80話
天井からヒタヒタと水滴が落ちる。そんな階段を下へ下へと足を進めて行く。小さな羽虫が武司達の前を横切った。どこへ向かって飛んでいるのだろうか。
ついに新たなフロアに突入した。そこには壁掛け時計や置き時計に腕時計がところ狭しと犇めいていた。武司達が部屋の真ん中辺りに来ると人が現れ名乗った。
「私は時計に詳しい……時計マスター……ブラブラです。私の趣味は時計集めに時計鑑賞、時計を描く事です。私のお気に入りの時計はこの腕時計です。宝石があしらわれていて大変高価なんですよ。そもそも時計のルーツは……」
そこで武司がブラブラの言葉を遮った。
「時計についてはもういいからさ。この階を突破するにはどうしたらいいんだ? そっちを教えてくれよ」
ブラブラは鼻で笑うと
「この階をクリアするには私の時計についての講義を一日聞くか……です」
「最後の方が小声で聞こえなかったんだけど」
武司の発言に渋々返すブラブラ。
「……講義を聞きますね?」
「いや、もう一つは?」
「フー、そんなに私の時計に対する熱いメッセージが聞きたい、そういうことですね!?」
「いや、だから……あーもう、タケノコ助けてー」
『はいはい、このフロアのどこかに正確な時間を刻んでいる時計が一つだけあり、それを見つけたら次の階に進めます』
「タケノコ今何時?」
『午後一時五分です』
「了解、みんな探すぞ!」
武司とタケノコの会話のキャッチボールは終わり時計探しが始まった。しかし一時間探しても正しい時刻を示す時計は見つからなかった。ブラブラはニヤニヤ顔をしながら内心この部屋には正確な時を刻む時計は無いのですと思っていた。
するとルーノが挙手して言った。
「見つけたわ! この時計よ」
ルーノは自身の腹を指差していた。ブラブラはルーノの意図が分からず尋ねた。
「どういう意味ですか?」
「私の腹時計よ。今は午後二時十五分。どうあってるでしょう?」
ブラブラは困惑しながらも述べる。
「それは流石に無理があるんじゃ……」
ブラブラの言葉が終わる前にフロアをうめつくしていた時計達はフッと消え失せ、地上に繋がるエレベーターの近くに床がスライドし階段が現れた。そんなのありかよーとブラブラは心中で叫んだ。