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Underclass Pointers  作者: 床ノ民
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2・アリノス

 午後7時。辺りは段々と暗くなってきた。

 暗闇の中で人間とモンスターが対面した場合、確実に人間の方が不利である。昼間でさえ戦力差は大きいのに、夜となれば更に広がる。


 では、どうすれば良いか?


 答えは「巣に戻る」である。


 アリノスは人間の住処であり、また、身を守る盾となっている。


 宮藤も例外ではなく、アリノスへと戻る事にした。入り口は路上のマンホールである。

 アリノスに繋がるマンホールには印が付いている為、間違える事はない。しかし、ここで注意するべき事がある。


 ゴブリン等の比較的知能の高いモンスターは、マンホールに入る人間を見て、そこがアリノスへと通じている事に気付く。

 そのゴブリンが単体で侵入する程度であれば、点数の低いポインターでも簡単に倒せる。


 しかし、ゴブリンは巨大なコミュニティを形成している為、アリノスの情報を伝えてしまう可能性もあるのだ。


 それを避ける為、ポインターは周囲の警戒を行ってからアリノスに戻る事を義務付けられている。


 

 宮藤は辺りを2、3回見渡した後、マンホールを開けて下へと下っていった。


 暫く梯子を使って降りると、古びたエレベーターが3台並んでいる。


 宮藤は、その横に付いている機械に先程のタブレットをかざす。

 「ピッ」と音が鳴り、エレベーターの扉が重々しく開いた。


 このタブレットは『I Manager』、略して『IM』と言い、ポイントの管理、ナビ、個人認証の3つの役目を持っている。

 かざしたIMに記憶されているポイント数のランクによって、エレベーターの可動域が決められているのだ。


 可動域といっても、難しいものではない。自分のランクより高い層にはいけないという、とてもシンプルなものだ。


 宮藤のランクは「壬」。なので、その下の層である「癸」以外の層には自由に行ける。

 といっても、他の層に行く機会はほとんど無い。


 宮藤はエレベーターに乗り込むと、「壬」のボタンを押した。その時、エレベーターに取り付けられたスピーカーから機械的な女性の声が響いた。



 『あなたのランクで壬の層に行く事は出来ません。お手持ちのI Managerでランクをご確認の上、再度ボタン入力を行ってください。』



 「え...?」


 宮藤は動揺した。初めて聞いたアナウンスである。

 行けない層を押した時にアナウンスが流れる事を耳にしてはいたが、予期しない場面でのアナウンスであった。


 宮藤は、IMを起動させた。直ぐに画面に女性が映る。


 「梛、俺のランクを教えてくれ。」


 宮藤の言う「(なぎ)」とは、IMに内蔵されている女性の名前である。

 IMによって、ランダムに名前は決められているのだ。


 『宮藤さんの累計ポイントは0点。ランクは甲です。』


 梛の口から信じられない数字が飛び出す。


 「0点!?そんな馬鹿な!」


 宮藤は驚きを隠せないが、それは梛も同様だ。


 『私にも原因は分かりませんが、恐らく...点数がアリノス特別監視局によって点数がリセットされました...。』


 「リセット...。何もしてないぞ...!?」


 アリノス特別監視局と呼ばれるソレは、名前の通りアリノス内の監視を行う機関である。

 ポインターの個人情報及びポイントの管理、アリノス内の監視などを中心に活動する、言わば警察である。


 そして、点数のリセット。これは、ポインターの不正行為が発覚した場合に行われる強制的制裁である。

 もちろん、住居の層も最上階に移され、IMとコンタクトレンズを除く全ての装備品が没収される。


 これはポインターの「死」を意味する。

 食事や装備品は全てポイントを使って入手できるからである。

 武器が無い事にはモンスターも狩れず、ポイントが稼げないという事は食事も取れないのだ。


 宮藤はもう一度、壬のボタンを押す。

 結果は同じ、『あなたのランクで...』というアナウンスが流れるのみで、エレベーターは微動だにしない。


 「管理局の間違いだろう...。壬ランクの奴はそんなに多くないし、俺の名前を言えば対応してくれるはずだ。」


 宮藤のポイント数は、星の数ほど存在するポインターの中でも10位以内に入る程であった。


 アリノスの中でもかなりの有名人であり、低ランクポインターの憧れの対象なのだ。管理局に連絡すれば直ぐに対応してもらえる根拠は十分にあった。


 「梛、管理局に電話を繋いでくれ。」


 電話機能の備わったIMなら簡単に連絡がつく。

 梛が頷くと、画面には電話相手の顔が映った。


 見たところ50代後半であろう男性である。宮藤にとっては初めて見る顔だった。


 「あの...貴方は?」


 宮藤は男に尋ねる。


 「アリノス東京本部管理局長のフランシス・ヴァレンタインと言います。宮藤クン自ら連絡を頂けて手間が省けましたよ。」


 「管理局長...!?」


 宮藤が驚くのも無理はない。管理局長は普段、人前に出る事はほぼ無い。名前は聞いたことがあっても、顔を見るのは宮藤にとって初めてだ。


 「ところで、宮藤クン...私に伝えたい事はあるかい?」


 フランシスは涼しい顔をしながら尋ねる。

 宮藤は突然の質問に戸惑いながらも、ポイントの件について答える。


 「えっと...ポイントがリセットされたんですが、恐らく管理局側のミスかと思いまして連絡を...」


 途中まで喋った時、フランシスはシワのある顔に笑みを浮かべる。


 「心外ですなぁ、宮藤クン。我々がミスを犯すとでも...?」


 「いや...ですが、ポイントがリセットされる心当たりが無いのですが...。」


 宮藤はフランシスの反応に困っていた。ニヤニヤと笑っていて、自分を弄んでいる様にしか見えないからだ。


 フランシスは間を置くと、宮藤の言葉に返答した。


 「残念だよ、宮藤クン。君のような優秀なポインター...いや、優秀のフリをしていた...かな。」


 「どういう意味ですか...?」


 「いつまでとぼけているつもりだ?君は、計45000点以上のポイントを偽装した立派な犯罪者だ。しかし、今は一人でも多くのポインターが必要だ。最低限の装備品を受け取り、ランク甲からリスタートしてくれたまえ。」


 そこで通話は途絶えた。宮藤が呆然としていると、管理局の制服を着た男性二人が新米ポインターに無料配給される刀を持って、隣のエレベーターから出てきた。


 「次からは真面目にポインターの職を全うしてくれたまえ、『甲兵』の宮藤くん。」


 『甲兵』...それは、兵士の中でも一番低い層を表す。


 1時間前まで『壬兵』であった宮藤は、静かに膝を床に付いた。

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