表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
表の生徒会長に就任しました――俺、立候補してないのに  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/38

脱出ゲームー4

「両部とも二曲削ります」

「何だと。させるか!」


「その代わり、脱出ゲームの会場横にステージを設けます。軽音は第二ステージ、ジャズクラブは第三ステージのお子ちゃまタイムでどうでしょう」


 一瞬シンとした。


「乗った」

 軽音が言う。


「うちだって、バトルシーンに合うレパートリーくらい持ってるぞ」

 ジャズが不服そうだ。


「発表のタイミングと選曲は、係員と相談してください」

 それで騒ぎが落ち着いた。


 そして校内放送で、脱出ゲーム会場横に、生バンドのBGMがつくと告げると、校内は一段と盛り上がった。


 軽音の部長が、俺の後ろにくっついて来ていた真田を見て、ニヤッとした。


「手練の下僕を従えてるって噂だったけど、あれ本当だったんだな。さすが裏の生徒会長」


 うん? 

 どこまで広がっているんだ、それ。

 しかも裏の生徒会長に下僕が合体している?


 多分、昨日の脱出ゲームで、真田の噂が広がったのだろう。

 エリア1での動きが普通じゃなかったし、エリア2では、俺と里見先輩の護衛に付いていた。それで一気に噂が拡散したのか。


 くるっと振り返ると、真田がニッと笑った。

 俺は咄嗟に悟った。

 こいつの忠誠がスッカスカなのは、黙っていればわからないだろう。

 揉め事を収めるには、ダークな噂があっても悪くないかもしれない。



 二日目の脱走ゲームコーナーは、整理券を配るほどの大盛況になっていた。


 一日目のリベンジ組と、SNSで興味を持った人々が押し寄せたのだ。エリア3のエア遊具は、中休みを取ってちびっこタイムを設け、その時間も大好評だ。


 生演奏は怪我の功名だった。

 特に、エリア3でクラシカルな、『スイングしなけりゃ意味がない』が演奏されると、凄くシュールな雰囲気になった。

 元々が、エア遊具に鬼というシュールな舞台なのだ。


 チャレンジしに来ていた議員秘書の荻さんは、「洒落てるねー」と感心しきりだった。荻さん自身はエリア1でアウトだったので、来年のリベンジ用にこれから体を鍛えると言っている。

 荻さんもだけど、なぜか皆、この企画は来年もあるものだと決めつけている。

 

 このイベントのおかげで、国政や、自衛隊に関する展示に人が沢山集まったらしい。まれに見る大成功だと上機嫌になっていた。

 そして展示会場と脱出ゲームの様子を、若手にビデオ撮りさせて、持ち帰っていった。


「これ、すっごい興奮するわ。エリア3も攻略しようね」


「再チャレンジできないからな。助け合おうぜ」


 エリア2に様子を見に来ていた俺の耳に、そんな興奮したやりとりが飛び込んできた。そちらに向かい、角を曲がった所で、先頭を走って来た女子が俺にぶつかりそうになった。

 どうやらエリア2をクリアして興奮しきりのようだ。

 思わず満足の笑みが漏れ、口元の緩みを抑えきれない。


「おやあ、悪い笑顔! 裏の顔が出てますよ」 


 突然失礼な事を言い始めるのは真田だ。

 中学生らしき三人が、こっちに注目した。


「この企画、この人がしたの。来年の生徒会長なんだよ」


 紹介の内容は正しいけど、残念な事に真田の表情が言葉を裏切っている。

 だが次の瞬間、彼らの表情が『尊敬』というものに変わったのを見て、真田を後で褒めることにした。


「怪我をしないよう、楽しく遊んでくれ。健闘を祈る」 


 我ながらカッコ付けすぎな気がするが、中学生たちの尊敬の眼差しは更に深くなった。

 先ほどぶつかりそうになった女子が、ぴょこんと頭を下げた。


「私、来年はこの高校に来たいです。いえ、絶対にここに入学します」


 目をキラキラさせて言う。ボーイッシュで美少年のようにも見える端正な顔をしている。

 男子っぽく見えるのは、真直ぐな視線のせいかもしれない。

 横に立つ友人らしき男子が、驚いたように彼女の方を向いた。


「え、いきなりかよ。〇塚じゃなかったの?」


「変更よ。こっちにする」


 そうだ、来年になれば後輩が出来るんだ。彼らも、もしかしたら後輩になるのかもしれない。


「そうか。頑張って。待っているよ」


 真田が俺の腕を引っ張った。


「仕事があります。もう行かなきゃ。それに里見先輩に御注進に行かなきゃ」


「エリア3は鬼のエアガンに気を付けて。盾が有効だよ。近射と乱射は禁じているから危険はないけどさ」


 そう言って、手を振ってその場を後にした。



 そんな風にバタバタしていたので、午後になってようやく、自分のクラスの出店に行くことが出来た。 

 何もしていないので、肩身が狭かったのだが。


「お疲れ様。クレープ食べる? 1―Cの人は一人一個だけ無料だよ」

 店番のメンバーたちが、声を掛けてくれた。


「全然手伝えなくて悪い」


「いいよ。田中君忙しいだろ。その分、真田さんが二人分働いていたから。田中君の下僕なんだってね」


「真田の冗談を真に受けないでくれよな」


 俺は一応釘を刺しておいた。

 焼き上がりを台に乗せて、デコレーション役の女子が尋ねて来た。


「はい。出来ました。何挟む? イチゴとホイップクリームが一番人気よ」

「それください」


 中学では周囲と溝があったのに、今は無い? 自然に話をすることが出来ているみたいだ。


 俺はボリュームのあるクレープを受け取った。

 たっぷりの生クリームとカスタード、イチゴのジャムと生イチゴが入っている。 

 食べ応えがあった。


「ありがとう。これ、凄く美味しいよ」


「はい、サービスね。脱出ゲーム楽しかったよ。エリア1で捕まっちゃったけどさ。来年もやって欲しいな」


 そう言いながら、ホットコーヒーを渡してくれた。


「そうだな。また来年、かな」


 学祭はドタバタだけど、楽しかった。そして大盛況のうちに終わった。



 学祭が終わって数日後、CM冬バージョンの編集が終わったと連絡が来た。

 試写会では、当初の予定通りのフィルムが出来上がっていた。

 驚くべき編集の腕だ。


 俺は照れくさいので、前回の時と同じく、半分流し見状態で見ていた。


 まず全体シーンは、緒方先輩が飲み物を抱えて現れるところから始まり、皆でゲームをする様子などの楽しいものだった。凄く温かくて楽しい雰囲気だ。いい出来だなと感心した。

 先輩たちのカップル編も、安定のクオリティに仕上がっている。


 俺と野口さんのジェンガシーンは、俺たちが移動するのを睨む里見先輩の姿で始まる。まあまあ、となだめる緒方先輩。

 そこからダイニングテーブルに場面は移り、俺がジェンガで3回連続ぼろ負けする様子と、慰める野口さんが映される。

 空元気そのもので、俺が清涼飲料水を飲む様子。

 それを見て爆笑する野口さんで、面白くまとめられている。


 俺と里見先輩のオセロ編は、またまた俺のぼろ負けシーンからだ。

 そしてジェンガで崩れ落ちる俺。もちろん周囲のヤジる様子や、野口さんの変顔も入っている。

 皆が笑って楽しんでいる。

 俺だけ格好悪いけど、全体的にすごく良い感じだ。


 ラストは、俺が花を贈る編。これには、あの時の全部が入っていた。

 里見先輩に怒られるところから始まり、情けない表情の俺が、次々に花を渡していく。

 なぜか俺のセリフは入っていないけど、「好きです」と言っているのは十分にわかる。

 そして花を貰った相手の表情が、まちまちなのが面白い。


 里見先輩とのシーンは、他とちょっと違う雰囲気で、ドキッとした。

 凄んでいた彼女が、花を貰って好きだと告白された瞬間から、かわいいい女の子に変わった。

 この時の俺の動きは少しスローになっていて、余韻が感じられるように編集されている。


 そして野口さんのシーンだけ、小さな声でセリフが入っていた。

 黄色のガーベラを受け取って、野口さんが少し寂し気に言う。


「私にはこれかあ」

 なんだか、ガーベラで、がっかりしている風に見える。


 そして、コマーシャルが終わったかと思うタイミングで、


 ◇おまけ◇

 というテロップが流れた。


 準備中に俺と今井先輩が、プロテアの花を見ているシーンが、嫌になるくらいうまく編集されていた。

 俺は思わず今井先輩を見た。顔が引き攣っている。井上先輩は、怖くて見れない。

 俺はそっと手を合わせ、詫びた。


「さあて、今回もいい出来だったよ。評判をとること請け合いだ。ありがとうね」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ