、それは歪。敵意なんて、そんな生易しいものですらない。

 それは、否定に近い。存在の否定、在り方の拒絶。そんな返答(モノ)は認めぬと、その激情の()が語っている。

 その、これまでの咲崎にはあり得ない表情にも、しかし夏弥は目を逸らさない。対峙するように、夏弥は咲崎を睨み返す。

 まだ体は重いが、気持ち悪さはもうない。あと少しで、体も自由に動くだろう。仮に動けないままだったとしても、夏弥は咲崎の前で決意を曲げる気はない。

「そうか――」

 静かに、咲崎は呟く。同時に、彼の顔から色が失せる。もう、そこには激情もなければ、あらゆる感情も見て取れない。

 死んだ表情で、咲崎は夏弥を見下ろす。

「――――了解した」

 咲崎は一歩、夏弥へと近づく。同時に、黒いグローブに覆われた右腕が上がる気配を夏弥は察知する。夏弥は臨戦態勢に入ろうと、反射的にベッドから両手を離していた。


 轟音とともに、夏弥の視界が粉塵(ふんじん)に包まれた。夏弥に対峙していた咲崎は、その粉塵に包まれて見えなくなる。

「……っ」

 夏弥は咄嗟に腕で口を覆う。同時に、灯が落ちたために周囲は闇に包まれる。無明の中で、夏弥は何事かと頭を働かせる。

 灯が消える直前、視界の端で扉が吹き飛ばされたのを見た気がする。どうやら、誰かがこの部屋に侵入してきたらしい。

 ……でも、誰が?

 なんて疑問は、すぐに晴れる。目の前の煙から、彼女は姿を現した。

「夏弥ッ!」

 呼ばれて、夏弥は反射的に頭上を見上げる。

「…………」

 すぐには、声が出なかった。

 漆黒の闇の中で、しかし夏弥は彼女の存在を感じ取ることができた。銀の髪が、闇の中でも煌めいて見える。その姿を、夏弥が見間違えるはずがなかった。

「ローズ……」

 ようやく出てきた声は、自分でも情けないくらい、震えていた。

 本当なら、彼女に負けないくらいの声で叫びたかったのに、いざ本人を目の前にしたら、こんなに声が震えている。もっと近づいて、直接触れて無事を確かめたいのに、ただ会えただけで、こんなにも体が言うことを()かない。

「…………」

 もう一度彼女の名を呼ぼうとして、しかしその声は続かなかった。ローズは夏弥の腕を掴み、そのまま夏弥を抱え込むようにして天井に向けて飛んだ。その勢いのまま、ローズは天井を突き破り、地上へと出る。

 衝突の衝撃と、降り注ぐ瓦礫のために、夏弥は咳き込んだ。一方、ローズは夏弥をしっかりと抱えたまま、正面の扉に向かって駆け出した。いや、すでにローズは宙を駆けていた。

「うわっ……!」

 振り落とされまいと、夏弥は必死でローズにしがみつく。

 ローズは力ずくで扉を押し開けた。古い木の扉はその衝撃で呆気なく砕け散った。そんな破壊の痕も頓着しないまま、ローズは振り返りもせず、虚空に向けて飛び立った。今度こそ、夏弥はローズとともに空を飛んでいた。自力で飛ぶことなんてできない夏弥は、ただ落ちないようにと、ローズの首から肩にかけてしがみつくしかなかった。


 一方、教会の地下。咲崎薬祇の自室にて。

 咲崎は押し込まれた机から起き上がる。軽く衣服の上を払ってから、咲崎は宙空に手を差し出す。

 ――(ぼう)

 灯が灯る。灯に照らされて、崩れた部屋が()に染まる。

「…………」

 粉塵がすっかり晴れて、咲崎はぽっかりと開いた天井の穴を見上げた。強引に開けられた穴からは、いまだ微細な木屑が散っている。それ以外は、こちら側からは窺い知ることができない。下には灯かりがあるが、上は灯かりもなく、闇に閉ざされている。

「なるほど。個々の部屋には結界をかけていなかった」

 子細に被害を測るように、咲崎は目を(すが)める。

 この教会には、侵入者を閉じ込めるための魔術が施されている。それは礼拝堂から地下に通じる階段までの通路と、地下の広間に、だ。

 地上の通路には空間そのものを歪める強力な魔術が仕掛けられている。それは、術者である咲崎の意思によって、如何ようにもその形態を変化させる。咲崎が望むなら、それは一本の道になることもあるだろうし、または複雑怪奇な迷宮になることもあるだろう。やりようによっては、一生外に出ることの叶わない、閉じた輪にすることもできる。

 地下のほうには、方向感覚を狂わせる幻惑が施されている。地下には等間隔、同一の扉が用意されており、侵入者がどこに向かっているのか、あるいはどこに入ったかを惑わせる効果がある。

 その(ことごと)くを回避するために、夏弥たちは部屋の天井を突破することによって、この教会から脱出した。

 もしも今後、万全を期すならば、個々の部屋、あるいは礼拝堂の床板に至るまで、鉄壁の魔術を施すべきなのだろうが、生憎(あいにく)、咲崎にはそれを実行に移そうという意思は皆無だ。

 ――そんな必要はない。

 すでに、戦局は次の段階に移行している。そんな状況で城の防護に力を注ぐなど、誰もやりはしない。

 ――そう。

 互いに、相手の正体を()たのだ――。

 ならば、次の一手は、もう決まっている。

「一段落したら、修繕を依頼しよう」

 呟きを漏らし、咲崎は机のほうへと視線を落とす。ローズが扉を吹き飛ばした衝撃で、机が大破していた。残骸の中から、羽ペンを拾い上げる。羽ペンと、どうやらインクの瓶も無事なようだが、零れたインクはどうすることもできない。

「――逃げられたか?」

 その気配に、咲崎は驚くこともなく頭を上げる。扉のあった場所にもたれかかり、マツキが室内を窺っている。

「ああ――」

 短く頷き、自身の衣服を(あらた)める。

「何故、あれを見張っておかなかった?」

 インクの汚れがないか確認したまま、咲崎はマツキに問いを投げる。その声には詰問する色はなく、まるで平坦。表情も、平生の無感情のまま。

 マツキはただ口元を笑みの形に吊り上げる。

「貴様には、あれが必要になるか?」

 訊き返された問いに、咲崎は憤怒も困惑も浮かべず、ただ「いや」とマツキに返した。

「わたしには、価値の無いモノだ」

「だろうな」

 軽い笑い声を上げ、マツキはもたれていた木枠から身体(からだ)を持ち上げる。

「貴様にとって価値があるのは、楽園(エデン)を欲する者のみ。すでに何も望むモノはないくせに、調律者の務めだけは果たそうとする」

 口元が、より一層皮肉に吊り上がる。その奇形の玩具に魅入る瞳はどこまでも純粋に透き通り、そして、底抜けに歪だ。

「本当に貴様は『死んだ魔術師』だ――」

 汚濁の式神は、自身の主人をそう称する。

 その評価に、しかし当の本人は如何ほどにも心は動かない。どんな罵倒も、どんな称賛も、すでに一切の興味がないとばかりに。

 汚れた部分に、咲崎は手をかざす。その手を払うと、汚れは水で流されるように床に落ちた。

 ようやく、咲崎は自身の片割れを正面から見据える。外見や表情はまるで違うのに、両者の瞳は等しく、硝子の灰色。

 主人の沈黙を知ってか、マツキは促すように口を開く。

「それで、これからどうする気だ?また雪火夏弥に誘いをかけるのか?」

 すでに決した答えを持つがゆえに、咲崎は即座に首を横に振る。

「雪火夏弥は楽園(エデン)を託すに値しない。彼は、楽園(エデン)を破壊しかねない異物だ」

 そう吐き捨てる声には、わずかに嫌悪と侮蔑の色が含まれていた。しかし、咲崎の表情はどこまでも感情がなく、その問題は瑣末(さまつ)だとでも言いたげだ。

 咲崎の返答と表情をよくよく吟味してから、マツキは緩やかに応じた。

「それはそれで面白そうではないか」

 咲崎の眉がわずかに反応する。

「何故だ?」

 平坦な問い。その咲崎の疑問に、マツキは当然とばかりに返した。

「雪火夏弥は楽園(エデン)を拒むのだろう?最後の一人になっても。なら、またあの大災害を、今度はこの町で起こすことができる」

 八年前、海原の町を消した大災害。町は一瞬にして崩壊し、人々は絶望を叫ぶ間も、悲劇を嘆く間もなく消滅した。

 八年経った今に至っても、海原の町は復興の目途が立たない。行方不明者が見つからず、足踏みを続けているのではない。あの町を忌避(きひ)する人間の深層意識。その(たぐい)のモノが、周囲の人々をあの町に近づけまいとする。

 その呪われた町。人々の不幸を抱えた廃墟。破滅と絶望の荒野。

 その悲劇を知ったうえで、この式神は嗜虐の笑みを浮かべる。

「人間たちの恐怖と慟哭が再び満ちる。これほどに待ち望んだ御馳走は、他にない」

「君らしい返答だ」

 苦笑とともに、咲崎は呟く。

 そこで、マツキと向かい合ってから初めて咲崎は笑みを浮かべる。その悲劇、その絶望を理解し、マツキの嗜虐を理解して、そのうえで、咲崎は笑む。そのわずかな変化は、この無感情な男にとっては決定的で、致命的だ。それは、背筋を凍らせるほどの歪。

 だが、と咲崎は再び表情を凍らせる。

「調律者としては、楽園(エデン)が正しく魔術師の手に渡ることを望む。それに、楽園(エデン)が正当な魔術師に渡ったときに何が起こるか、君は見たくないか?」

 予測していた問いなのか、マツキはさも悩む素振りを見せながら、しかしその表情には少しの曇りもない。

「悩みどころではある。すでに味を知っている極上の料理か、それとも未知の、しかしかなりの美味だと期待できる御馳走か。――で、貴様はどんなお膳立てを用意するつもりだ?」

 咲崎は芝居がかった動きで首を横に振った。

「雪火夏弥を諦めるなら、次の神託者を求めるしかあるまい」

 ふん、とマツキが鼻を鳴らす。途端、直前までの享楽(きょうらく)が嘘のように、マツキの表情に陰りが落ちる。

「あの名継路貴でも使うのか?」

 咲崎は続けざまに、しかし、はっきりと否定する。その動きを見て取って、マツキの顔にさっと喜悦が沸き立つ。

「より上質の味を求めるなら、より至高の食材を使うものだろう?」

 その、問いの形を被った返答は、両者の間では自明だった。ゆえに、両者は申し合わせたように笑みを深くする。

「――栖鳳楼の姫君は余暇を持て余していることだろう。お休み中のところ申し訳ないが、折角の舞台、貴賓席でご覧になるばかりでは退屈であろう。是非、お呼びして差し上げろ」

 両者の硝子色の瞳に灯が揺れる。この死に満ちた棺桶の中で、それだけが生かされた生。その灯を呑み込むように、灰色の硝子は愉悦に濡れる。


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