『ギフト』の賢い使い方 〜婚約解消されたので、呪いもお返ししますね〜
今日も学園の中庭で、堂々といちゃつくバカップルが一組。
男子生徒はこの国の王子で、私シェシェリア・ラテルディの婚約者であるレオナルド王子。
女子生徒の方は男爵令嬢のレーナ様。
私はため息を一つついて、まわれ右をした。
今さら殿下たちに忠告する言葉などない。
「シェシェリア様だわ。今日もひどいお顔」
「公爵令嬢なのにあれではね。レオナルド様がお可哀想」
後ろから、他の生徒たちのひそひそ声が聞こえる。
これももういつものこと。
確かに私の容姿は、とてもではないが美しいと言えたものではない。
吹き出物がたくさんの顔、パサパサの髪。
どれだけ手入れしようとも、それは変わらない。
対して、レオナルド王子は輝く金色の髪に深い青の瞳、優美さを感じさせる整った顔立ち。
王子という肩書を抜いても、彼に微笑みかけられたら大抵の女生徒は頬を赤らめるだろう。
そして殿下の浮気相手であるレーナ様は、やわらかなピンクの髪もあいまって、ふわふわとした砂糖菓子のような子だ。
2人が並ぶとお似合いだと、他生徒たちが無責任に囁くのも、ある意味仕方のないことではあった。
陰口から離れ、数少ない憩いの場所である図書室で本を広げる。
いつもの場所に座って本を見ていると、近くの席に座るものがいた。
「やあ、シェシェリア嬢」
「こんにちは、ヴァルター様」
ヴァルター様は辺境の地を治めるゴドラート伯爵家の嫡子だ。
かの地は魔石の鉱山があり、産業はほぼそれに頼っている。
魔石は魔導具の動力として必要不可欠なものではあるが、それが産出される地域は瘴気の濃度も高く、土壌が汚染されているため農作物がほとんど育たない。
ヴァルター様はその改善策を求めて、熱心に勉強されていた。
私は主に薬草を中心とした植物を調べているので、彼とそのことで語り合ったことがあり、それをきっかけにこうして言葉を交わすようになった。
とはいえお互い節度を保ち、図書室で顔を合わせたときに話すにとどめている。
ヴァルター様と話す時間もまた、私にとっては癒しだった。
彼は私の容姿を全く気にすることなく、研究仲間として接してくる。
華やかなことしか頭にない殿下より、彼と話しているほうがよほど楽しかった。
「先日取り寄せた種はダメだったよ。発芽すらしなかった」
「まぁ、それは残念でしたね。南の土地のものでしたっけ?」
「そうなんだ。気候が全く違うから、期待はあまりしていなかったが」
彼は王都にいる利を活用して、様々な種や苗を手に入れては領地に送り、栽培を試みていた。
私たちが語り合っていると、余計な声が割り込んできた。
「そんな無駄な事を研究するより、魔石を少しでも高く売る事を学んだほうがいいんじゃないのかい」
蔑みを隠そうともしない生徒。
殿下の側近の一人である、ライリー様。
「使えないギフト持ちは苦労が多いな」
「ライリー様、言葉が過ぎますわよ」
たしなめると、彼は肩をすくめた。
「シェシェリア様も、よくわからないギフトでは、殿下の隣は難しくなりますよ。なにせ、レーナ嬢のギフトは『癒し』。まるで聖女様のようではありませんか」
得意げな顔でレーナ様を褒め称える。
くだらない話にこれ以上付き合う気もないので私は席をたった。
「ご心配には及びませんわ。ギフトの上に胡座をかいているだけでは、何も成せませんもの」
ヴァルター様も立ち上がる。
「違いない。俺のギフトは時代遅れだと言う者もいるが、ギフトさえ良ければ領地経営がうまくいくわけでもあるまい」
言い返されたライリー様は口元を歪めた。
確か彼のギフトは『剣』だったかしら。
将来は騎士団長と期待されており、彼自身も騎士科では優秀な方らしいが、あくまでも「方」だ。
剣聖などと称賛を受けるほどのずば抜けたものではないらしい。
貴族のほとんどは、生まれながらに『ギフト』と呼ばれる神からの贈り物を持っている。
ギフト目的による赤子の誘拐や売買を防ぐため、ギフトの判明式は5歳になるまで受けることはできない。
そして、ギフトの名前はそこで判明するが、その能力や使い方までははっきりとは分からないのだ。
私のギフトは『解離』。
引き離す、とはいえどこでなにに?といった、使い所がよくわからない系統に含まれるだろう。
ライリー様から侮辱されたヴァルター様のギフトは『封印』。
これもまた、将来の領主としてはあまり役に立ちそうにないギフトだ。
ちなみに、レオナルド様のギフトは『成長』。
王家としてはとても縁起のいいギフトだろう。
そしてレーナ様のギフトは『癒し』なのだそうだ、
成長と癒し、その組み合わせもまたふさわしいと、周りがあの2人を応援する理由の一つだった。
レオナルド様は学園を卒業後、正式に王太子となる予定で、私も王妃教育を受けてきた。
凛々しい美丈夫へと成長した殿下の隣に、私がふさわしくないのではと陰口を囁くものは城にもいる。
そのような悪意のなかでも私が立っていられるのは、家族が私を愛してくれているからにほかならない。
自宅に戻ると、お父様に書斎まで来るように呼ばれた。
「最近の殿下の様子はどうだ?」
「かわりませんわ。男爵令嬢に夢中になっていらっしゃいますわ」
「全く…どこまで我が公爵家を馬鹿にする気なのか」
お父様は苦々しく吐き捨てた。
私と殿下との婚約は、もともと王家からの強い要請によるもの。
我が家にとってはさしたる利益もないというのに。
あのお花畑の王子様は、この婚約の意味も忘れてしまったらしい。
その後入浴をして、侍女たちに丁寧に肌の手入れをされる。
私の肌のために特別に調合した化粧水やクリームたち。
私が薬草の研究を始めたのも、少しでも身体の状態を良くできないかと思ってのこと。
それだけ手をかけても、鏡の中の私は美しいとは到底言い難い姿をしている。
婚約をした頃は優しかったレオナルド様も、歳を重ねるにつれ私の容姿に明らかに嫌悪感を示すようになった。
あの方は、美しいもの、華やかなものを好む。
私とて、好きでこのような姿をしているわけではないというのに。
「シェシェリア、君はもう少し身だしなみに気を使うことはできないのか?私の隣に立つのなら、それにふさわしい姿でいてもらわなければ困る」
久しぶりにレオナルド様の方から声をかけてきたと思ったらこれだ。
その隣には、レーナ様がピッタリとくっついている。
「レオナルド様が素敵すぎるんですよ!」
甘ったるい声でさらに寄り添う。
「君くらい可憐ならどこに立っても恥ずかしくないだろう」
こちらも甘ったるい声で、レオナルド様はレーナ様にだらしのない笑顔を向けた。
ライリー様を含む、将来の側近候補である者たちも、にこやかに2人を見守っている。
バカバカしいことこの上ない。
「殿下がお望みのような花には、私はなれませんわ。それは殿下がよくご存じでしょうに」
真顔でじっとレオナルド様の目を見つめる。
「そ、それは…」
たじろぐレオナルド様に、レーナ様が不思議そうな顔をする。
「どういう意味なんですかぁ?」
「もういい。向こうへ行こう」
レオナルド様はレーナ様の肩を抱いて、私の横を通り過ぎた。
側近候補たちも、ちらりと侮蔑の視線をよこしてからその後に続く。
私はこんな人たちと、この国を支えていかなければならないのかしらと思うと、本当に気が重い。
私とレオナルド様との溝は埋まらず、それどころか卒業後のバーティーで婚約破棄をするらしいとの噂も流れてきた。
王家からのドレスの話も来ないので、その時点でお察しではあったのだが。
「シェシェリア・ラテルディ公爵令嬢!私は君との婚約をここに解消する!私の隣には、『癒し』のギフトを持ち、美しく可憐な彼女こそふさわしい」
パーティーが始まってファーストダンスの直前、会場の中央でレオナルド様は私に向かって解消を告げた。
その横には、レオナルド様の瞳の色である青色のドレスをまとったレーナ様が寄り添うように立っていた。
「このことは国王陛下はご存知なのですか?」
「父上もレーナ嬢がふさわしいとわかってくださるはずだ!」
我が家になんの相談もなく一方的な通告。
おそらくまともな根回しなどしていないのだろう。
この場で宣言することで、押し切ろうという魂胆なのだろう。
杜撰な計画には呆れるが、婚約の解消は願ってもないこと。
「婚約の解消、了承いたしました。解消に伴い、私が請け負っていた全てのものを、殿下にお返しいたしますね」
殿下は拍子抜けした顔をしていた。
私があっさりと婚約解消を受け入れたのが意外だったらしい。
すがりつくとでも思っていたのかしら。
カーテシーをしてレオナルド様たちの前から去る。
廊下を歩いていると、後ろから追ってくる足音がした。
「シェシェリア嬢!」
振り返るとヴァルター様が早足で駆け寄り、私の前で立ち止まった。
「あのような無礼を受けたあとで卑怯かもしれないが、俺は貴女に求婚したい」
なんの駆け引きもない真っ直ぐな言葉。
「迷惑だろうか?」
いつも凛々しい眉が、しゅんと下がっている。
少しおかしくなって、微笑んでいた。
「家に戻り父と相談しなければなりませんが、嬉しいですわ」
「明日一番に、公爵邸に訪問させてもらうよ」
果たして翌日、父が登城する前に彼は公爵邸にやってきた。
「シェシェリア嬢に求婚の許可をいただきに参りました。ご存知の通り我が領は決して豊かとは言えない土地ですが、彼女を大切にいたします」
父は私を見た。
「お前はそれでいいのか」
「はい。ヴァルター様は、ずっと変わらず誠実に接してくださいました」
「ヴァルター殿のお父上の了承は大丈夫なのか?」
「はい、良いと思う相手がいれば素早く動け、と言われておりましたから」
その返事を受け、父は頷いた。
「そうか。しばらく家でゆっくりしておればいいと思っていたのだがな。しっかりと婚約は解消してこよう」
少し寂しげに微笑んで私を見つめたあと、公爵家当主の顔になってお父様は城に向かわれた。
国王は渋い顔をしていたが、あれだけの人の前で宣言した以上、なかったことにはできず、無事婚約は解消となった。
そしてすぐに私とヴァルター様の婚約が結ばれた。
「聡明な貴女に惹かれていたが、叶わぬ想いだと胸に秘めてきた。それが叶うとは」
ヴァルター様はその緑の目に甘やかな熱をこめて、私に想いを伝えてくれた。
それは、レオナルド様たちに傷つけられ、乾いていた私の心を、ゆっくりと潤していくようだった。
それから日をおかず、私たちはヴァルター様の領地に向かうことにした。
以前から試してみたい事があったのだが、立場上難しいので口にできなかったことだ。
しかし婚約したことで、堂々と彼の地に向かうことができる。
馬車で数日かけて、ゴドラート領に到着した。
話に聞いていたとおり、土地は荒れ気味で緑はあまり多くない。
畑もあるが作物は見るからに貧弱だ。
伯爵家は要塞のような無骨な造りだった。
私は荷物を降ろすのももどかしく、屋敷の庭に出た。
ここも木などは植えてはあるが、華やかな花の姿はない。
「花らしい花はほとんど咲かないんだ」
一緒に庭を見渡しながら、ヴァルター様が説明する。
私はしゃがんで、木の根元の土を見た。
どことなく黒ずんだ土。
私はそのうちに向かって手をかざした。
土に交じる瘴気の感覚を探す。
指先に、なんとなく嫌な感触を感じて、さらに集中する。
嫌な気配を集めるように、引き剥がすように。
ぼんやりと、黒い空気が手の前に塊となって出てきた。
「できたわ!」
気を抜くと、その塊はまた土の中に消えた。
「信じられん…」
ヴァルター様は呆然と呟いた。
試してみたかったこととはこれだ。
私のギフトである『解離』で、土から瘴気を抜く。
問題は、抜くのはできるが、離すだけしかできないのだ。
抜いた瘴気の処理が問題だ。
「もう一度やってみます。次はヴァルター様もお願いします」
「ああ、これで対応できたらいいんだが」
ヴァルター様は手に、握り拳くらいの大きさの石を持った。これは、屑魔石なのだそう。
私は再び土に手を向け、瘴気の感覚を探る。
捉えた瘴気の気配を土から引き剥がす。
また黒い靄が見えてきた。
「ヴァルター様、お願いします!」
私のその声を合図に、ヴァルター様は石を靄に触れるぐらいまで差し出して、「中に入れ!」と声を上げた。
スゥッと靄は石に吸い込まれた。
ヴァルター様のギフト『封印』で、引き剥がした瘴気を屑魔石に封じたのだ。
わぁ!と歓声が上がった。
いつの間にか使用人や騎士たちが周りに集まっており、私とヴァルター様の実験を見守っていたのだ。
土は、明らかに色が変わっていた。
サラッとした明るい茶色に。
これで瘴気が完全に抜けたのか、植物が育つのかはまだわからない。
それでも希望が生まれたのだ。
私たちは畑の持ち主の許可を得て、いくつかの畑を浄化して回った。
一週間ほどして、芽が出たと報告が来た。
それも、いつもなら半分以下の出芽が、ほぼ全部出てきたという。
その喜ぶ顔に、私たちは精力的に畑を浄化して回り、根を詰めすぎてフラフラになり従者に怒られたりした。
変化は私の身体にも現れた。
あれだけあった吹き出物がなくなり肌はすべすべに、髪の毛は艶を取り戻して輝いた。
ああ、私は本当はこんな顔だったのね。
「日に日に君は美しくなっていく。一体何の魔法なんだい」
あまりの変わり様に、ヴァルター様も呆気にとられていた。
私はずっと隠されていたことをヴァルター様に告げた。
「実は今まで、レオナルド様が受けた呪いを、私が肩代わりしていたのです」
幼い頃、レオナルドは呪いを受けた。
首謀者である側妃は、露呈するとすぐに自決してしまい、実行犯も解呪の方法も分からなくなった。
呪いは姿を醜く変え、生命力を奪っていくものだった。
その時王家は、シェシェリアのギフト『解離』に目をつけ一縷の望みをかけた。
そして狙い通り呪いはレオナルドの身体から離れたが、消えたわけではない。シェシェリアがそれを引き受ける形となった。
そこで王家はシェシェリアを婚約者として繋ぎ止め、時間稼ぎをしている間に解呪の方法を探そうとした。
だが見つからぬまま、今まで来たというわけだ。
「なんてことだ…。そんな理不尽な役目を、あなたは背負わされていたのか」
説明を聞き終えたヴァルター様は、憤懣やる方ないといった様子で呟いた。
「それで、その呪いは今」
「ええ、婚約解消と共に、レオナルド様へ戻りました。おかげで私は、本来の身体を取り戻せたのです」
レオナルド様は呪いの事をわかっていて、婚約してしばらくは優しかった。
しかし成長するにつれ、呪いはもう弱体化し克服したようなものと勘違いしたのだろうか。
私の身体がこれだけ楽になったのだから、呪いは今も有効で、そしてレオナルド様に戻ったのだろう。
それがどんな結果をもたらしたのか、1か月後に目にすることとなる。
王城でのパーティー、それはレオナルド様の卒業と立太子を祝う予定のものだった。
しかし、立太子の発表はされていなかった。
私は新たな婚約者となったヴァルター様と共に、会場に足を踏み入れた。
人々は、私が誰か分からず、シェシェリア・ラテルディだと知ると、ただただ信じられないといった顔で見つめてきた。
公爵邸に戻ったときは、私の姿に家族だけでなく使用人たちも喜びに咽び泣いた。
ずっと私の手入れをしてきてくれた侍女たちは、それはもう張り切って支度をしてくれた。
老婆のようだった髪は艶を取り戻して淡い金に輝き、ヴァルター様の瞳の色である緑のドレスがよく映えた。
私の姿を見たヴァルター様は、「春の女神のようだ」と感嘆の声をもらし、そうでしょうと得意げにうなずく侍女たちに囲まれて、私は柄にもなく照れてしまった。
私たちが注目を集める中、レオナルド様とレーナ様の入場を告げる声が響き渡った。
2人が入場したとたん、私の時とは逆の意味で、会場中の人々が驚愕した。
レオナルド様の端正なお顔は、大きな吹き出物で埋まり、豊かな金の髪は輝きを失い、背中は丸めて歩くのも辛そうに一歩一歩進んでいた。
一方のレーナ様も、化粧でも隠しきれない隈がくっきりと浮かび、疲れ切った表情でレオナルド様の横に立っていた。
皆が祝福した美しいカップルの姿はそこになかった。
レオナルド様は目をギョロギョロとさせて辺りを見渡し、私に目を止めて食い入るように見た。
「シェシェリア、なのか…?」
私が返事をするより先に、レオナルド様が飛びかからんばかりの勢いで向かってきた。
すかさずヴァルター様が前に出てそれを遮ってくれる。
慌てて追いかけてきた側近たちに抑えられながら、レオナルド様は叫んだ。
「何をしたんだシェシェリア!」
「何もしておりませんわ。ただ、私が身代わりに引き受けていた殿下の呪いが、婚約の解消に伴い殿下のもとに返っただけですわ」
私の言葉に周りがざわめく。
呪いのことは、契約により王家と公爵家の間だけの秘密とされてきた。
だがそれも、婚約の解消で消えた。
「助けてくれ…シェシェリア、苦しいんだ」
むくんだ指先が私に差し伸べられる。
しかし私は首を横に振った。
「無理ですわ。私は殿下の代わりに呪いを受け、何年も耐えてまいりました。それを解消する選択をしたのは、殿下ご自身です」
私の言葉に、側近たちは目をそらした。
私の犠牲を知らず、見下してきた彼ら。
彼らもまた、レオナルド様の選択を支持し勧めてきた責任があるのだから。
「うっ!痛い!レーナ!レーナ!」
呪いで苦しみ始めたレオナルド様に、慌ててレーナ様が癒しの魔法をかける。
レオナルド様はろくな挨拶もできず、早々に会場を後にした。
あとから聞いたところによると、私の身体から返された呪いは、皮肉にもレオナルド様のギフト『成長』によって、強まってしまったらしい。
レーナ様のギフトは『癒し』。苦しみを和らげる対処療法でしかない。
浄化や解呪であればあるいは、呪いを解くことができたかもしれないが、そのギフトを持つものは現在見つかっていない。
呪いを、一人の少女を犠牲に身代わりにしていたことも知られ、王家はもう私に強制することはできなくなった。
レオナルド様は離宮に移り、また側近候補だった取り巻きたちも、その責を問われ離宮に追いやられた。
レオナルド様は昼夜を問わず呪いに苦しみ、レーナ様はその度に『癒し』で苦しみを和らげる日々なのだという。
当然まともに執務をこなせるはずもなく、立太子の話もなくなった。
弟君の卒業を待って、そちらが王太子になるのだろうと言われている。
私はその後も、ヴァルター様と領地の浄化に力を注いでいる。
作物は他領と変わらないほど実るようになり、そのおかげで領民も増え始め、領地には笑顔が増えた。
浄化された状態が永遠に続くのかは分からないし、私とヴァルター様がいなくなっても大丈夫なよう、研究も続けている。
ヴァルター様は未だに私のことを春の女神と呼ぶ。
「俺の愛しい春の女神。君こそが、俺にとって最高のギフトだよ」
彼がこんなに甘い言葉を、惜しみなく注いでくる人だったのは想定外だったけど。
ギフトの力を借りながら、今日も私たちは幸せに暮らしている。




