50話
武司は空を睨み据え言葉を紡いだ。勢いのある声だった。どこか凄みをきかそうとしているようだ。腹の中に憤怒を抱えているのだろう。
「こら! もうそういうの無し! じゃないと俺この部屋から出ないぞ!」
少し間があいた。思案しているのかもしれない。
『分かりました。じゃあ保留で……』
言葉の裏には残念の二文字がありありと浮かんでいるのが感じられる。しかし、どんな展開になるのかはまだ未定である。
「ったく!」
武司は身支度を整えると廊下を歩き階段を降り一階にやってきた。そこでは宿泊客がテーブルを囲み朝食をとっていた。良い臭いがする。料理の臭気だ。宿屋の客はわいわい楽しそうにやっている。
「武司! こっちこっち!」
ルーノの声に促されてサリナの正面の椅子に腰掛けた。すると給仕のおじさんが朝食を運んで来てくれた。バターがほんのり溶けて乗ったトーストとハムエッグとオニオンスープと牛乳だった。武司はトーストの端をかじりながら
「今日はなにするんだっけ?」
うっかり忘れてしまったようだ。昨日あんなに話し合ったのに。武司は次いでスープのコップの取っ手を握り啜る。濃厚な味わいだった。美味いと断言出来る味わいだ。