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クロスロード  作者: 八尺瓊
~第一章 シロヤギさんとクロヤギさんの手紙~
10/31

10:匠と楽しい(恐怖?)の晩餐

水無月姉さんと湊ちゃんと一緒に家に帰ってきた。

3日間の特訓の疲労はすごい苦い。

白鷺さん特性の丸薬(何が入っているか教えてくれない)を飲んで保健室で寝たので大分ましにはなったけど、それでも芯から疲れが取れたわけじゃない。

家に着いたのが17時。

ちなみに湊ちゃんは僕が心配だと家まで着いてきた。

それをぶーぶー言いながら水無月姉さんも僕のことが心配な湊ちゃんを追い返そうとまではしなかった。


「ただいま。」


玄関を開けると、”お義母さん”の靴が置いてあり、あれ?と思った。

息子の僕が言うのも恥ずかしいのだけど”お義母さん”はお父さんんの事がすごい大好きで、すぐに浮気の心配から、ちょっとでも離れると5分おきに電話をかけるすごく迷惑な方なので、まだ靴が置いてあるって事は、お父さんのところに行ってないって事になるわけで・・・。


「たく~~~ちゃ~~~ん。」


靴を脱いだ瞬間に後ろから”お義母さん”に襲われて、抱きつかれる。


「このムニムニ感がたまらな~い。」

「お母さん!!たくちゃんから離れてっていってるでしょ?!」

「おば様こんにちわ。匠から離れろ。」


二人に睨まれても全然気にした様子もなく、”お義母さん”のスキンシップは度を増していく。


「ちょ、”お義母さん”どこに手を突っ込んでるんですか?!」

「よいではないかよいではないか~。」


ニヤニヤしながら、うまく腕をとられ”お義母さん”の手が僕の胸に入ってくる。

誰かたすけてー。

ぶち。

何か切れた音がした。


「お母さん。その手を離しなさい。さもないと・・・。」

「ほうほう。さもないとなんだい?」

「泣いちゃいますから。」


え~んと泣き始める水無月姉さん。

それにつられて湊ちゃんまで、泣き始めて、いったいこれどうやって収集するんですか?と思っていると玄関に人の気配が。


「あれ、水無月、湊ちゃん。どうしたの?」


玄関に立っていた人物は神野 博正。僕のお父さんだった。


「あ、あれ?父さん?広島じゃなかったの?」

「そうだったんだけどね。ちょっといやな予感がして、早めに仕事を”終わらせて”帰ってきたんだよ。ところで何で二人は泣いているの?」

「博正さ~~~ん。」


がばっと”お義母さん”がお父さんに抱きつき、おおっと、お父さんが受け止める。その”お義母さん”が僕から離れたことで二人は一気に僕に抱きつき、子供の頃お気に入りのぬいぐるみを誰かに取られて、返してもらったような意固地な状態で僕にしがみついてくる。

お、重い。そして、く、苦しい。


「お母さんも、み~ちゃんもそれぐらいにして、玄関の人口密度が高すぎ。」


純姉さんの一言に、一同が納得して各自の部屋に移動する。

湊ちゃんは僕についてきて、当たり前のように部屋に入ってくる。


「あ、あの湊ちゃん?僕着替えたいんだけど。」

「ん?気にしないでいいわ。さっさとそのだらしない肉体を私の前にさらすといいわ。」


ぷにょぷにょ肉体の何がいいのか目をランランと輝かせて、今日はこれを見に来ました的な顔をするので、どうやって追い返そうかと悩んでいるとドアのノックする音が聞こえる。


「匠入るぞ。」


珍しくお父さんから、声がかかる。


「開いてるよ?」

「入るな。お、取り込み中だったか?」

「この状況を見てどうしてそう思うの?」

「お久しぶりです。おじ様。もうちょっと後で着ていただければ濡れ場が見られましたのに。」

「息子の濡れ場を見た所でうれしくないよ。湊ちゃん。ちょっと匠と二人で男の話がしたいんだけどいいかな?」

「おじ様の頼みじゃあ仕方ないです。リビングで待ってますね。」

「ああ、ごめんね。」


お父さんが湊ちゃんを外させるなんて珍しい事だった。


「最近変わったことはなかったか?匠。」

神木しんぼくのこと?」

「いや。お前の身の回りでだ。」

「・・・特にはないよ。」


僕の身の回りの変化の激しさは自分で思っている以上にめまぐるしいと思う。

その状況を、家族が感じないわけがない。

心配してくれている事は十分わかっているけど、まだ自分で解決できる範囲だと僕は思っている。

なので自分で動けるならまだ心配させる話はするべきじゃないと思って、魔力に目覚めた事はお父さんには話しをしていない。

もちろん”お義母さん”にも。

けどたぶん二人には気づかれているような感じはする。

お父さんがため息をつく。


「わかった。匠を信用する。だけどこれだけは言わせろ。お父さんはお前が大好きだ。何かあったら手を出すからな。」

「わかった。ありがとう。お父さん。」


久々にお父さんの胸で抱きしめられると、目頭が熱くなるが、素直を我慢することを覚えてしまった年代になってしまったので、目の周りの雫はそっとそのままにする。


「こら。久々の親子の姿をこっそりみるんじゃない。」

「えへ。お義父さん。良いもの見せてもらいました。これでご飯5杯は固いです!」


水無月姉さんが少し開いた扉の隙間から熱を帯びた瞳で覗いており、僕は気がつかなかったけど、お父さんの気配探知に捕まったようだった。

これだけ他人に感情的に見られていて気がつかないなんて、僕はまだまだだなと思う反面、水無月姉さんの隠行術もすごいなと関心する。


「仕方ないな。ほら水無月も来るか?」


僕を解放し、手を広げるお父さんだったが、水無月姉さんはちっちっちを指を振りながら返事をする。


「いえいえ。お姉ちゃんですから。」

「そうか。お父さん寂しいな。あ、所で水無月に手紙が来ていたんだが?」


お父さんの話の内容に途中から、水無月姉さんの目が急に大きく開かれ、いや~な顔をする。

水無月姉さんがこんな態度を取るときは決まっている。

あいつから手紙が着たんだ。


「燃やしていいですか?」

「俺は別にかまわないが、”藤堂”の家は大丈夫なのか?」


お父さんの言葉にすご~い渋い顔をする水無月姉さん。

渋い顔をしているのに、美人に見えてしまう。

僕の姉フィルターも病的にやばいなと感じてしまうが、そんな態度は出さず、この話をお父さんに任せることにする。

お父さんがズボンのポケットから手紙を出し、水無月姉さんに渡す。

受け取った水無月姉さんが手紙を真ん中から破ろうとするが、思いとどまり、封を開ける。

ため息をつきながら、手紙を読む水無月姉さんを僕とお父さんが見つめながら読み終えるのを待った。

息苦しい雰囲気に僕の部屋が包まれ、自室であるにも関わらず、ストレスを感じることに、なんだかな~と思いながら、読み終えた水無月姉さんの顔が、無表情になり、やばいな~と思う。


「どうだった?」


気兼ねなく、話を聞くお父さんに、爆弾をふまないで~~~と突っ込みを入れたくなったが、水無月姉さんがぼそぼそと語り始める。


「あの野郎、近々遊びにくるって書いてありました。本気であの話解消したいと思ってます。」

「許婚の話かい?」


お父さんが核心に触れる事を聞く。

そう水無月姉さんには許婚がいるのです。

僕と会う前、まだお義母さんとお父さんが結婚する前の話で、小学校1年生のときに決められた話みたいで、その時、水無月姉さんもこの話には了承した話だったみたいで、詳しくは聞いていない。

ただ、”藤堂”は退魔師として、力が弱く家を存続させるために、常に力のある退魔師と結婚して、力の維持をしてきた。

”藤堂”家は10代前にさかのぼっても、生まれてくる子供は、”女性”で、しかも双子、入り婿を迎えて、名前を残してきたらしい。

そのため、過去にDNAの調整を行う禁忌を犯し、生まれてくる子供は女性でも美人、ナイスバディと男性をひきつける要素を生まれもって与えられて産まれてくる。力のある退魔師を入り婿に迎えるにあたり、早くから結婚の約束を行い、将来を確定させてきた。

多少相手が”あれ”な性格でも、仕方ないと我慢してきた事もあったようで、一族として恋愛結婚できるのは双子の片方だけ。

お義母さんは許婚と結婚したみたいで、僕のお父さんとは大学時代に出会い、初めてそこで恋を覚えたらしいのだが、すでに決まっていた結婚と、お父さんも母さんと付き合っており、結ばれる恋ではなかったようだった。

お母さんは体が弱く、僕を産んで5年で病死してしまった。

お義母さんのほうも、旦那さんが浮気を繰り返していたらしく、愛想を着かしており、そんなおり旦那さんが退魔師として妖魔と戦い命を落としてしまった。

未練もなかったわけではないが、そこまで想い入れをしていたわけではなかったので、再婚を考えたときに、お父さんと再会し、大学時代の情熱が沸き起こり、モーレツアタックの末に再婚したようだった。

しかしお父さんはかなりの間、お義母さんのアタックになびかなかったらしい。

結果としてお父さんの条件が、僕と水無月姉さん、純姉さんとは結婚させないことだったらしい。

”藤堂”家の許婚リストの常に上位に”神野”の名前があり、かなりその血を家系に組み込みたかったらしい。

そんな家の戦略に、僕を巻き込みたくないとずっと断ってきたのだが、お義母さんがそんな事でお父さんと一緒になりたいわけじゃないと、数年かけて判らせたみたいで、お義母さんが再婚相手でよかったと本当に思う。

たまに?ぶっ飛んでいるがそんなお義母さんが”お母さん”として好きになれたことがよかった。

という経緯で、水無月姉さんにも許婚がいるわけだが、あるときから許婚の存在が姉さんの中でうざく感じられるらしく事あるごとに”許婚”の破棄を口にする。

水無月姉さんが”藤堂”ではないので破棄を実行してもいいのだが、相手方が狂気的に水無月姉さんを好きなようで、なかなか話が崩れることがない。

ちなみに許婚の話を湊ちゃんは知っており、僕に水無月姉さんが近づいても怒りはするがそれ以上はない。

僕と水無月姉さんが男女の関係で結ばれることがないことを知っているから。

とりあえず、リビングに移動してみんなでご飯を頂く。

うちは亭主関白主義ではないので、適当に好きな所に座るのだが、僕の左右には、水無月姉さんと湊ちゃんが座り、目の前には純姉さん、お父さん、お義母さん順で座っている。


「あ~んしてやるから、口をあけろ。匠。」

「たっく~ん。おねいちゃんが食べさせてあげるね。」

「水無月さんは自分で、食べてください。」

「おねいちゃんなんだよ。可愛い弟の面倒を見るのは当たり前なんだよ?」


自分のご飯を黙って食べる僕。

左右から攻められはするが、いつもよりはアプローチが二人ともまだまだ甘い。

お父さん、お義母さんが目の前にいるからそこまで攻めてこないんだと思う。

かといって人は慣れてくる生き物、だんだんエスカレートしてくる。


「じゃあ、”妻”である私のほうが関係としては上だと思いますので、私があ~んしますね。」

「湊ちゃ~~ん”妻”じゃないっていってるでしょ?」

「お、匠。湊ちゃんととうとう”結婚”したのか?」


お父さんがニヤニヤしながら聞いてくる。

やめてそこには触れないで。


「おじ様。末永く良しなに。」

「うんうん。」


ニヤニヤがとまらないお父さんに僕が反論しようとする。


「いや、お父さん。湊ちゃんとは・・・。」


湊ちゃんからギロっと睨まれ、蛇に睨まれた蛙のようになる僕。さらに別のとなりからはまた別のオーラを感じるし。そっちに向いたら、僕の死亡フラグが確定しそうで、これなんてムリゲーーー。


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