55話
髭面のリットは顎に左手の指を当て頭を傾げる。現状を理解できないといった様子だ。それもそのはずで痛手を負った張本人がぴんぴんしていてまだ戦意が十二分にあるのだから。それに先程の発信源不在の男の喋り声。謎は深まるばかりだ。奴は自然治癒力が異常に高いのか……それとも不可思議な超能力の類いであろうか。リットは得体の知れない恐怖を感じながら疑問を口にした。
「おかしいな……刺して肉を貫いた感触はあったんだが……」
出た言葉からは武司に対する驚異の念が感じられた。物理攻撃は通じるはずだ。一度は血を流していたし服も真っ赤に染まっていたではないか。未知の力を見せ付ける武司を凝視し思案するリット。リットは焦りから無意識に顎髭を二本引き抜いた。内心めっちゃ痛かったが表情は無表情を繕う。武司は手にした剣を消し目をつむり前方に意識を集約した。茫然としている(いや実際は思索していたのだが)リットの居る近辺だ。するとスーッとリットの周りに数十本のバスターソードが出現した。どの剣も入念に研がれたように光沢を放っている。多数の剣に突然囲まれて白昼夢かと訝しったが数秒後に理由が理解できた。
「負けを認めないと串刺しだ。どうする?」と武司。