61話
立ち上がった武司の首筋には赤い血液の線が首を取り巻いている。彼は貧血気味で額に手をやり僅かにふらつく。血を首から噴射したぐらいだから平然とではないが立っているだけでも僥倖のように思える。
凄く激痛を感じたことだろうな。頭部がポロッと落ちたのだし。全く酷い作者だ。作者の都合で異世界に飛ばされたり、嫌々ながらに冒険したり、強敵と対峙したり、極めつけは首を両断され断末魔を上げる間もなく黄泉の客となる間際に追い込まれた。
全くもって不憫な主役だ。主人公が帰らぬ旅に出発しかけるなんて、なんと破天荒な作品なんだろう。滅多にないのでわ。いやあるかもしれないけど。
「あはん、私も焦ったわ」
「武司……あなた……大切な……頭の向きが逆よ」
「へっ?」と言うと体を見下ろした。なんと背中が見えるではないか。驚愕した。なんでこんな状態で生存しているのか。相変わらず無茶苦茶な小説だな。稚拙だ。悲しいぐらい幼稚。タケノコは焦り早口で喋った。その声は武司達の傍の天井付近から降ってきた。
『あ! 失礼しました。今、直します』
武司が不利な状況にあるのを悟ったアサシンは武司に走って近づき切り付けた。またもや死亡かと思われたときルーノが投擲した小刀が黒いアサシンの肩に刺さって狙いが外れ空を切る。