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表の生徒会長に就任しました――俺、立候補してないのに  作者:


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やっとだよ(周囲の声)

第一部、最終回です。

 俺が心の中で大パニックを起こしている所に、里見先輩がやって来てしまった。


「ヒロシ、帰ろう。途中で書店に寄ってもいい?」


 いつものように話し掛けて来るけど、今の俺には彼女がまぶしすぎて、直視できない。

 横目で彼女の姿を追った。

 相変わらずきれいで、しかもいつもの倍は可愛い。

 その里見先輩に、コマーシャルの映像の彼女が被さる。夢を見ているような気分だ。


「あ、俺も探している本があるから、大きい方の店でいいですか」


「あっちの店ね。いいよ」


 そう言えば、彼氏と彼女の会話のようなものになっている。入学以来、よく一緒に帰っているからな。

 一旦そうと意識したら、今更ながらに照れた。


「現実を受け入れなさいよ。逃げたら、またチョロシ君て名前に変えるよ」


 背中をつついて低い声で井上先輩に言われ、俺は一歩前に出た。


「これからも一緒に帰ってください。里見先輩」


 ダサいけど、俺としては精いっぱいの告白……のつもり。


 彼女はキョトンとした後、真っ赤になって横を向く。


「改まって言われると、照れるからやめてよ」

 ツンと尖らせた口元は笑っている。

 

 俺は急いでかばんを抱えて、彼女の横に立った。そして、いつものように他愛もない話をしながら歩き始めた。

 俺の歩くペースは、自然と彼女に合わせたものになる。

 それをもう、体が覚えているようだ。

 そう思ったら、ぼっと再び熱が上がった。


「昨日借りたハンカチ返すね。ありがとう」 


 そう言って彼女がハンカチを手渡して来る。


 俺は、その手をハンカチごと握った。

 驚いたように俺の顔を見つめた後、彼女はすごい勢いで手を引っこ抜いた。


「あ、ゴメン! なんだか触りたくなって」


 慌てて言った傍から、自分の口を叩きたくなる。

 里見先輩がピクッとして、ハンカチを握りしめた。


「あ、ゴメン! そのままだった」


 ああーっ、もう何も言わないでおこう。

 どんどん深く墓穴を掘るだけだ。


 彼女は真っ赤な顔のまま、ハンカチを差し出し、俺の手を自分に引き寄せてハンカチを握らせてくれた。

 それから少し体を俺に寄せた。


「学校出てからね」

 そう言って足早に先を行く。


 俺は彼女の後を追い、また彼女の歩調に合わせて歩き始めた。


◇◇◇

 

 少し前から部屋の隅で様子を伺っていた今井が尋ねた。


「由美。あの二人、ちゃんとカップルになったのかな」

「うん。やっとね」


 廊下を歩いて行くヒロシたちの後ろ姿を見ながら、今井は一ヶ月程前の事を思い出していた。




◇冬バージョンの打ち合わせ前の一コマ ◇


「おい、緒方。ヒロシの奴、野口さんと一緒に事務所に向かったんだろ。また二人の目が吊り上がることになるんだろうな」


「ああ、あいつ、いつまでたっても自覚が無いからな」


 生徒会室には緒方と二人きりなので、今井は気になっていることを聞いてみることにした。

 ヒロシとユキの気持ちについてだ。

 由美は、相思相愛のはずだと言う。

 今井もそうだろうと思っているが、いつまでも気付かないでいる二人の状態が、不思議だった。


「ユキとヒロシは、お互いのことが好きなんだと思うんだけど、そうかな? 特にユキは、最近ヒロシを男として意識し始めているよな?」


「今井、そこに疑問符を付けるなよ。中学で初めて会った時に、ユキは拒否反応を示さなかっただろ。あれは、ある種の一目惚れ、もしくは奇跡だよ。ただし、ユキに自覚は無かったみたいだけど」


 確かに、男除けをして、誰も近寄らせなかったユキが、あっさりとヒロシを受け入れていた。


 緒方は溜息をひとつ漏らしてから続けた。


「ただ、そこから一ミリも動いていないんだよな。実際はもっと気持ちが進んでいるのに、気付いていないんだ。どう思う?」


「そうだよな。態度からして疑う余地なしだ。夏休み前、俺がヒロシをくすぐり倒したことがあっただろ。あの時ユキは、ヒロシを庇って俺の前に立ちはだかったんだよ。……俺が照れた」


「そこまでしていて、どっちも気付かないのがおかしいよ。普通、気付くだろ」


 今井もそう思っていたが、高校に上がって、他の女の影がちらつき始めた辺りから、ユキの様子が少し変わってきている。


「ユキはそろそろ自覚していると思うか? 緒方」

「ようやくな。あいつもとことん鈍いんだよ。どっちかまともなら何とかなるけど、両方だとそのままになりそうで嫌だ」


 CMフィルムの二人を見れば明らかなのに、当の本人たちが気付かないとは皮肉だ。

 なんでバズったのか、わかっていないのだろうか。

 あの控えめに漏れ出る恋心が、映像を通して世間の人々の胸に突き刺さっているのに。二人揃って目が曇っているのか?


「何とかなるのかな。俺たちが卒業したら、誰かに持ってかれそうだな」

 緒方が焦れたように言った。


 ヒロシは体がしっかりして、男っぽくなってきた。中学の頃から俺たちは意識してあいつを鍛えたのだ。

 顔つきもすっきりとして、目を惹くようになっている。

 次期生徒会長に決まり、気構えが変わってきたし、自信を持って行動しているのがわかる。そのせいで表情も引き締まってきた。


「由美が、ああいうのが次第にいい男になるタイプだって言っていたよ。今なら見る目の無い女でも、彼に気付くってさ」


 緒方が苦笑した。

「そうだな。だいぶ良い部分が前に出て来たと思うよ」


「もっと魅力がくっきりしたら、群がるだろうな。おまけにあいつ、不器用なほど真直ぐだから、捕まったら一途だろう。瀬木さんの時も、既にそんな雰囲気だったしな。それに流されやすそうに見えて、実はそうじゃない」


 緒方の目がギラっと光る。

 何に対しても余裕のあるこの男の、こんな表情は見たことが無い。


「いいや、そんな事にはさせない。俺が許さない」


 緒方にそんな目をさせるのは、里見ユキの姉の麗子だけだ。


 緒方はじりじりしながら二人の進展を見守っている。ユキに恋人が出来ないと、緒方の恋もかなわない。

 こちらもこちらで両想いだと、今井は思っている。

 だが相手は麗子だ。

 幼馴染なので今井も知っているが、麗子は言ったことを決して覆さない。

 道は険しいかもしれない。


 今井は横目で緒方を見てから聞いてみた。

 「ヒロシはユキが好きだけど、あがめているような雰囲気だ。あがめている内は恋にはならないよな。どうしたら殻を破れると思う?」


「コマーシャルの告白を利用する。何が何でも自覚させてやる」


「そんなに上手くいくかね」


 今井は溜息をついた。



第一部完了です。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


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