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クロスロード  作者: 八尺瓊
第2章 シロヤギさんとクロヤギさんの復讐 上
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第4話 猫

 エアーガンをおろしたとはいえ、警戒は行っていない。

 さっき、一瞬の不意をつかれ、その隙にねずみの妖魔を取り押さえている猫だったが、仁の計算だと、自分と猫の距離を考え、この距離なら大丈夫だと判断してからだった。

 仁が猫を”よく見る”と妖気というより、魔力のオーラが体を覆っている。

 魔力のオーラは北極で見られる、オーロラに近く、体にゆらゆらとした虹色のオーラが見える。

 それに対して妖気は魔力のオーラより黒い色をしており、夜だとわかりにくい。


 「あなた、魔族か?」

 「にゃ、にゃんでわかったにゃ~?」

 「そのにゃんにゃん言葉どうにかならないのか?本当は普通に話せるんだろ?」

 

 猫が少し考えるしぐさをして、少しだけ言葉を元に戻す。

 

 「よくわかったね。けど、こっちのほうが雰囲気でるにゃ」


 魔族に”猫”という概念があるかわからないが、猫語の”にゃ~”はさすがに、日本人の認識であるから、魔族が”にゃ~”というのはありえないと仁は思った。

 であるならば、この魔族はこの地に住み着いて長くなるとも考えていた。

 そのあたりの疑問は後回しにして、現状の確認を行う。


 「そうか。でその足で踏んでいる妖魔どうするつもりだ?」

 「お前食べるにゃ~?」

 「食べるわけないだろ?!」


 否定の言葉を吐きながら、仁はこの猫に対して何かが違うような気がしていた。

 確かに魔力のオーラは見えるのだが、”薄い”のである。

 この世界に来る悪魔は上級悪魔のみしかこれず、そのオーラは色濃く”見えるようになった者”からすれば、そのオーラが体を包み込んでいるせいで、体が焼かれているのではないかと思うほどである。

 この猫のオーラは、ベーゼのように薄く、天女がまとう羽衣のようなイメージだった。

 魔力のコントロールでそれを可能にしているのか?それとも・・・。

 疑問ばかり浮かん、この4年間でエムから魔族などについて色々教わっていたのだが、該当するようなイメージがわいてこない。

 まだ敵とは決まっていないし、味方とも決まっていないが、こちらから手をださなければ、問題はなさそうな感じがする。


 (エムも待ってるし、妖魔は猫に任せて帰るか。)


 これ以上関わると後で面倒になりそうだと、仁は判断しどうやってこの場を去ろうかと考える。

 悩んでいると猫から声をかけてきた。


 「にゃ~の名前は”すずめ ののん”にゃ」


 やばい。名前を語られてしまった。

 変な縁が出来てしまう予感がした。

 仁は顔をしかめて、この場に長いしてしまった事に後悔した。

 正直これ以上は関わりたくないが、名前を語られた以上簡単に切って捨てる関係で終われない。

 ”友達”がエムしかいない仁にとって、”名前を教えてもらう”行為は結構重い。 苦肉の策として、下の名前だけ伝える。


 「俺は仁」

 「く~るにゃ~。顔もかっこいいし。よく見ると好みのタイプにゃ~!!」


 青年バージョンのおかげで声が低くなっている。

 凄然とした容姿、低い渋めの声と、短く伝えた名前からどうもクールな印象を抱いたらしい。

 その前にこの猫、仁の元の姿を見ているはずにも関わらず、”今”の姿を見て、興奮している。


 (少し、知能が足らないのか。)


 猫のギャル的なノリに、仁はため息を着くが、猫本人は目がキラキラして”何も気にせず”こちらに”向かってくる”。

 足元にいたモノを完全に忘れている。

 当然怒り狂ったねずみの妖魔はブチ切れで声を荒げて怒りを示す。


 「きさまら~!よくもこの俺様を足蹴にし、無視し続けてくれたな。倍返しだ!!」

 「うっとうしい」


 仁が本当にうっとうしそうに、ねずみの妖魔に向かってエアーガンを撃つ。

 肉眼で見えない速度でBB弾が発射され、ねずみにヒットするとそのまま吹っ飛び転がる。

 かなりのダメージをおったようで、プルプルと体を震わせながら、起き上がると、ねずみの妖魔は仁を見て声を振り絞るように出す。

 

 「き・さ・ま」

 

 さらに言葉を続けようとするが、ねずみの体から霜が生えてきて、そのまま固まる。

 そして陶器の置物が叩きつけられたようにねずみの妖魔も粉々に割れ、猫が目を見開き、すごい驚いている。

 エアーガンが砂のように崩れると、仁も元の姿に戻る。

 その姿にさらに猫は驚く。


 「イケメン青年が子供になったにゃ~!」


 頭をかきながら仁はめんどくさそうに確認をする。


 「妖魔を取り押さえる前に俺の姿を見たんじゃないのか?」

 「暗くてよくみえなかったにゃ~。しかしこっちはこっちでいいかもにゃ~」


 すごいうれしそうに猫が仁の顔に自分の顔を当てスリスリと擦り寄る。


 (よく見えないって猫は夜目が効くはずじゃなかったのか?)


 心の中で感想をいうと、早くこの場を離れようと、コンビニの袋を手に取り猫から離れる。


 「にゃ?どこいくにゃ?」

 「帰る」

 「じゃあ、ついていってやるにゃ」


 どうやって追い返してやろうかと考えている時間黙っていた事が、猫には肯定と受け取られたらしく、いつでもついていくぜ!見たいな顔をしていた。

 面倒な事になったと思う反面、どうにかなるだろうとそのまま仁は歩きはじめる。 仁の後ろを”ののん”と名乗った猫の悪魔も鼻歌まじりでついてくる。

 普通に2足歩行で平気な顔をして歩く猫が異様であり、変な圧迫感があった。


 「あんた、”猫”のままなのか?」

 「あんたじゃないにゃー飼い主になったんだからののんって呼んでいいにゃ~」

 

 仁が顔をしかめる。


 (か、飼い主?)


 仁が疑問を心で自分に確認する。

 そんなやり取りがいつあったのか、自分はこのままこの猫の飼い主になるのか?エムはどんな顔をするのか?これは詐欺のたぐいではないのか?などを考えていると2年前にリフォームした自宅マンション前についた。

 その概観はいまだに綺麗で、前のぼろぼろを覚えているから2年立った今でも違和感がある。


 「ここ家だから。送ってくれてありがとう?」


 勝手についてきたののんに対して、なんでお礼をいわないければいけないのかと疑問をもちながら、家に着いたら、切り捨てる言い方で離れようと決めていた仁の言葉にニコニコしながら、そんなこといいにゃ~とかいうののんに対して、お、ここで別れられそうだと安心した瞬間、仁は今の安心感を返せーと思う。


 「じゃ~いこうかにゃ~」

 「どこに?」

 「もちろん家にゃ~」


 (警察の方助けてください。先ほど、ちょっと邪険に扱ったことを謝りますから~。)


 キラキラおめめで見つめられ、余計な一言を言ってしまう。


 「ミルク一杯だけ飲んだら帰れ」

 「う~ん。わかったにゃ~」


 何がう~んなのかと問い詰めたくなったが、約束した以上とりあえずこちらは誠意をもって対応すると決めて、ののんを家に連れて帰る。

 

 自宅のドアを開けると、エムが玄関で倒れていた。


 「大丈夫か?」


 このやり取りを何度しただろうと、仁は思うのだが、安否の確認は必要だと思い確認する。

 エムからカラカラに乾いたような唇から、ボソボソと声が聞こえる。


 「わかったからソファに行こう」


 助けられた遭難者のような瞳でエムは仁にうんうんと頭を振り、お姫様抱っこでソファまで移動する。

 その間にののんもおじゃましま~すにゃとか言いながら家に入ってきて、仁は適当に座っていろと指示を出す。

 ぐったりしたエムはののんを気にするわけでもなく、ただ天井を眺めて、仁のご飯を待つ。

 エムの目の前に、黒糖パンの袋を開けて置き、オニオンスープと、ベーコンを焼いてプレーンオムレツを作って出す。

 エムは生き返ったように目の前の食事をむさぼり、そして一息つく。


 「仁。ほうじ茶を用意せい」

 「わかった」

 「ところで、仁。この猫は何者じゃ?」


 エムが今まで何も言わなかったので気にしていないと思っていた仁は、時間差でこられた質問に答えを用意できておらず口をパクパクさせて、何もいえないでいると横からののんが、答えを出した。


 「にゃ~は仁のペットにゃ~」

 「ののんは黙っていろ」

 「名前を呼んでくれたにゃ~!!」


 仁にうれしそうにべったりとくっついてくるののんに対して、こめかみに青筋を立てるエムを見てすごい今までにない危機感を覚える。


 「違うんだ。俺が悪かった」


 仁は昼ドラで見た主人公を思い出して、ドラマだから見れたが自分にこんな事が起こってしまうなど思っておらず、ドラマの主人公がどうやって事を解決したのか思い出せずにちょっと泣きそうな顔をしていた。

 それを見てエムは強く言えず、ののんをにらみつけながら、どうしたものかと考えもう一度確認する。


 「で、おぬしは何者なんじゃ?」

 「にゃ~は猫悪魔にゃ。ここに来たのは仁を好きになったからにゃ~」


 ブチ切れしそうなエムと、うれしそうに微笑みながら返事をするののんがあまりに対象的でどうすればいいのかわからず、ひらめいた言葉を仁が口にする。


 「うちのマンション、ペット不可なんだ。帰ってくれ」

 「じゃあペットじゃなかったらいいんだにゃ?」


 ののんの体が急にぱーーーと輝き、光が収まると目の前に同じ歳ぐらいの全裸の少女が立っていた。


 「これで問題ないにゃ~」

 「仁!!」


 エムの激怒を受けてなんで怒られているのか、どうすればいいのか13歳の少年は経験不足から判断できずにいた。


 (勉強や魔法以外でも覚えていくことはたくさんありそうだ。)

 

 と心でつぶやき、目の前の激怒少女悪魔からどうやって、誤解を解くかを必死に考える。

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