36話
「フフフ!」とカナタは口元だけで微笑した。
ルーノの攻撃は全てかわされた。カナタの無牙の方が上手だったのだ。カナタは「チュッ」とルーノの頬に唇を付けキスをすると体を翻し階段を駆け上がっていく。
「こら! 変態ハゲ!」
ルーノはそう言いながら刀を鞘に収めると水の入った革の袋から水を掬うとカナタに向け投げた。それに一瞥して気付いたカナタは
「うん!? 危な!」
カナタは前転で水を避けた。するとその水は石の床にぶつかると固まり氷になった。変牙で変化させたのだろう。
†
ズバッと最後の一人の青い髪の盗賊をサリナがバルハートで切り倒した。
『被害は甚大ですね』
タケノコの言う通り護衛は二十人が死傷し客は八十人ちかく殺された。武司達と護衛達は亡きがらを外へと運んだ。
「くそ! 俺が居たってのにこの様とわ!」
武司は憤りじだんだを踏んだ。顔は悲痛な表情をしている。自分を深く責めているのだろう。武司の頬にはかすり傷があった。ルッパの攻撃で負傷したのだ。他の護衛達は怪我の手当に包帯を巻かれたり止血されている。
「あはん、武司、相手が悪かったのよ。向こうには心牙に精通した人が何人もいたし……」
「……そうだな、ルッパは強かった」