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表の生徒会長に就任しました――俺、立候補してないのに  作者:


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肉食系、腹黒女子って実在するのな

「まずは髪型ね。それから眉カット、私に任せて」


 里見先輩はモデルのバイトをしていて、ヘアスタイリストさんからカットテクニックを教わったそうだ。

 高校に入って、何かが吹っ切れたのか、先輩は美貌を隠すのをやめた。逆にそれを生かしてモデルのバイトを始めたのだ。


 美しさに磨きがかかり、完全な高値の花になった先輩に、一般の男子は声を掛けられない。

 今はたまに男性モデルから誘われるくらいで、人数が少ないから楽だそうだ。

 里見先輩は男除け大成功と自慢している。

 モデルのバイトってどんなだろうと、ぼんやりしていたら、とんでもないセリフが聞こえて来た。


「カットの腕を試したくて仕方がなかったの。自分の髪は無理だし、ヒロシが栄えあるお客様第一号よ」


 とてもうれしそうだ。

 え、俺、生贄なの?


 目を輝かせる先輩を見ながら、俺は悲惨な結果を覚悟して目を瞑った。

 ところが意外なことに里見先輩のカットの腕はまともだった。

 仕上がったヘアスタイルは、いつもと比べてずっとお洒落。


 次に眉をすっきりと整えると、一気にあか抜けた。濃い顔が濃い目のイケてる顔に変わったような気がする。


「ほら、いいじゃない。いけてるよ。じゃあ次はピアス穴ね」


 そう言うなり耳に氷を当てられ、ヒャッと叫んだ後、ギャッと叫ぶことになった。

 そんな調子で、俺の高校デビュー準備はさくさくと進んだ。

 ワイシャツの着崩し方やら、ネクタイの各種結び方、ジャケットを体になじませる方法なんかの実習込みだ。

 その日は心身ともに疲れ果てた。


 でもおかげで、女子との縁を期待できるかもと思える程度に、俺は一皮剥けていた。

 その浮き浮き感のせいか、一か月で、俺の身長は二センチも伸びたのだ。

 これからは、こんな俺にも楽しい高校生活が待っているのかもしれない。



 パタッと靴の音が俺の横で止まった。

 壇上から降りた緒方先輩が俺の横に立ち、肩に軽く手を置いた。

 その瞬間に、ぼんやりと追憶に浸る幸せ時間に、ピリオドが打たれた。


「クラスのオリエンテーションが終わったら、真直ぐ生徒会室に来いよ。待っているからな」


 そっと首を回すと、こちらを興味津々で注視する目が、サッと逸らされていく。

 生徒や親たちもだが、先生たちまで、身を乗り出してこっちを見ていた。


 やっぱり、ここでも捕まるか。

 彼女と一緒に下校する楽しい高校生活が、遠のきそうな予感。


「あんたがあんなしっかりした人たちと仲が良いなんて知らなかった」


 俺の苦悩を知らない母は、驚きながらも喜んで帰って行った。


 案の定、クラスでも中学と同じように、なんとなく距離を置かれる状態になってしまった。

 既に同じ中学から来た奴らが、ある事無い事言いふらしているようだ。校門の所と入学式であれだけ目立ってしまえば、それも仕方が無い。


 俺は教室を見回してから心の中で強がりを言ってみた。

「別にいいさ。クラスには好みの女子がいないからな」


 オリエンテーション後、俺はとぼとぼと中庭を突っ切って、生徒会室に向かった。

 生徒会室は、中庭を挟んだ別棟にあるのだ。

 斜め下を向いて歩く俺の足元に、球根が転がって来た。周囲を見回すと、女子生徒が一人、花壇の前でせっせと作業をしている。


「球根が転がっていますよ」


 球根を拾い上げ、しゃがんでいる女子に差し出した。

 クルッと振り返った顔の、大きく瞠った目と、頬に跳ねた泥に目を奪われる。


 その瞬間、俺の心臓がドクンと大きく跳ねた。美人なのに飾らないその無造作さに、心臓をわしづかみされた気分。


「ありがとう。新入生かしら」

「はい。一年C組です」

「私、園芸部の部員なんだ。興味があったら、部活の見学に来てね」

「はい。入部します」

「え、本当? 一度見に来た方がいいよ。それから体験入部の流れね」

「はい。そうします」

 俺は元気よく答えた。


 生徒会室のドアの前まで、ふわふわした気分で歩き、ドアの前で一旦息を整えてからドアをノックした。


「いらっしゃい。なんだか浮かれているわね。いいことでもあった?」


 隠したつもりだったのに、里見先輩にズバッと言われてしまった。


 それで先程会った先輩のことと、園芸部に入部するつもりだということを話した。すると、一気に里見先輩の雰囲気が変わった。


「ヒロシ、あんたいきなりアレに捕まるなんて」


 なぜか、凄く嫌そうな表情で、そう言われた。


「えっと。なんですか?」


 はあーっと溜息を洩らし、里見先輩が俺の袖を引っ張った。


「もっと早くから教育しておけばよかった。アレは手を出してはいけない代物よ。接近を禁止します」


 何を言っているのか分からない。しかも、あの可憐な女性をアレ呼ばわりとは。


「ちょっと言い方、ひどすぎます」


 ボンっと上がった怒りのまま口走った俺を、全員が見ている。その目の中に、 冗談やからかいの色は見えない。

 それで俺の頭が、少し冷静さを取り戻した。

 この人たちはいい加減な事は言わない。


「どういうことですか」

「アレはね、あんたを取り込んで、ここに入り込もうとしているの」


 理由がわからなくて、他の先輩たちに助けを求めると、緒方先輩が説明してくれた。


「彼女は生徒会に執着している。役員に立候補したのを断ったが、異様に粘られた。それに俺たちの情報に妙に詳しいのが嫌な感じだ。つまりは要注意人物だな」


 今井先輩も寄って来て、慰めるように肩を軽く叩いた。 


「お前に声を掛けたのがどういう意図にせよ、偶然じゃないと思う。里見の言う通り、お前を利用しようとしているのだろうな。それと、本命は緒方かな」


 今井先輩の淡々とした口調は、俺の反論しようとする気をすっかり削いだ。


……肉食系、腹黒女子……俺のときめきを返せ!


 がっくりと肩を落とす俺を、里見先輩と井上先輩が慰めてくれた。


「よしよし、免疫無いもんね。これから世の中の危険について勉強しようね」


 完全におちょくられている。

 そう思ったが、どうやら彼女たちはご立腹のようだ。


 井上先輩は俺のジャケットの両襟を掴んで、ぐいっと引っ張った。

 目の前の可愛い顔の真ん中で、唇が尖っている。


「こんなに簡単に騙されるなんて、姉代わりとして心配になっちゃう。名前をチョロシに変えちゃうよ」


 肩をムンッと掴まれ、強引に方向転換させられると、次は里見先輩がからんできた。

 「ここ三年、私たちと付き合って来たでしょ。二級品の毒花や、フェイク品くらい見分けられると思ってた。ヒロシ、これから特訓だからね」


 美しい顔の中で、目と眉の具合が怖い。

 最近になってようやく目線の高さが同じになったけど、気持ちの上での俺は、『ちっちゃい俺』のままなんだ。



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