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爪を噛む女 パート1.

作者: 藤城ゆきの

 付き合っていた女が死んだ。自宅のアパートで首を吊った。

 職場の女の子たちとランチをしていたとき、彼女からメールが送られてきた。 

 「さよなら。」

 二ヶ月ほど連絡をしていなかったから、俺は、「やった。こっちから言わずに済んだじゃないか」と、安堵した。

 

 彼女と初めて会ったとき、今までにない女の匂いがして新鮮な気持ちになった。口数も少なく、控え目でいつも俺の後ろをついてくる。部屋にいつ行っても文句なんて一切言わない。俺の好きな料理を作ってくれた。

 居心地がいいなと感じていたのも半年くらいのあいだだけだった。

 無口で、暗くて、自分の意志がない。たまに静かに後ろに立っていられると背筋が寒くなった。左手の薬指の爪を噛む癖も、最初のうちは可愛いと思った。それを彼女に伝えたこともある。

 「その癖、とっても可愛いよ。俺は好きだな。」

 なんて、今思えば、俺の頭は狂っていたのかもしれない。陰気くさくて、鬱陶しいだけだった。

 別れたいと思うようになった。職場で、流行(はやり)の髪型や化粧を施した軽快な女の子たちを見ているうちに、「やっぱり、俺はこういう子と一緒にいるほうが楽しい」と、感じるようになっていた。


 女の四十九日が過ぎたころ、俺はふと左手の薬指がチクチク痛むのに気付いた。見ると、爪の先がギザギザになって割れている。

 「何かで切ったのかな」

 そのときは、たいして気にも止めなかったが、他の爪は伸びるのに、なぜか左手の薬指の爪だけが、そのままだった。伸びることなく、ずっとギザギサのままだった。たまにチクリと痛むことはあったが、病院に行くほどではない。爪切りをするときには不快な思いに駆られるが、すぐに忘れてしまった。


 

 ある夜、俺は新しい彼女とバーにいた。金色に染めた髪と、白い肌に長いマツゲ、塗れた唇からは甘い香りが漂ってくる。彼女といると頭も身体も熱くなった。


「だからぁ、どっちにするのよ。」

「・・・・・・」

「ったく、自分の考えはないわけ? いっつも、アタシが決めんのよね。もう~。ほんと、めんどくさっ」

「・・・・・・」

「アナタみたいな、口数の少ない優しい人がいいなって思って付き合ったけど、もうイヤっ!」

「・・・・・・」

「アタシの言うことなら何でも聞くわけ? そうですか! だったら今すぐ消えて。アタシの前から消えて!」

「・・・・・・」

 女は眉間に皺を寄せ、「イラつく!」と言って左手の薬指を唇に当てた。

 パキッと音がした。

 長い爪には鮮やかなピンク色のマニキュアが塗られている。よく見ると、左手の薬指の爪だけが短く、マニキュアが()がれていた。



「もうっ! ほんとに陰気くさっ! 鬱陶しいったらありゃしない。首でも吊って死ねば?」


                                            ( 完 )

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