2 ソイソーサー
ジャンル…半フィクション、青春、ギャグ
俺は美渡 和男。しがない一大学生だ。
しかしそんな俺には、誰にも負けないものが一つだけある。
―醤油への愛情だ。
友は俺の事を尊敬と皮肉を込めてこう呼ぶ。
『ソイソーサー』、と。
朝は醤油を混ぜ込んだおにぎりから始まる。
おかずは卵焼き、味は醤油味。飲み物は吸い物。やっぱり醤油を入れる。
おにぎりは鰹節をまぶせば、その日は一日無敵だ。
昼はいつも気分だが、当然醤油を欠かさない。
昨日はドライカレーに醤油をかけて食した。
中々イケる。コクが出て旨い。
そして夜は母の手料理だが、味は別々だ。
俺は言わずもがなだが、母は七味唐辛子をぶっかけている。
正直母の味覚を疑う。
そして今日も、自分の体が塩分に侵される事など構わずに、学食―今日のメニューはラーメン、醤油味だ―に醤油を垂らそうとした。
その時。
俺の前に女が座った。
中々の美人、醤油顔ってやつだった。男が言う言葉じゃないが。
髪にパーマをかけたり、茶に染める女子が多いが、彼女は綺麗な黒髪のストレートだった。
プラスチックの盆の上にはオムライスと紅茶。
オムライスにはケチャップがかかっておらず、紅茶は色や匂いからしてストレートのようだった。ミルクの白みやレモンの酸味の利いた匂いがなかった。
どこまでもまっすぐな彼女に、俺は好意を抱いた。
これで俺と同じ『ソイソーサー』なら最高なのだが。
まあ、彼女がマヨラーでもいい。俺色に染めるまでなのだ。
俺は彼女に話す機会を探した。豆腐とか、普通に醤油をかける食べ物が無かったのが悔やまれる。
他に何か、と必死に目を走らせていた、そんな時。
彼女は俺の頑張りとか考えとかを、粉々にすり潰してくれた。
女は鞄をあさり、ある物を取り出した。
生姜と、胡麻だった。
チューブから捻り出された黄色は、紅茶の中に潜り。
黒い粒達は温かな卵の上に降り立っていった。
つまり、ジンジャーティーと、胡麻がけオムライス。
目を疑った。しかし、彼女の傍らにはあのレモン色のチューブと黒胡麻の入った瓶。
女は俺に目もくれず、オムライスと紅茶を腹の中に納めると、すぐに席を立った。
生姜チュ-ブをきちんと箱の中にしまって。
「世の中って広いなあ…」
女がいなくなった真っ昼間の食堂。
一人、俺はそう呟いた。
その日から俺は、『ソイソーサー』をやめた。
半フィクションと前書きに書いたのは、ちょこちょこ実話が混じっているからです。
和男くんのある日のご飯(ドライカレー+醤油)、ジンジャーティー、生姜チューブの持ち歩き、『胡麻ラー』です。
ちなみに和男くんのモデルは友達です(笑)私事で申し訳ないです。
閲覧、ありがとうございました。