11:匠と家族のきずな
夕飯を食べ終わり、しらばくリビングで談話をして、時計を見ると21時になっており、湊ちゃんを僕が送っていくことになった。
「たくちゃん、お姉ちゃんも着いていこうか?」
水無月姉さんが心配そうに聞いてくる。
湊ちゃんの事を心配しているんだと思い、僕は大丈夫だよと返事をする。
「そうじゃないの・・・。夜道で湊ちゃんに襲われたら困るでしょ?!」
「私がそんな事するわけじゃないですか?」
湊ちゃんが、水無月姉さんの顔をそむけながら話をするものだから、不安がさらに大きくなったのか着いてくると言い出す水無月姉さんに僕はあわてて、そんな事にならない理由を話しする。
「さっきも大丈夫って言ったけど、湊ちゃんの家すぐそこだし、大丈夫だよ。」
僕の説得に、しぶりそうになった水無月姉さんに、純姉さんが話しに入ってくる。
「み~ちゃん。約束してもらえばいい。たくを襲った湊が自慢話をしてこないわけがない。その場合、み~ちゃんもたくを、それなりに扱えばいいと思う。大きな声ではいえないけど。」
「さすが純ちゃん。それだ!!」
「ん~。」
僕を置いて、3人でどんどん話が進み結果、湊ちゃんが僕を襲った場合、水無月姉さんも同じこと以上の事をしていいというような話に落ち着いた。
あの~僕男の子なので、僕が襲う場合の想定はないのですか?などと口を挟むとまた大変なことになりそうなので、口に出さないでおく。
「じゃあ湊ちゃん送ってくるから。」
僕の手を握りながら、水無月姉さんは真剣な顔で声をかけてくる。
「信じてるから。」
「何を信じてるのかわかりませんけど、ただ送ってくるだけですから。」
手を離し、玄関先まで水無月姉さんに見送られて、二人で夜道を歩き始める。
「本当に、水無月さんって弟が好きだよね?」
「ちょっと行き過ぎた部分はあるけど、僕は好きだよ。」
「それは、姉として?それとも女性として?」
湊ちゃんの真剣な顔に、どう答えていいのかわからなくなり、言葉を濁そうと思ったが、そんな雰囲気ではなかったので、必死に考えて答える。
「姉として好きではあるけど、女性として好きだった場合、僕は姉さんと恋愛できないと思う。」
「どうして?」
「いくじがないからだと思う。」
「そっか。そんないくじなしの匠は私がもらってもいいよね?」
湊ちゃんの顔がだんだん僕の顔に近づいてくる。
唇の形がだんだんはっきり夜の暗さの中でも鮮明になるぐらい近づいてきて。
「だめです!」
第3者の声が後ろから聞こえ、振り向くと水無月姉さんが立っていた。
あまりにびっくりして、びくっと体をこわばらせてしまった。
どきどきする心臓の鼓動を、悟らせないように平静を装いながら突然現れた水無月姉さんに声をかけた。
「水無月姉さん?!」
「はぁ~、はぁ~、やっぱり心配でおいかけてきたの。」
「そこまで匠が心配なんですか?」
「だってだってなんだもん・・・。」
水無月姉さんの息を切らしながら、必死感を感じさせるよくわからない切り替えしにみんな黙ってしまった。
特に会話もなく、湊ちゃんの家に歩き始める。
僕を真ん中に挟み左右に二人が付き、重い空気が流れる。
「そ、そういえば最近、6月なのにまだ夜は冷えるね。」
この空気に耐えることができなかった僕は、当たり障りのない会話をふってみる。
「じゃあ匠が暖めてよ。」
と湊ちゃんの返事の後、ぎゅっと腕を絡めてくる。
ぽよっとした柔らかい感触に意識を取られ、つい、にやっと顔に出てしまった。すぐにやばいと思って、またしても平静を装い夜の暗さに助けられながら、普通に歩く。最近湊ちゃんも発育が良くなってきて、出るところが出てるので、正直この感触は困ります。
「こら!湊ちゃん。たくちゃんにそんなやらしい事したらだめだと思う。」
といいながら、当たり前のように水無月姉さんも僕の腕に腕を絡めてくる。
僕の身長が低いから二人ともバランスを崩して、かなり寄り添ってくる感じなので、より感触がダイレクトになり、大変困るんですけど。
「そういいながら水無月さんも匠に腕を絡めてるじゃないですか?許婚いてるにいいのですか?」
「いいと思うよ。だって弟に絡むお姉ちゃんなんて普通だと思うし。」
「そんな姉普通にはいてないです!」
「一般の人がいう、普通なんてわかんないもん。だからこれが私の普通。」
「はっきり言いますが、最後には匠は私のモノになるんですからね。」
「たくちゃんモノじゃないし。お姉ちゃんの”弟”という部分は絶対なくならないから大丈夫。」
2人のいつもどおり会話を繰り広げながら、僕の精神がどんどん削られていき、精神疲労がたまっていく。
僕のいくじがないために、ここまで放置していたのが悪いとは思うけど、選択をすることができない。
怖いんだ。
この状況は確かに疲れるけど、ちやほやされている僕は、正直うれしい。
このぽよぽよの体でもいいといってくれる人が一人でも多くそばに居てくれることは安心に繋がる。
もし、お父さんだけで水無月姉さんとか家族がおらず、湊ちゃんも居なかった場合、僕は本当に人に好かれるのだろうか?
僕の容姿だけで判断されて、誰も僕を見てくれないのではという恐怖心がある。
そんな恐怖心と戦うことができるのが”俺バージョン”、つまり魔力を手に入れたことで、何かと戦い、醜い考えで先に進めない僕が僕じゃなくなる瞬間が強烈なインパクトを感じ、新しい自分をはっきり感じる。
いつか、恋愛に対する答えも出さないといけないと思うけど、今はそのときじゃない気がする。
勝手な話だけど、今この瞬間が楽しい、なくしたくない瞬間なんだ。
なので、心の中で、謝ることと二人の会話に精神を削られても、逃げずに話を聞く。その会話の中に答えがあるような気がするから。
二人の言い争いも、終盤になった頃に、湊ちゃんの家の前に着く。
「じゃあ、湊ちゃんまた明日。」
明日は学校は休みだが、家に遊びにくる事はわかっている。
湊ちゃんがうちに遊びに来なかった日なんてあったかなっという認識で、逆にうちにいてる時間を考えると、そっちのほうがイメージが強い。
「匠、私にお別れのちゅーぐらいしていきなよ。」
「いつもしてないでしょ!」
「たくちゃんの唇はお姉ちゃんのものなの!」
「水無月姉さんのモノでもないです!」
湊ちゃんと別れると、水無月姉さんと一緒に家に戻る。
その間ずっと、腕を組まれて歩きにくくて仕方なかったが、水無月姉さんの存在は僕にとって大きかった。
無条件の愛。
それは”弟”という肩書きがあるからかも知れないけど。
お母さんを早くに亡くし、お父さんと二人で暮らして、不自由な生活はしたことがないが、いかに無条件の愛が大きいものか体でわかってしまった。
姉さん達が来てから、当たり前のように無条件の愛を受けることができて、無くしてはならないものになった。
しかし、無くしてしまう可能性が非常に高い”神野”という環境中で、僕には力はなく、姉さん達に逆に守られていた。
苛立ち、自分への怒り。
そんな中でよくわからない状況で手に入れた”魔力”。
まさに言葉の通り、魔の力だった。
はっきりハマっていると自分でもわかっていた。
魅入られてしまって、千秋先輩達に出会わなければ無理をして暴走していたと思う。出会う人に会うべくして出会ったと感じている。
変態ではあるけど。
しかしあの人の魔力に対する知識、経験、瞬間的は判断力、これらの技術が今まで戦闘経験のなかった僕が1年という訓練で、ある程度の”食べ残し”との戦闘が可能になったことを考えても優秀な指導者だと思う。
変態ではあるけど。大事なことなので2回言ってみました。
だから僕の”日常”を犯すモノは排除するって決めたんだ。
今の僕なら可能だと思う。
今回のターゲットは、強敵だとわかっているけど、どの道近いうちに、姉さん達になんらかの影響はあることは間違いない。
「今、やらなきゃいけないんだ。」
「ん?たくちゃんなにか言った?」
つい考えが声に出てしまったらしく、すぐに平静を装って返事をする。
「大丈夫。何でもないよ。」
「お姉ちゃんを夜道で襲う算段でもしてたんでしょ。お姉ちゃんできればお外じゃなくて初めてはお部屋がいいな。それでもたくちゃんの特殊性癖でお外がどうしてもいいって言うなら考えるけど。」
「ぶーーー。」
水無月姉さんからいつもどおりのアピールを受けながら受け流し、家に帰ると出迎えてくれる家族。
幸せだと、ふと思う。
最近ここまで感じたことはないけど、気持ちがナーバスになっているのかなと思う。”まけん”のミーティングでは、勝てる可能性は40%程度。
不確定要素が、大きく勝てる可能性が今回は低い。
けどやる前から逃げることはできない。
まずは一歩から。
深夜1時を過ぎた頃に目を覚まし、装備を整えてそっと玄関に向かう。
玄関を開けて家を出た瞬間に声をかけられる。
「行くのか?」
びっくりして、後ろを振り向くとお父さんが腕を組みながら立っていた。
まだ心臓がばくばくいっているが、深呼吸で呼吸を整えると、お父さんの目を見ながら、返事をする。
「僕が行く事を知っていたの?」
「そんな気がしていた。覚悟を決めた男の顔になっていたからな。」
「どうしてもってわけじゃないけど、行かないといけない気がするんだ。」
「どうして?俺が行ってもいいんじゃないか?」
「お父さんの”力”は知っているけど、僕も”力”を手に入れたんだ。だから守りたい人を”僕自身の手で守りたいんだ”。」
「気持ちはわかるが、一人でやれることなんて自分で考えているより狭いぞ。俺でも人の手を借りている。人は一人では生きていけんぜ。」
「僕にも仲間はいるよ。」
「そうか。じゃあ今度つれてこいよ。うちに。」
「変態紳士だけどいい?」
「大歓迎だ。とりあえず行って来い。だめだったときはケツぐらいふいてやる。」
「ありがとう。じゃあ”俺”いくよ。父さん。」
姿が変わった”俺”は父さんに背を向けながら足音を魔術で消しながら夜道を走り出した。
上を見上げれば、雲がかった三日月が空にあった。




