1 プロローグ
「アナスタシア・アノスタコビッチ伯爵令嬢。君との婚約を破棄する。」
辺境伯は広間にいた全員の前でそう宣言した。
アナスタシアは満足してにっこりと笑った。
めでたし、めでたし。
* * *
ロープウエイで眼下に広がる夕景を眺めながら、わたしは隣にいる麻耶と英人くんを目の端にとらえていた。
わたしの名前は柏木杏奈。16歳。高校1年生。
勇魚麻耶はわたしの幼い頃からの友人で、刈穂英人くんも同じクラスの同級生。
3人でデートを楽しんだラストの、ロープウエイでの夕景。
オレンジ色の残る西の空に、紫色の雲。
瞬き始めた街の灯り。
そんな風景を楽しんでいたときだったのだ。突然ゴンドラが大きく揺れたのは——。
ゴンドラの全面ガラスの向こうの景色がぐるりと回り、夜の闇に侵食され始めた空に変わる。
体が宙に浮いた。
誰かの小さな悲鳴が聞こえ、ガラスの向こうに空の闇から蛇のようにうねって襲いかかってくる切れたワイヤーが見えた。
わたしの記憶はそこで途切れている。
小鳥の声が聞こえて目を開けると、わたしはふかふかのベッドの上で寝ていた。
ここ、どこ?
わたし‥‥、そういえば、ゴンドラが‥‥
病院?
しかし、体のどこも痛くはない。
見上げる天井は病院のそれではなく、なんか中世の建物みたいなゴテゴテした装飾が‥‥。
「お目覚めですか。お嬢様。」
すぐ傍で聞こえた声に驚いて、思わずガバッと体を起こす。
「どうかなさいましたか、お嬢様?」
お嬢様?
誰のこと?
いや、いったい何が起こった‥‥?
ベッド脇に侍従っぽい服を着た黒髪の少女が謹直な表情で立っている。
誰、これ?
頭がはっきりしてくるにつれ、わたしの知らないわたしの記憶が頭の中に甦ってきた。
ここは、アノスタコビッチ伯爵家の屋敷。
わたしは伯爵家の3番目の令嬢で、名前はアナスタシア・アノスタコビッチ。13歳。
タコ? ビッチ?
なんという名前‥‥。
いや、この国では別の意味がちゃんとあるんだろう。響きだけで日本語に直訳しちゃいかんな。
これって、つまり‥‥‥
これが‥‥転生ってやつ?
なろうとマンガでしか読んだことなかったけど、それが本当に起きたわけ?
よりによって我が身に?
それは、つまり‥‥
わたし、一回死んだ——ってこと?
初めて挑戦する『異世界転生&婚約破棄もの』です。。(・_・)
ナーロッパのこともな〜んにも知らずに、無謀にもチャレンジします。
生温か〜く見守ってやってください。m(_ _;)m




