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クロスロード  作者: 八尺瓊
~第一章 シロヤギさんとクロヤギさんの手紙~
12/31

12:匠と教会 前編

”俺”が教会についた時にはすでに白鷺さんが待っていた。

それともう一人、白鷺さんのそばに立っている。

はじめは夜目になれておらず、千秋先輩かと思ったがシルエットから見て女性の感じがする。

少し約束の時間に遅れてしまったのかと思ってあわてて声をかける。


「白鷺さん、遅れてしまいましたか?」

「いえ、私達も今来たところです。匠さんこちらは、私の姉にあたる鈴鷺すずさぎといいます。今回の件で助っ人に来てくれました。」

「鈴鷺と申します。いつも白鷺がお世話になっております。」

「”姉”さんと言うことは千秋先輩の?」

「そうです。私もオートマタ(自動人形)になります。」


どっからどう見ても、人間にしか見えない。

しぐさ、立ち振る舞い、雰囲気が人間と判別できるレベルではない。

さすが千秋先輩は天才と何かは紙一重という言葉があるが、まさにそれだなと思った。


「敵地に来て緊張感のないことを聞きますが、全員で何人ぐらいいるんですか?」


2人が”俺”の質問に答えてくれた。


「12人ほどでしょうか?」

「そうですね。全員顔を見たことがないので、噂で聞いただけですが、12人ぐらいですね。全国の”まけん”に派遣されており、姉妹で会うことがほとんどないです。」


”まけん”に派遣されているぐらいだ。

彼女達が平凡な能力を持っているわけがない。

白鷺さん同様の能力かそれ以上だろう。


「すごいですね。」

「ただ、あくまで”鷺”シリーズだけの数なので、千秋様がほかのシリーズを作成されているのは知っておりますし、あの方は海外にも別のシリーズを送り込んでいるので。」


”俺”が考えていた以上の大所帯だった。

いつも千秋先輩が、ミッションに参加しないのかわかった気がする。

何十人もの彼女達に魔力を供給しているのは、千秋先輩だ。

つまり千秋先輩を失うと、彼女達は動かなくなる。

いつも不思議だったんだ。

結界内での修行で、技術的な詳細については千秋先輩で実戦な指導はすべて白鷺さんだった。

もしかしたら、千秋先輩は実戦はできないんじゃないだろうか?

しかし、”僕もついていこうか?”と聞かれたことがある。

この先、一緒にいればナゾはとけるかもしれない。

考えこんでいた”俺”を見て白鷺さんが声をかけてくる。


「それだけ、何かに集中できていれば大丈夫そうですね。」

「あ、そ、そうですね。準備はできています。しかし、聞いていいですか?」

「どうぞ?」

「なぜ”食べ残し”はこの教会に居座っているんです?一度”まけん”と戦って、再戦はあることがわかっているはず。」

「ここに”根を下ろした”と考えられます。」

「根を下ろす?」

「後5分でミッション開始ですが、それまで少し話しをしましょうか。」


後5分かかる理由は、白鷺さんが仕掛けた術式完成時間だ。

そういえば、このミッションのミーティングの時に”最後の晩餐”がどうのとか話をしていた気がする。


「少し思い出してくれたようですね。”最後の晩餐”という”食べ残し”が使える結界といいますか、自分のテリトリーを指定することで、その場にいて何倍もの力を得ることができるらしいのです。」

「それを解除するための魔法を今使用しているのですか?」

「解除はできません。しかし効力をかなり薄めることができます。今回の”食べ残し”は”最後の晩餐”を薄めたところでどうなるかわからない敵です。」


白鷺さんの表情はいつもと変わらず穏やかだが、何だろう余裕がない気がしていた。鈴鷺さんの顔も同じような表情だった。


「俺に隠している事はないんですか?」


何かそんな気がした。

大事な事を隠されている。そんな気が。


「私はどうも隠し事が苦手です。鈴鷺姉さんの報告で、今回の”食べ残し”が”無敵”だと聞きました。」

「え?」


思わず聞き返してしまった。

”無敵”?


「花見月学園の”まけん”に私は所属しており、”食べ残し”と戦いましたが、私は直接戦っておらず、後方支援のみで”無敵”の原因がわかりませんでした。”」

「そうだったんですね。」


白鷺さんが鈴鷺さんの言葉を引き継ぐように説明してしてくれる。


「どんなに攻撃をしても瞬時に回復を行い、弱点らしい弱点もなく、敗北したらしいのです。」

「それはまた・・・。」

「しかし、マスターを含めた”私達”の見解では”ありえません”。」

「ありえない?」


白鷺さんのいっている”ありえない”がなぜなのかわからなかった。

”食べ残し”との戦闘経験がまだ数えるほどしかしていない”俺”にとって経験不足による知識の幅の狭さはわかるが、ある一定の条件を満たした場合における”食べ残し”の無敵が”ありえない”事だと判断できるだけの知識を白鷺さんも持っているのかという疑問があった。


「私達”鷺”シリーズは、個々のデータベースとは別に共有される知識のネットワークが存在します。なので私一人の戦闘経験によるデータベースは小さいですが全国の姉妹から送られてくる情報もあわせるとかなり膨大な知識量となります。」

「なるほど。」

「ただ、情報が常に垂れ流しの状態なのでどの姉妹から送られてきた情報なのかまではわからず、さっき話しした姉妹の人数に関して確定したことがいえないのです。」

「ではその膨大な知識の中で、今回の”無敵”に該当する”食べ残し”の存在は認められないということですか?」

「そうです。もともと”食べ残し”とは悪魔が人間から抜き取った”生気”の代わりに”カス”を植えつけて、”食べ残し”となります。簡単にいうとRPGゲームでいう雑魚モンスターです。」

「雑魚モンスターなんですか?結構倒すのに苦労するんですけど。」

「それはまだまだ匠さんが”魔力”を上手く使えていないだけ。話を元に戻しますが、雑魚モンスターが”無敵”になるにはかなりの無理を通さなければなりません。」

「なるほど。今回”最後の晩餐”を弱体化させて、確かめようということですか?」

「いえ、それは私がもう行いました。」

「じゃあ、直接”無敵”に対する有効手段がないまま、戦うわけですか?」

「そうなります。」


なかなか”俺”好みな戦い方じゃないか。

あれこれ考えながら戦うのは正直まだ苦手だ。

しかし、白鷺さんが、ここまで作戦に明確な指示がないのは初めてだ。

そのために少しでも勝率を上げるため、鈴鷺さんが参加しているのだと思うが、とりあえずもうすぐ時間だ。


「そろそろ時間です。準備はいいですか?」

「もちろんです。」


白鷺さんの問いかけに対して”俺”はM1911A1ガバメントのセーフティを解除しながらうなずき、鈴鷺さんもうなずく。


教会の扉を開けると、奥に大きな馬?とその横に騎士の鎧をきた奴が椅子に座っている。その周りを上半身裸でブリーフをはいた筋肉質のイケメンの青年達が控えていた。

何この異様な光景は?

しかもよく見ると騎士が座っているのは椅子ではなくて人だった。

ボールギャグを咥えさせれており、異様に太った腹が印象的で、周りの男達はなにやら叫んでいる。


「ムツコ様万歳!」


叫んでいるというより崇めていて祈りをささげている声に聞こえる。

何もかもはじめてだった。

こんな変な展開に口をあけていた”俺”だったが、3人全員が教会に入ると自然と扉が閉まり、今からボス戦をします的な空気が流れる。


「ようこそ、私のパーティへ。」


そういうと騎士が立ち上がり、椅子となっていた青年のケツを叩く。

するとぶひぶひ言いながら、椅子人間と、筋肉ムキムキ青年達が奥へと下がる。


「前回と同じことを言っていますね。何かの演出でしょうか?」

「演出にしてはかなり悪趣味ですね。」

「どうも、彼達は催眠暗示のようなもので操られているようです。」

「男の裸なんて見たくないので、さっさと片付けて正気に戻させましょう。」


3人とも自分達から離れポジションにつく。

1対3で相手にする場合にあまり近いと互いの行動に干渉してしまう恐れがあるため、一定の距離をとり、戦闘を行う。

特に今回教会内という事もあり、非常に限られたスペースでの戦闘になる。

魔法も大規模的なものではなく、一点集中型を原則として使用する。

”俺”好みのミッションなはず。


さっそくガバメントがガスの煙を吐きながら、弾丸を飛ばす。

BB弾ではあるが、弾速800m/sを超える速度でほぼライフル並みの弾速を誇り、魔力強化によってBB弾がその発射威力および、着弾の衝撃にも耐えれるようになっている。

つまり当たれば、ヘリコプターや装甲車などにも損傷を与えられる。

が当たればの話である。

まさか、800m/sを超える弾速をかわされるなんて予想ができるわけがない。

距離にして、”俺”と奴の間は50mほどしかない。

そんな距離ではずすはずがないと思っていたのだが、よけられた。


「なかなかの速度だが、私は速度に特化した戦士だ。残念だったなボウヤ。お、よく見れば私好みではないか。コレクションになるなら痛い目を見ずにすむぞ。私のモノになるがよい。」

「断る。」

「ほう、まあいい。後で同じことになる。」


騎士が馬のわき腹にくくりつけてあるランスを手に取り構える。

やばいな。

”本気”でやるしかないようだ。

2倍の速度 1600 m/sを試してみるか。

ハッキリ言ってこれがだめなら、お手上げだ。

現状、ガバメントが”俺”の魔力に耐えれる限界値が1600 m/sの弾速とそれに対する弾の強度率。それ以上だと弾も銃も戦闘に耐えれる事はできない。

実際そこまで銃を酷使するほどやったことはないが、感覚的に割り箸に力をいれてなんとなく折れる瞬間の感覚に似ている。

まずは意識を集中する時間がいる。

しかし、奴が見ているのは俺だけで、奴の速度なら一瞬で間合いをつめられる。

これでも、奴の結界の効力を大分弱体化させているはずなのに、”俺”自身の魔法強化もしないといけないし、銃に送り込む魔力も練りこまないといけない。

とか考えているとランスが俺の鼻先を通っていく。

気を抜いたわけではないが、目の前に騎士がランスを横にふるっており、まさにスローモーションのような光景で剣先が見えた。

一気に後ろに下がるが、そこにすでに騎士が立っており、胴狙いでランスを突いてくる。

もちろんかわすが、気が抜けない。

汗で背中がすでにびしょびしょだ。

白鷺さんたちももちろん攻撃はしている。

そのおかげでタイミングがずれて、俺がかわす為の時間になるのだが、事前の話のとおり攻撃を受けているのにも関わらず、受けたそばから傷がふさがっていく。

俺も攻撃をかわしながら、まだ魔力を練れていないので、さっきと同じ800m/sの弾丸を奴に撃ち込む。

よけるのがめんどくさくなったのか、奴の肩にクリーンヒットしたが、まったくダメージを受けた様子がなく、傷もすぐに修復された。

こりゃダメージでどうこうなる相手じゃないな。

何かタネがあるはず。

白鷺さんに合図を送り、点ではなく面を覆う魔法をお願いする。

その間、弾幕を張るように何度も引き金を引く。

ガス式なので、マガジンが冷えると弾が撃てなくなる可能性があるが、これだけ気温が暑いと気にせず撃てる。

スライドストップがかかり、マガジンを交換する。

かなりハイペースに弾幕を蒔いてしまった。

使えるマガジンが後1本。

ルーンを掘り込んでもらっているマガジンが2本だけなので、スペアのこの1本で決着をつけないとまずい。

前に話しをしたが、マガジンに描かれているルーンのおかげで、BB弾が強化できている。

普通の市販されているマガジンを使用して弾を撃ったところで、800m/sの衝撃に耐えれるはずもない。

奴のタネあかしも出来ていないのに、かなりやばい状況になった。

しかし、色々あがいてみるものである。

白鷺さんが使用した炎系の魔法が奴の体全体を多い、そこで、激しく暴れる奴の行動に今までなかった手ごたえを感じた。

すぐに炎を消し飛ばしたが、”俺”は見た。

額にある石をかばっている様子を。

よく見ると今の炎で額の石に傷が入っており、さっきとは違う魔力の低下を感じていた。

いける倒せると感じているのは俺だけではなく白鷺さんと鈴鷺さんも一緒だったようで、二人は点の魔法ではなく、さっきと同じできるだけ体を覆うような魔法に切り替えて攻撃を加える。

奴が膝をつき動かなくなる。

”俺”の出番なくね~とか思っていたが、急に教会の空気が重くなる。


「なんだ?」


急に教会の真ん中にブラックフォールでも開いたかと思うような黒く渦巻く、スモークのような邪気が発生すると、今までにいなかった3人の男達が現れる。


「じゃ~~ん。俺が着てやったぜ。」

「ケイそれは・・。」

「良いじゃん。俺の登場は華々しくってね。」


ケイと呼ばれた3人の中で一番小柄な生意気そうな少年が、ピースとかしてやたらと目立っていた。

その右隣に苦情を言った、長身で紫の髪でリア中爆発しろといいたくなるような超イケメンの少年。

さらにそのとなりには首をかしげてガムをくちゃくちゃとかなり気を刺激される、何処の世紀末ですか?と聞きたくなるような金髪のソフトモヒカンでタックトップといったいかにも肉体派ですと言いたげな少年がたっていた。


「こいつら、”D”じゃないか。」


最近世間で知名度を上げているダンスユニット”D”がこのタイミングで現れた。

はっきり言って意味がわからない。


「何お前、俺らのこと知ってるの?じゃあ殺すわ。」


ケイが俺のセリフに反応して、当たり前のように言う。

紫髪の確か名前はジェイといったかテレビとかで挨拶をしているのを見たことがあるので名前を覚えていたけど、そのジェイがケイに対して首を振る。


「ケイ、俺達がこの件に直接介入する為にここに来たわけではない。ただ置き土産は置いていくがな。」


ジェイが今回の”食べ残し”の件を知っているような発言をし問いただそうとしたが彼が右手に持っているものに注目してしまった。


「なんでお前がそれを?」

「てめー誰に向かって”お前”とか言っちゃってるわけ?マジ殺すよ。」

「ケイ、ソイもやめろ。」


ジェイ以外の二人が俺を睨み今にも襲い掛かってきそうだったが、彼の一言で止まる。


「これか?さっき来る途中に”空間”にひかかっていた。」


俺が聞いたジェイの右手につかまれているモノは朝に会った”妖魔”だった。

しかしかなり小さくなっており、一瞬悪趣味な人形かと思った。


「そいつをどうするつもりだ。」

「置き土産だといったはずだが?」


ジェイは近くで膝をついていた騎士に近づき、左手で頭をわしづかみにすると右手に持っていた”妖魔”をそのまま騎士のおでこに無理やり押し付ける。

額の石のひびに”妖魔”が徐々に吸い込まれていく。

その間気味の悪い泣き声と、騎士自身の苦悶の悲鳴が教会に響き、目の前で起こっている現象を見ているだけしかできなかった。

体が金縛りにあったかのように動かない。


「正義のヒーローが変身しているときに、悪党どもは待つだろう。それと同じだ。」

ケイが何がうれしいのか、嬉々とした声で俺達に言う。

こいつとは絶対友達になれないと思った。

キモイしうっとうしい。

イライラしたら、だめだ。苛立ちと怒りは判断を鈍らせる。


「ケイそれ以上刺激するな。”まけん”のみなさん生きていたらまた会おう。今度はこんな形ではなくできれば直接。」


意味深な笑みを浮かべるとジェイが右手を振り、さっきのブラックフォールみたいなのが再度発生し、その中に3人が消える。

消えると同時に体の自由が利くようになる。

よし、なんだかわからんが邪魔はいなくなった。

ここから化け物狩りの時間だ。


「あ。」


気がついた時には”俺”の左わき腹に槍投げで使用する槍にようなモノが刺さっていた。


「油断した。」


言葉と共に意識が薄れて・・・。


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