夕陽の中で
放課後の校舎は人気がなく、閑散としていた。そこに響く、二人分の足音。窓から差し込む夕日が廊下を朱く染め、二つ分の影を作っていた。
明るく華やかな顔立ちの少年に対し、少女の容貌は鋭い刃のような冷たい印象を与える。
「でさ、あの先生、理事長に怒られたんだ。そしたら先生何て言ったと思う?」
少年は傍らの少女に相槌は期待していないのか、ちらりと視線を向けただけだ。
「『反省はしていますが、後悔はしていません』って。面白い人だよね」
「迷惑なだけだと思う」
「え~でもなんか憎めないんだよね。愛嬌があるっていうか。俺、何となくあの人が人気あるのわかった気がするな」
感心したように話す少年に、少女は不可解な物を見るような目を向ける。
「……よく分からない」
「じゃあ、君の好みのタイプってどんな?」
突然の少年の方向転換に、少女は困惑した様子を示す。
「いきなり何?」
「えっ…だって、あんまりそうゆう話、入ってこないでしょ? だからどういうのが好みなのかなって」
ほんのり頬を赤く染め、少年は訪ねる。
少女は少年の質問の意図が掴めず迷っているようだ。
二人の間に沈黙が降りる。
「ねえ、」
「何?」
好きだ。
それまで何の脈絡もない話をしていたはずなのに、不意に訪れた沈黙を縫うようにして告げられた言葉。一瞬何を言われたのか分からなかった。
何が。
と聞き返すと、
君が。
と返ってきた。
いきなりどうしたのだと笑いながら、誤魔化す様に言った私に、彼は告げた。
今すぐに答えが欲しいわけじゃ無い。ただ、気持ちだけ、伝えて起きたかったんだ。
彼の目は意外にも真剣で、真っ直ぐで、反論を許さなかった。
茫然としている私に、彼は薄く笑い、先ほどの告白などなかったかのように話題は移っていった。
何故だろう。何故私なのか。考えても答えは出ず。どういう意味なのか、わざわざ聞きに行くのも面倒で、そのまま数日が立っていた。彼は何も言って来ない。
好きだ。
彼女に告げた。
一瞬何を言われたのか解らないというように、彼女は首を傾げて、不思議そうな眼をして
何が。
と問いかけてきた。
君が。
と答えると、
今度は驚いたように瞳を見開いた。けれどもそれは一瞬で、すぐに誤魔化す様に彼女は笑う。だから、彼女を真っ直ぐに見つめて、告げた。告げられた言葉に、彼女は何も言わなかった。
すぐに話題を変えて見たけれど、彼女の反応は薄いままで。
失敗したかなとも思ったけど、案外後悔はしていない自分がいたから、それで良かったのかなって思った。
あれから数日が立ったけれど、彼女は何も言って来ない。時々、問いたげにこちらを見るけど、話かけようとはして来ない。それが少しつまらなくて、今日は彼女と一緒に帰ろうと決めた。