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クロスロード  作者: 八尺瓊
第2章 シロヤギさんとクロヤギさんの復讐 上
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第3話 魔力

 仁がチャーハンもどきを作り続ける事5回、ようやく自分のご飯を手にリビングに行くと、ソファでおなかをさすっているエムを見る。

 いつものことだが、よく食べると思っていた。


 「なんだその顔は。我が食べてやっているのだ感謝しろ」


 エムの上から目線もいつもの事でイライラしなくなっていた。

 むしろちょっと命令口調が気持ちよくなってきている自分にそんなことはないと否定する。

 スプーンを手にとって頂きますと手を合わせて、チャーハンもどきを口にするが、それをじーと見てくるエムに顔をしかめる仁。

 

 「食べるのか?」

 「いや。もういらぬ。それよりデザートはまだか?」

 「自分でとってこい」

 「ふ、我に命令するようになったとはいい度胸だの」


 エムに睨まれて、ドキッしてしまい、「ああ、やべ~かわいい」ときめいてしまう自分に、そんな気質は持ち合わせていないとまた否定する。

 仕方ないと仁は立ち上がり、まだチャーハンもどきを食べ終わっていないが冷蔵庫をあけ、昨日作っておいたプリンを持ってエムに出す。

 小さめなスプーンを手に取りプリンをおいしそうに食べるエムを見て、笑みを浮かべてご飯の続きを食べる。


 「仁が作る料理はうまいの。さすがは我の”ともだち”じゃ」

 「俺は、おま・・・。エムのコックになった覚えはない」


 以前、”お前”とエムに言ったときを思い出し、言い直してから自分の考えを言うが、エムに鼻で一蹴される。

 エムは立ち上がり、向かいのソファに座る仁の横に着く。

 仁は冷や汗をかきながら、そんな仁に構うわけでもなくエムは鼻でくんくんとにおいをかぐ。

 いつもされている事だが、特にこの後お仕置きが待っているとかではなく、それでも美少女にくんくんされるこの状況が異常で、なぜかドキドキする。

 エムのくんくんが終わると、ほっとため息をつく仁。

 にや~とエムが笑うと、油断していた仁の左腕に体を寄せてくる。

 エムのつつましい、二つのやわらかい感触が仁の腕に伝わり、顔を真っ赤にする仁を見て満足するように体を離す。


 「相変わらずうぶよの~」


 ニヤニヤするエムに何も言い返せない仁は、ふてくされたようにチャーハンもどきをかきこむ。

 お茶を飲んで一息つくと、隣に座るエムからが当たり前のように仁の顔に両手を当て自分の顔の方向へ向ける。

 目と目が合い、思わず生唾を飲み込んでしまう仁に対して、先ほどのニヤニヤ感ではなく、真剣な目で、エムが言う。


 「おなか、すいた」

 「さっきおなかいっぱいだっていっただろう?」

 「育ち盛りの我には我慢できんのじゃ。そうじゃ、ご褒美にちゅーしてやろうか?」

 「い、いるかよ。そんなの」


 冷静を装ってはみたが、声が上ずってしまい、仁は顔が赤くなっていた。

 台所に移動し、冷蔵庫と炊飯器を確認するが、食材が何か作れるほど残っておらず、ご飯もなくなっていた。


 (今朝5合炊いたはずなんだが)


 嘆いても仕方ないかと仁は、ニラと卵があったのでニラ玉を作り、インスタント味噌汁と、明日の朝に用意する予定だった黒糖パンの入った袋を用意してエムに出す。


 「もうこれだけしか今食材がないから買ってくる」

 「うむ。早く帰ってくるのじゃ。我を寂しくしてしまってはいかんのだぞ」

 「寂しいっていつも家でネットで遊んでいるじゃないか」

 「ふ、わかっておらんな。あえてそう演じておるのじゃ」

 「わかった。わかった。じゃあ行ってくるから」


 適当に近くにあったジャケットを羽織ると仁は財布をジーパンのポケットに入れ、玄関に向かう。


 「ホットケーキミックスは買ってくるのじゃぞ。明日はパンケーキを食すからの~」


 エムに声をかけられながら右手で返事を返し、そのまま家を出る。

 まだ雪は降り続いており、道路を歩くと積もった雪をしっかり踏み歩くとのザクザクという音が聞こえる。

 21時を超えて、家から近くで開いているスーパーはなく、コンビニにいくことにする。


 (コンビニの食材がちょっと高いけど、21時以降開いているスーパーは少し遠いしな。)


 仁はちょっと主夫的な考えに、俺なにやってるんだろう?と思うところもないではないが、一人じゃない感がちょっとうれしかった。

 少しずつエムとの暮らしに慣れてきているが、それでも”魔法”について13歳の少年はまだどうすればいいのか決めかねていた。

 エムから”ともだち”の契約を受け、どうやら自分は悪魔の下僕になってしまったようなのだが、下僕はともかく、覚醒してしまった”魔力”にはかなり戸惑いがあった。

 見えないものが見えるようになった。

 オカルト的な意味も含めて、”今まで”見えないものまで見えるようになり、13歳の少年は、正直びびっていた。

 昔からその手の話が好きではなく、むしろ遠ざけていたのだが(エムと会うまでは怖くて眠れない日はあざみの部屋に泊まりにいく)なんの因果か、今では一番近い場所にいる事になり、非常に迷惑していた。


 (ほら、あそこにまた立ってるし・・・。)


 夜の闇と、街頭の電気で異様に存在が強調されて映っており、持ってきたエアーガン〔100均で売っている銃〕を腰からとりだし、攻撃態勢を整える。

 異質な存在の横を通りすぎ、何もないことにほっとすると、急に声で呼び止められる。

 

 「君こんな時間に何している?」

 

 仁の後ろから男の声が聞こえ、ビク!っと体を震わす。

 後ろを振り向くと警官2人が立っていた。

 ほっとする反面、少し額に汗が流れる。

 なにせ手にはおもちゃとはいえ、エアーガンを持っている。

 しかもこんな時間に。

 手に握ったエアーガンをそっと腰に隠すと、素直にコンビニに行くことを伝え、少し注意を受けたあと、職務質問から開放される。

 警官たちが去っていくと、ほっと息をはき別の事に気をとられる。

 さっき見た異質なモノと同じモノが出てくる可能性に、イライラしながら、仁は心の中で悪態をつく。


 (くそ、早く魔視を”切る”方法を身につけないと。)


 暗い場所でどきっとする雰囲気の中では必ず、異質なモノは立っている。

 何かを訴えたいのか、それとも単に仁を驚かせたいだけなのかはわからないが、この世に存在しないものが見える事は非常に気味が悪い。

 魔視とは、魔力を身につけた者が、視覚を超鋭敏状態にする事で、視力10.0、見えないモノが見える、相手のオーラ(強さ)などがわかるようになる能力を身につける。

 魔視のコントロールができないと、常に能力発動がデフォルト状態で続き、魔力も常に使用し続けるので、体力的にも疲れてくる。

 ほかの魔力コントロールは4年間で上達し、今ではエムのお墨付きももらって、問題を起こさなくなったが、どうしてもこの魔視のコントロールだけが下手で、無駄に魔力も消費し、時折貧血のような状態になることがあった。


 (早く魔力うまく使えないとな。)


 実際、何度か低級だが、この世でないモノと戦った事がある。

 仁はエムに言わせれば、”変身系の能力者”で、触媒を手にすることで身体を変化させ、コントロールしている魔力を開放する力がある。

 そして、触媒とは”銃”。

 どんな粗悪なモノでもかまわない。

 簡単なところで自分で作ったゴム鉄砲でもいいんだが、魔力に耐えられず一発撃つ前に壊れてしまう。

 ”変身”し戦闘が終われば壊れるゴム鉄砲は正直コスト面でも、精神的にも面倒なので、1発は撃てる100均のエアーガン大量に購入している。

 100均エアーガンは一週間で20個破壊したこともある。

 魔力の訓練で”変身”と魔法テストを行うと簡単に壊れてしまう。

 正直な所、大量発注でもいいのかもと思うが、毎月買う費用を考えるとどうにかしないといけないなと思っている。

 歩きながら魔力について考えていると、気持ち的に意外と早く着いたなとコンビニに入り体についた雪を軽くはたきながら、パンコーナーに移動する。


 (とりあえず黒糖パン。とホットケーキミックスか)


 さきにエムの好物である黒糖パン2袋をカゴにいれ、ほかの食材も見て回る。

 やはりコンビニ、出来合いの食べ物しかなく、朝ごはんになりそうなモノを適当にチョイスして、カゴの中へいれる。

 最後にホットケーキミックスを手にスーパーより100円高いことに顔をしかめる。

 ホットケーキミックスを棚になおすと、エムにどうやって言い訳するか考え、明日の予定を考える。


 (明日、学校帰りスーパーにいかないとな。)


 完全に主夫として、13歳の少年は完璧だった。

 炊事、家事、洗濯をこなし、近くのスーパーでどの食材が安く、質も考え献立を組み立てる。

 学業も、魔力の修行も、自分の趣味もスケジュールを組んで自分で管理している。 レジで会計を済ませるとそのままコンビニを後にして、家に帰る。


 (あ、やべ。この感覚は・・・)


 目の前のねずみがこちらを向いている。


 (きもい。ねずみって好きになれない)


 薄汚れた尻尾の長いねずみを見て、ぶるっと気持ち悪さから体を震わせ、感想を心の中でいう仁だが、別の感情も持っていた。


 (こいつはあれだよな)


 面倒だと思ったが、”ねずみ”に向かって仁は、声をかける。


 「お前、妖魔だろ?下手な変装はやめたらどうだ?さっきから妖気がもれてるんだよ」

 「ほう。貴様、俺の存在がわかるのか?ちょうど腹がすいていた所だ。俺の存在がわかるって事はそれなりに力を持っているということだろう。喜べ小僧、食ってやるよ」

 「なんでもいいけどさ、なんでお前ら妖魔は上から目線なんだ?まあ下手に出られても調子狂うけどさ」


 仁は妖魔と会話をしながら、コンビニの袋を地面に置くと、腰に手を伸ばし、エアーガンを右手でつかむ。

 その時点で、仁の中ではほぼ9割は”命のやり取り”はなくなったと思っており、余裕が生まれる。


 (なんだ?ほかにまだいるのか?)


 さっきからこちらを別の視線が見ているような気がして、目の前の妖魔に気をつけながら、周りの気配を探る。

 その一瞬の隙にねずみの妖魔を上から押さえるモノが急に出現した。


 「なんだ!?」


 仁はあわてて、戦闘態勢をとり、魔力を開放する。

 すると仁の体から光を放ちそこに立っていたのは、仁を成長させた容姿の身長180CMぐらいの長身でイケメンの青年だった。

 変身した仁はエアーガンを構える。


 「にゃ~敵じゃないにゃ~。これはにゃ~の獲物にゃ~」


 仁がよく見ると、そこには人間と同じ二足で立つ猫がいた。

 身長が160CMほどで、体はすべて毛で覆われており、顔も猫。

 色は、夜なのではっきりしないが、多分白色。

 右足はねずみの妖魔を押さえ、両手を挙げて攻撃の意思がないことをアピールしている。

 仁が構えていたエアーガンをおろすと、猫もほっとしたようで手を下ろす。

 ねずみの妖魔は頭を完全に抑えられており、言葉を発することができないようで、なんとか逃げようと必死にもがいていた。

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