44話
武司は興奮し鼻息が荒い。武司も美女に口を寄せる。二つの唇の距離が縮まっていく。武司は内心ラッキーと叫んでいた。ドクンドクンと武司の心拍数が速まっていく。こんなおいしいシュチエーションが回ってくるなんて主人公最高! と武司は主役であることを賞賛した。とそこで「ククク」と忍び笑いが聞こえたかと思うと歌姫の右手にナイフが現れた。現牙だろう。そのナイフは毒が塗られているのか微かに湿っている。歌姫はそのナイフで武司の背中を貫い……。
『させませんよ! 主役殺されちゃたまりませんし!』
歌姫の握るナイフは武司に触れる前に溶解した。歌姫の表情に動揺が現れた。舌打ちした歌姫は先程までの明るい雰囲気から打って変わってダークな目つきをしている。まるで別人のようだ。歌姫は所々汚れたワンピースをはためかしながら武司達から距離をとった。歌姫は武司を睨み殺そうとする勢いで睥睨した。
「ク、クソ!」
と歌姫の声は男のダミ声に変わった。しかも口は微動だにしていない。彼女の金髪を風が揺らし右目を髪が隠した。欝陶しいのか髪を掻き上げる歌姫。その場には静謐な雰囲気が流れた。武司達は歌姫の変貌に驚愕し言葉も出ない様子だ。