37話
「私なんか、禿にキスされたのよ!」
ルーノは怒り心頭の様子でご立腹だ。彼女の表情の険しさと怒気を孕んだ声音が心情を吐露している。
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月日は流れた。東から太陽が地上を照らしている。日光はほのかに温かい。今は午前中。大国ノースを南に進む武司達一行。辺りは平地が続いている。傾斜も障害物も無いため歩きやすい。
「歌姫って美人かな?」
武司は弾んだ声で疑問をていした。彼の顔色は明るく期待に満ちた顔付きをしている。オークション会場での悲劇はなりを潜めているようだ。武司はその悲惨な出来事以来心牙の鍛練に余念がなかった。自分の実力の無さを嘆いた結果そうなったのだろう。
『噂では百年に一人の逸材らしいですよ』
タケノコは百年に一人の部分を強調した。
「そうか、俺惚れられたらどうしようかな……」
「あんたなんかが好かれる訳無いでしょう!」ときつい口調でルーノ。
今は涼しい季節。清涼感溢れる風が武司達を吹き抜けていった。とそこで「ボン」と音がして白い煙りが辺りに立ち込めた。それが晴れるとタキシードにシルクハットを被った男が現れた。その男は四十代ぐらいで立派な長い髭を蓄え
「ケホケホ! 煙玉は強力すぎましたん」