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クロスロード  作者: 八尺瓊
第2章 シロヤギさんとクロヤギさんの復讐 中
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第15話 協力

 「始めまして。神野 匠です」

 

 控えめな言い方をすればぽっちゃり、言い方を悪くすればデブで小柄な少年が千秋の隣に座る少女たちに挨拶をしていた。

 匠と名乗る少年はぽっちゃりだからといって、顔が不細工とかではない。

 どこか愛嬌のある丸顔で、ほお擦りしたくなるようなぷにぷに感があり間違いなく年上の女性にかわいがられるタイプの少年だった。

 その証拠に超がつく美人と言ってもいい女性が左右にくっついていた。

 一人は腰ぐらいまで綺麗にストレートに伸ばし、毛先に赤のリボンで黒髪を纏めている女性で年齢は多分少年と一緒と思われる。

 もう一人は白衣を着てその下の服がボンテージのようなかなりきわどい露出の高い服を着ており、さらに印象的なのが両目の色が違うオッドアイと呼ばれる目をしており、年齢は少し高めで20歳ぐらいを思わせる。

 二人とも爆乳といって差し支えないぐらい豊満なバストをしておりその谷間に彼の腕を挟みこんでの衝撃的な登場である。

 腕を谷間に挟まれたまま、どこか恥ずかしそうに自己紹介する彼の胆力はすごいんだろうなと自己紹介をされたののんは思っていた。

 

 「ふむふむ。しかし、水無月君まで来るとは想定外だったよ。神野君。もう話をしたのかい?自分の事を?」

 「ほぼ色々バレテまして。純姉さんにはちょっと怪しまれている感じだったんですけど水無月姉さんにはシェムが来てから色々あったので」

 

 匠の”色々”と言う部分に反応してシェムが、自分が彼の生涯のパートナーであるという含みの口調で会話に入ってくる。

 

 「たくみの愛人がどうなろうと知った事ではないが、今回どうしても着いてくるというので仕方なくつれてきたのだ。この戦いに”魔法”が使えないようじゃ参加できないだろうけどな」

 

 シェムの言葉に綺麗なお顔の眉間にすごい縦ジワをつけながら、水無月も会話に割り込んでくる。

 

 「たくちゃんに危険が迫っているというのに一番であるお姉ちゃんが見守らなくてどうするのですか!」

 「一番なんてわかるはずがないだろう。それは勝手にお前が決め付けているだけだ」

 「決め付けてるなんて、たくちゃんの事を一番理解しているのは私なので”一番”でいいんです」

 「それも決め付けだといっている」

 

 匠を真中に顔を付き合わせていがみ合っている二人に周りは、はぁとため息をもらしどうすればいいのかわからなくなる。

 

 「すみません。なんか大変なのに騒がしくしてしまって」

 

 左右の女性陣の反応に苦笑しつつ、ののんに謝る匠に大丈夫ですよ~と返事をする。

 ののんは現状にあまり根を詰めて考えすぎるのはよくないと思っていたし、匠達を見ていると、少しは気がまぎれる。

 昔を少し思い出せてもらって、うれしさと寂しさが絡み合っていた。

 まだ匠を挟んで言い合いをしている二人は置いておいて、匠は挟まれながらも千秋に現状の説明を求めた。

 

 「しかし、千秋先輩軽く説明を電話で聞きましたけど、もう少し詳しく説明していただいてもいいですか?」

 「そうだね。詳しい話をダクトから聞こうか。彼女は”まけん”が進めていた研究で生まれた人造人間でね。僕の研究していた技術と魔力の一部を使っているので彼女は僕のことを”父”と呼んでいる」

 

 千秋から紹介されて、彼の左隣に座っていたダクトが匠に挨拶をする。

 

 「始めまして私の名前はエル=ダクト=ワンといいます。主に”まけん”での諜報活動を行っており、あなたの事は”父”と研究施設のほうからターゲットとしてはずしておくようにと聞いていました」

 「ターゲット?」

 「少し長くなるのですが、我々がこの世界に来た”悪魔”の情報を”まけん”に報告し対処していくのですが、”悪魔”がどんな行動をするのか”まけん”が来るまで見張っておく必要があり、それが長期にわたる場合があったりします。その際、ターゲットとして”まけん”と情報を連携しながら行動を探ります。」

 「僕だけがターゲットから外れているの?」

 「いえ、あなたの周りにいるシェム様もターゲットから外れています。”まけん”よりさらに上位の組織より命令が出ております」

 (お父さんかな?)

 

 匠は自分の父がどこまで知っているかわからないが、裏で色々と助けてくれている事につい照れくさくなった。

 

 「少し話がそれましたが、今回、とある人物を救出いただきたいのです」

 

 救出と聞いて、この面子から悪魔がらみかと思い、匠はダクトに質問した。

 

 「それは”悪魔”からですか?」

 「いえ、”人間”からです。どちらかといえば、この国が所有する悪魔退治用の組織。我々に限りなく近く、遠い組織です」

 「どういうことですか?」

 「政治的に与党と野党の二つがあります。現在”まけん”は与党の組織下にあるのに対して、今回の相手は野党の政党に属する組織です。」

 

 与党は連立を組まない限り、1政党であるのに対して、野党はその他複数である。

 ダクトはその野党の一部の政党が今回の相手だと言っているのだった。

 

 「相手は政治家と言うことですか?」

 「いえ、大きな意味ではそうですが、今回の救出という部分ではそうとは言い切れません。」

 「組織だけで、上の力は借りていないと言うことです?」

 「そういうことですね」

 

 匠の理解の早さに少し驚いているダクトを前に、匠は考えようと腕を動かし、あごに手を持っていきたそうにしているが、二人がそれを許すわけもなく(腕をはずしたほうが本妻ではない事だと思っているらしい)、器用に顔を下に向けて考え込む匠を見て周りは、苦労してるんだなと感じた。

 

 「裏の情報は大体理解しました。僕達は、問題なくその”組織”と戦えるわけですね」

 「ド派手に、ドンパチは出来ませんが、これから戦うであろう”組織”と揉めた所でそのさらに上から動きがあるとは思えません」

 

 ダクトの説明に、家族を巻き込みそうにないことを確認できた匠は、そこから特に説明を聞く事もなく、いいですよと返す。

 

 「あの、いいですよってもしかしたら危ない目にあう可能性もあるんですよ?」

 「そうでしょうね。ただ僕は”まけん”のメンバーなので、これでもかなり危ない目にはあってますし、それにスパルタな先生もいてますので」

 

 匠がちらっと白鷺を見るが、何か?と大きな目で返されてしまい、いえ何もとアイコンタクトで返事をする。

 このやり取りを見ていた左右の二人が黙っているわけがなく、腕を両方からつねられる。

 く~と顔をしかめるが、悲鳴を上げることもない匠に、モテる男はつらいよねと同情が寄せられる。

 

 「では、いつ行きますか?」

 

 涙目になりながら、今からでも動こうとする匠を千秋がまあ落ち着きたまえと、手で制して場を仕切りなおす。

 

 「正面から行ってもいいんだけどね。ダクトも言っていたように、相手はまあいちを国が所有する”組織”だ。高校の部活動をしている程度の僕達では事が公になってしまっては各方面に処理してもらうのが大事になってしまう可能性があってね。ダクトの言うように正面から仕掛けても、問題ではないとは思うけどある程度は仕掛けをしておきたいんだ。それと前回解決した依頼の件が結構な評価をもらっていて、今ミスをするとそちらの処理のほうがむしろ面倒になりそうなんだよ。だからちょっと手間をかけて乗り込もうと思うんだ」

 「千秋先輩がそういうとは以外です。僕は今からでもいくからここに呼び出されたと思っていました」

 

 周りの雰囲気からそう思っていた匠は意外感を肌で感じていた。

 白鷺も、今回の件で発言が少ない気がする。

 ダクトもののんも協力してもらえるのか少し不安そうな顔をしている。

 相手は、国が抱える”組織”だ。

 いままでの、”敵”とは明確に違う。

 悪魔と戦うのは、人類の為、正義が自分達にあると思っている部分のおかげで、精神的にストレスが少ない。

 しかし、どんなに悪党でも相手は人間だ。

 人間を相手にするには抵抗がある。

 その部分で、千秋が手間をかけると言っているのか、それとも何か別の理由で手間をかけるしかないのか判らない。

 不安そうな顔をするののんとダクトにフォローを白鷺が口にする。

 

 「ダクト、ののんさん大丈夫。マスターは普段おかしな行動をとりますが、善と悪は見分けられる人ですし、悪に対して一切の躊躇はありません。協力は絶対しますのでご安心を」

 「おかしな行動って白鷺あのね、僕はあくまでも本能のまま、行動しているだけだよ」

 「じゃあ脳が腐っているのでしょう」

 「おかしいな、僕は君にそんな事をいうようには調整していないんだけどな」

 

 誰もが確かに、おかしい人だと思っている。

 こんな重い話をするのにも、ドレスを着て話をしている男性なんてまじめに聞いてくれているのかと心配になる。

 しかし、千秋からはふざけているとか、馬鹿にしているといった風ではないし、だからといって女装家ではない。

 匠が会うときは主に女装をしていることが多いが、それ以外の場所でも違う衣装を着ている事がある。

 白鷺だけは彼が奇抜な衣装を着る理由を知っている。

 その理由を口にする事を止められているわけではないが、千秋との秘密を持つ事に少しうれしさを感じており、状況がそれを必要とするときまで黙っていようと心に誓っていた。

 

 「話を戻して、救出作戦まで、後3日待ってくれないか?それでも状況が変わらなければ、正面から行こうか」

 

 眼鏡の奥が怪しく光ニヤリと笑う千秋がどこか、鬼のように見えた。

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