体育祭での受難2
体育祭は順調に進み、ついに次は騎馬戦。
出場者は定位置に集まれとアナウンスがあり、ぞろぞろと生徒たちが入場口付近に集まっていく。
この競技では、性別も学年も一切不問。全員が一緒に戦うことになる。
一番早くフィールドに出て来たのは、コスプレした女子たちだった。
騎手と合わせて、馬になる女子たちも簡単なコスプレをしている。
女子の集団の端っこに井上先輩がいる。
言っていた通りにセーラー服姿だ。
かわいい。
けど、何となくエロい?
里見先輩はギリシャ風の白いドレープのある布を着ている。
あれは、服か?
布を羽織っているだけのような心許なさがある。下に何か着ているのだろうか。
でなければ、あっちこっち見え放題な気が!
コスプレ女子たちに目を奪われている俺を乗せて、馬はゆっくりフィールドに出ていく。
先程の忠告に従い、男の騎馬の密集している中に潜り込む。馬の皆さんにも、そこの所を注意しておいた。
全体を見回すと、男子の集団がいくつかと、女子の集団がいくつかできている。
一年生で、クラブの先輩の横にくっついている者たち以外は、女子の騎馬の周りをうろうろしていたりする。ご愁傷様。
俺のクラスも女子が一騎出ている。
先日教室で、おかっぱ頭の活発そうな女子が、弓道部の道着と袴、胸宛てを借りて試着してるのを見た。
その騎馬は女子の集団の方へゆっくり向かっている。
騎手は背中がピッとしていて、道着姿が決まっている。
ただ埃っぽいだけではない騎馬戦、良いなと改めて思う。
「これ、いいね。観客席で、じっくり見たかった。なるべく遠くにいて、観戦できないかな」
俺は先頭の馬に愚痴った。
「それは、無理でしょ。田中君」
「なんで?」
「生徒会役員は、大将首扱いで一斉に狙われるから。首に掛けたタグの色が他の選手と違うでしょ」
「へ? 大将首? ……俺のタグは金色だよな。他は、そう言えば銀色か」
「とにかく、頑張ろう。ところで、逃げる? 戦う?」
そうか、馬君たちとの作戦会議が必要そうだ。
「逃げる。ただし、できるだけ男子の集団の中で。女子に囲まれると恐ろしい目にあうそうだから」
「うーん、リクエスト通りにはいかないかも。先に謝っておくね」
こういう、心もとない作戦会議が終わった頃、「用意して」というアナウンスが流れた。
とりあえず、俺たちは男子の密集するエリアの中心に位置取っている。
開戦の合図として、法螺貝の音らしきものが鳴り響くと、周囲はザっと動き出した。
「逃げろ」
俺は叫んだ。周囲の四騎がこっちに向かって来る。
先頭の馬君は、機敏に空いている場所に向かった。
ほっとして前方を見ると、女子の群れがこっちに向かってくるのが見えた。
……俺が馬鹿だった。
コスプレ騎馬戦が華やかでうれしい⁉
コスプレでハイになっている女子たちは、その興奮状態のまま突撃して来る。目がいってる。
ヒャッハー! って感じ?
その先頭群の一騎が小山さんだ。
「おい、怖いから男の方へ逃げてくれ」
「男子の騎馬とぶつかるよ。いいね」
もう、戦うしかない。俺は覚悟を決めた。
追いかけて来る男子の騎手に向き合い、バスケでやっている要領で、相手の伸ばした腕の下をくぐって、胸に頭から突っ込んで行く。
タグを握って引きちぎる。紐は紙製で、力を入れて引けば、ちぎれる仕様だ。
「やった。一騎討ち捕った」
馬の皆さんが喜んでくれる。ちょっと、やりがいを感じてきたかも。
調子に乗って、俺は続けざまに二騎を討ち捕った。
「おい、田中君。後ろ、女子が来てる」
グルンと首を回すと、男子の群れの中に、女子の騎馬たちが突っ込んできている。怖いもの知らずだ。
「群れの外に逃げよう」
馬が方向転換するうちに、小山さんが来た。目がいっているの最大級。
怖い。
フリフリピンクのお姫様ドレスとかわいいお顔が、興奮しきった表情とミスマッチで、ホラー感すらある。
「田中君、ハチマキ取って」
そうなんだけど、近付くのが嫌だ。
本能が、あれから逃げろと叫ぶ。
キャー。助けて~!
そう思ったら、ヒーローが駆け付けた。
「ヒロシ。助けに来たよ。後ろに下がって」
「小山、あんたしつこいよ。いい加減にしないと、おしおきよ」
ヒーローではなく、ヒロインたちだった。狩猟の女神アルテミス様と、色っぽいセーラー戦士だ。
「うわっ。美女きた。美女バトル?」
馬君たちが喜んでいる。
何騎か男が寄って来たが、そいつらの横を凄い速さで駆け抜けた馬が、タグを一気に引きちぎって行った。
身のこなしが軽やかでシャープだ。
「あれ、うちのクラスの女子だよな」
「うん、そうだね。なんか素早かったね。足の速い女子で騎馬を組むって言ってたけど、それにしてもなあ。もしかして俺らって助けられた?」
そこは分からないけど助かった。
目の前の美女三騎はにらみ合ったまま膠着状態だ。
「お二人共、ちょっと過保護じゃないの。お姫様に守られる王子様みたいね」
「悪い? まだ子供なのよ。保護は必要よ」
子供!
『まら、ころもらから、できれないの』(訳:まだこどもだからできないの)
舌の回らない時期に、俺が言っていたそうだ。
母から聞いた言葉が、頭の中をぐるっと回った。
「先輩、大丈夫です。俺、自分で何とかします!」
思わず大声で言っていた。
「ヒロシ、親離れするのね」
井上先輩が茶化しながらも、頑張れ、と言って背中を撫でてくれた。
美女に接近された馬君たちは、凄く嬉しそうだ。
「馬の皆さん、ヒロシをよろしくね」
里見先輩がそう声を掛け、二人は去って行った。
そして少し離れた辺りで向かい合い、がっと腕を掴み合った。二人とも運動神経が良いから、体の動きが速い。
引っ張り合い、体を沈めて、相手の懐に入り込もうとする。
凄く見ごたえのあるバトルだ。それに合わせて、前後左右に動き、時にぶつかり合う馬の皆さんの苦労が偲ばれる。
ちなみに里見先輩の布の衣装は、同じ布のレオタードとスパッツのようなものがセットで、それを下に着ている。だからどれだけはだけても問題は無い。
でも目の毒だった。
井上先輩のセーラー服は、ボン、キュ、ボンで、真ん中空いていて、スカート短め。正直言うと、エロい。
良くこんなコスプレを認めたものだ。
そう言えば、コスプレに関して、事前審査は無かったな。やったもん勝ちか?
他に変わった服装は看護師、魔女、囚人、アニメのコスプレなど。ハロウィンでコスプレするからか、コミケ慣れしているのか、結構本格的だった。
ハロウィンって、俺は仮装して出掛けた事が無いけど、こんなのを見ていたら、何かやってみたい気分になってきた。
俺はそんなことを考えながら、現在もみくちゃにされている。
先輩たちのバトルに気を取られていたら、いつの間にか女子に取り囲まれていたのだ。
馬君たちと共に、女子の集団に襲い掛かられ、引き倒され、散々転がされた。
すでにタグは誰かに引きちぎられている。それでも攻撃が止まない。
その中には、ピンクのフリフリドレスも混じっていた。
怖い。神様助けて!
大人数でのしかかってきて、タグを探して、俺の体を触りまくっている。
女子って凶暴だ。
観念してされるがままで居たら、笛がピーっと鳴った。それから襟首を掴んで引っこ抜かれた。
体育委員会の役員が、ストップをかけてくれたようだ。審判役が複数フィールドに散っていたが、あれはジャッジと共に、救助役だったようだ。
「ありがとう」
俺と馬君たちは、ぐったりとして礼を言った。
馬君たちは伸しかかられ、踏まれて、こっちも大変だったようだ。体操着にシューズの靴底の跡がいくつも付いている。
来年は絶対にこの競技に出ない。
俺は心に誓った。




