12話
「トール?」
トールに当たった石が輝き魔法陣と白い光がトールを包み込んだ、輝かしい光が消え瞼を開けるとその場に居たはずのトールが消えていた
どういう事だ?
俺には理解できない
だけど、これだけは分かる
「お前、トールに何をした!?」
俺は怪しくニヤけている奴の腹を強く蹴りあげた
「ぐべっ!!」
蹴られたデブは口から血を吐き転がった末、壁に叩きつけられた
デブに向かって歩きながら俺はもう一度聞く
「何をしやがったんだ?」
俺は、これまで無いぐらいに怒ってる
そして、これまでに無いぐらい冷静だ
「俺様がお前みたいなクズデブに聞いてやってんだ。早く言わないと殺すぞ?」
息はあるみたいだがもう虫の息だ
「なー、早く言ってくんねーか?これ以上待たすんなら、お前と共にこの街も全部潰すぞ?」
冷静でいるから、自分がどれだけ怒ってるか分かる
「……ぉゎ…」
「ん?」
声が小さくて聞こえないな
「お前の仲間はこれで終わりだって言ったんだよ!!バカがぁ!お前を狙ったつもりだったんだがまぁーいい。これで、お前の仲間は死んだ!ふひ、ふひひひひひひ!!」
少しづつ声を上げ嘲笑うかの様に不気味に笑う
何を言ってる?
トールが死んだ?
ありえない
トールには運が無いけど、悪運は強いやつだ
あんな石ころなんかで殺せるハズがない…
「あの魔石は転移石の魔法式を描いた物だ!今頃は空の果てか、地の底にでも埋まっているだろうな!ふひ、ふひひひぐふっ!」
「…死ね」
憎い
こんな事をしたコイツが憎い
許せない
俺はデブを殴る
何度も何度も殴る
衝撃で壁が崩れ外が見えても
床が割れて地面に亀裂が入り拳から血が流れ出ても
何度も、何度も、何度も、何度も、何度も
殴り続ける
気付けば涙を流していた
中学の頃から、家族のいない俺の隣に居てくれた、ただ1人の家族
この5年間、喜びや悲しみ、楽しんだ
いろんな思い出が頭を巡る
殴るのに疲れ天を仰ぐ
もう夕方で、教会の中は静かで街の喧騒が聞こえる
目の前には割れたステンドガラスから漏れる空の光と崩れた壁、手から流れる赤い鮮血
俺は呆然と空を眺める
ここからでは夕陽は見えない
けれども、空は真っ赤に染まり、まるで血のように赤く幻想的だ
俺は涙を拭い人間だった物を背にしてトールに渡されていた地図の合流地点まで向かい、ずっと1人で怯えていたであろうマリアと合流した、宿屋へと帰り自分の部屋へ入った
今は1人にしてほしい
1人で泣かせてくれ……
○○○○○○○○○○
リョーガとマリアだけが帰ってきて1週間が経った
今はまだ教国のシーチャートに居る
リョーガは1週間の間、ご飯も食べずに部屋に篭って出てこないし
私やマリアが行っても返事すらしてくれない
トールが帰ってこない事もまだ話してもらってない
話してくれないと分からないよ
「すみません。私の所為で…」
「何度も言ってるじゃないの、マリアだけの所為じゃないって」
「でも…」
「私も、もっと強ければこんな事にならなかったのよ…」
「「……………」」
もっと私が強ければ、トールは連れて行ってくれたはず
もっと私が強ければ、マリアは連れ去られなかった
もっと私が強ければ、こんな事にならなかった
私は外へ買い物などに出る事が出来ないから、いつもマリアに頼んでる
教国の連中は、もう私達に手出しはしてこない
マリアが素顔で出て行っても、追っ手も来ないって言っていた
コンコン
「誰でしょう?」
誰だろう?宿屋の人かな?
宿泊費は、あと2週間分払ってるんだけどな?
「誰?」
「はらへった…」
この声は
「「リョーガ!?」」
私とマリアが息が合ったようにベッドから飛び降り走ってドアを開けると、そこにはリョーガとは思えないぐらいにゲッソリと痩せ細ったリョーガが立っていた
「腹減った、何か食べに行こう」
私達がどんなに心配したか分かってるのかしら?
いつもの笑顔がなく覇気も全くない
私はやっと部屋から出てきてくれて嬉しく思う反面、こんな姿になってしまったリョーガに悲しく思う
「ええ、行きましょうか。ね、マリア?」
「は、はい」
私とマリアはリョーガを心配し、時には支えながら近くにある食堂へと向かう
一応、私とマリアは外套を着て外に出ている
私は獣人で迫害されるから、マリアは念の為に
「どれにするんだい?」
飯屋のおばさんが注文を聞いている
私は少し迷ったけれどオーク定食にした
あの肉厚と肉汁が忘れられない
リョーガも同じのだ
マリアはロックバード定食にしていた
ロックバードと言うのは体が石でできていて、主食が石の魔物だ
食べている石により旨味が変わるらしい
「家に帰ろうか…」
「うん」「はい」
リョーガは食べてる間、何も言わずに黙々と食べていた
食べ終えて、臭いタバコって言う長細い物を口に咥え煙を吐きながら言う
結局、リョーガは何も喋ってくれなかった
トールが何処に行ったのか、教会で何があったのかを、リョーガ達は私達に隠し事が多い
いつか教えてくれるのをずっと待ってる
○○○○○○○○○○
3週間かけて王国のランキートにある家へ帰った
トールのバイクはレインとマリアが交互に押してくれた
こんなんじゃダメだ
分かってる!分かってるんだけど、諦めきれないんだ!
クソッ!
トールの居場所すら分からない
俺は…俺はどうすれば良いんだ
コンコンコン
「昼ご飯持って来てあげたよ」
レインか…
こんな状態でも俺の側で世話を焼いてくれる
良い嫁さんになりそうだ
「ありがとう、そこに置いといてくれ」
このまま、ずっと部屋に閉じこもるのか?
また、あの時みたいに…
カン!カン!カン!カン!カン!
外が騒がしいな、こんな時になんだよ
ドタドタと階段を駆け上がる音が聞こえ扉を見てると、レインが飛び込む様に入ってきて
「リョーガ、マリアと少し出かけるけど、大丈夫よね?」
レインが聞いてきた
今まで帰ってからは出かける時にこんな事を言わなかったのに
俺は取り敢えず頷いておく
「そう。必ず帰ってくるから心配しないでね」
何だか、悲しそうな顔をしながら家を出て行った
どういう意味があるのだろう?
俺には分からない
けど、何だか胸騒ぎがする
良くない事が起こりそうな…
ブンブンと頭を振って考えをリセットする
俺は…
俺はどうすれば良いんだよ?
何時もみたいに答えてくれよトール…
俺は…俺は……
コンコンコン
誰かが家のドアをノックしている
少し窓から顔を出し覗いてみると、ギルドの制服を着た女性が居た
たぶん、ギルド嬢だろう
こちらに気付いたみたいだ
「リョーガ様ですか!?緊急依頼の発令です!トール様とご一緒に、速やかにギルドの方へと向かってください!」
トールは居ないのに…
なんでこんな時に緊急依頼なんだよ
俺は窓際に置いてある椅子に座り空を見上げる
「私は別の冒険者の方にも声を掛けなければならないので失礼します!」
ギルド嬢が何処かへと走って行ったみたいだ
空を眺めながら思い出すのはトールと過ごした日々だけだ
ボォーっと空を眺めていると外が騒がしくなってきた
「ドラゴンだー!!」「速く逃げろ!」「どけっ!邪魔なんだよ!」「北門に向かって大量の魔物が向かってるぞ!」「南門に逃げるんだ!」「息子が!息子が見当たらないんです!」「誰かたすけてくれ!!!」
ドラゴン?北門?
そういや、レインが少し出かけてくるって言っていたな?
もしかして、向かったんじゃないだろうな?
ギルド嬢が言ってた緊急依頼って言うのも
まさか…
けど、もしそうだったら……
もしそうだったら、俺はまた失うのか?
大切な仲間をまた、奪われるのか?
嫌だ!
絶対に嫌だ!!
俺は、俺は!
これ以上失いたくない!
何も、失いたくない!
何も、奪われたくない!
その為にはどうすれば良い…
俺はどうすれば良いんだ?トール?
思い出した……俺に出来る事は潰す事だけだ
仲間のためなら全てを、潰す!
世界を破壊してでも守ってやる!
俺の大切な仲間を
誰にも傷つけさせやしねぇ‼︎‼︎‼︎
トールが作ってくれた般若の仮面を被り、トールに渡された外套を羽織り、ボロボロになった大剣を握りしめ、ギルドに向かわず北門へと向かった




