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第6話

 ノエルの雰囲気が劇的に変化したのをキースは肌身を持って感じていた。横にいるダリルも動けずにいる。


「神よ、感謝します」


 ノエルの声は先刻のそれとは打って変わり、異質な響きを帯びていた。その髪は夜風に揺れながらゆっくりと伸び、漆黒から純白へと変わった。


 魔剣の類だろうかと、キースは警戒する。握っただけで口調が変わり、髪が伸び、白髪になる剣など聞いたことが無い。キースには相手がどんな魔法、スキルを持っているか分かる《鑑定眼》があるが、魔法とスキルのステータスが何も見えない。確かに先ほどの黒髪状態の時まではノエルの鑑定ができていたはずだった。

===============

【名前】ノエル

【年齢】7

【種族】人間

【職業】調理人

【レベル】測定不能


【HP】120/120

【MP】0/0

【筋力】測定不能

【耐久】測定不能

【敏捷】測定不能

【魔力】測定不能

【知力】測定不能

【幸運】ー


【魔法・スキル】


【称号】


===============


 先ほどまでのノエルのレベルは1、魔力値も5と身体強化Ⅰを1,2分維持できる程の微小な魔力しかもっていなかったはずなのだ。魔法やスキルもいくつか持っていたが全て料理や採取に特化した基礎的なものしかなかった。

 《鑑定眼》で対象の使う魔法やスキルが見ることができない理由として挙げられる可能性は2つ。


・キースよりもノエルのレベルが高い

・魔法・スキルが何も使える物が無い


このいずれかだった。

 前者はあり得ない。

 キースのレベルは23。この村でも屈指の実力を持つキースとノエルではレベルが圧倒的に異なる。魔剣の影響で仮にレベルが上がるとしてもレベルが一瞬で20以上上がる魔剣など聞いたこともないし、レベルは本人の努力値であるという世界の理に反する。ここに才能なども加味されてレベルは上がっていくわけだが、上位スキル《潜在能力解放》を使っても能力的にはレベル5程度ほどしか上がらない。となれば考えられるのは後者、魔法・スキルが何も使えない、だ。

 念のため、魔剣かと思っていたノエルが手にしている剣も鑑定したがこちらにも特に特別な能力は付与されていない。ただの普通の古い剣だ。


「......へっ! 髪の色が変わったからなんだ、伸びたからなんだ! どうせ大したことねえだろ!」

「待て! ダリル! 殺すな!」


 静寂に耐えかねたのか、ダリルが剣を抜いた。同時に基礎魔法『身体能力強化Ⅱ』、『危険察知Ⅰ』を自身にかけ、剣に水属性を付与する。ダリルが最も好む、水魔法『アクアブレード』で相手に近づかずに遠距離から攻撃する戦法だ。属性付与ができる冒険者はこの村では両手で数える程度しか存在しない。


「アクアブレード!!!!」


 水刃がノエルに向かって勢いよく飛ぶ。キースが急いで止めようとした時にはもう遅かった。凄まじいスピードで斬撃がノエルに当たり、轟音と共に土煙が舞う。これでは村にもここで何かあったことが知られてしまうではないか。


「馬鹿野郎!」


 殺したら元も子もない。この村に居られなくなるだけでは済まない。殺してしまったら、指名手配されてしまう可能性すらある。そうなればこの『国』全員を敵に回すことになる。


「へっ、大丈夫だ、魔物のせいにすれば良いだけだからよ」


 ダリルが息を切らしながら途切れ途切れで言葉を口から漏らした。


「おい、キース、とっととズらかるぞ......キース?」


 キースは目を見張っていた。土煙の向こう側、その先に一つの黒い影が見える。


(......あれを......避けた!?)


 言いようのない不安がキースを押し寄せる。レベルから何から何までノエルとダリルでは決定的な差がある。それはキースの鑑定眼が示してくれていた。あれを受ければまず間違いなく、ノエルが無傷でその場に立っていることなど絶対にできない。そもそも、《身体強化魔法Ⅰ》しか使えないノエルのことだ、当たれば即死は免れたとしても、致命傷はほぼ不可避だった。

 それがどうだろうか、無傷のノエルが静かに立っている。ダリルも目を見開いていた。


「ば、馬鹿な!? 身体強化しか、それもⅠの低級魔法しかできないガキが! 俺のアクアブレードを避けれるはずがねえ!」


 動揺したダリルが剣をめったやたらに振り回し、アクアブレードを立て続けに繰り出した。いくつもの水の斬撃が断続的にノエルに襲い掛かる。それと同時に、ノエルが動いた。いや、正確に言うならば、目で追う事はできず、キースの《危険察知Ⅱ》が何かを感じ取った。


(速い!!!!)


 《アクアブレード》の間を縫うように驚異的な速度でこちらに迫ってくるのが分かった。身体強化魔法Ⅰで出せるスピードを遥かに超えている。

 キースは咄嗟に剣を構え、自らに身体強化魔法Ⅲをかけた。全魔力を身体強化に注ぎ込むことで一時的にⅢまで使えるようになるのだ。ただし、代償としてその場を動くことができない。防御特化の切り札ともいえる最終手段だった。

 それほどまでにノエルの圧は凄まじいものだった。

 ドスンと鈍い音がした。

 横を向くとダリルがその場に倒れているのが目に入った。後方には長い白髪をなびかせながらノエルが何事もなかったように立っている。


(身体強化ⅢからⅡへ変更、危険察知Ⅱ、風魔法《風纏い》)


 キースは気を引き締める。眼前の相手はノエルであってノエルではない。最早別人である。本気を出さなくてはやられる、そう確信した。

 村ではギルドマスターであるノエルの母親、『俊足』の二つ名を持つアリア元近衛兵隊長の次に足が速いことで知られているキースの自慢の魔法の組み合わせだった。


「何があったか知らないが、あの馬鹿のせいでもう後にはひけねえ。悪いな、ノエルの坊ちゃん。本気出させてもらいますぜ」


 言うが否やキースは《風纏い》と《身体強化Ⅱ》で強化した足で地面を強く踏み込む。


(そこだ!)


 一度の踏み込みでノエルの背後に回り込み、首めがけて剣をふるう。正に、初見殺しともいえる戦法である。

 だが、切っ先がノエルの首元に届くその刹那、ノエルの瞳が一瞬キースに向けられた。


(嘘だろーー)


 振るった剣は虚空を切った。当たらなかった。キースの渾身の一撃であった。完全に見切られていたのである。ノエルは既にキースの間合いの外に出ていた。

 嫌な汗が背中をつつつと伝う。レベル1の人間の動きではない。《身体強化Ⅰ》でどうにかできる物でもない。何かからくりがあるはずである。キースと同じく風魔法を使っているのか、使用者は一握りであるが影を移動できる闇魔法、《影歩き(シャドーウォーカー)》を使っているのか。

 

(クソ! こうなったらもうやけくそだ!)


 キースは剣をノエルに向けて風の初級魔法である《風弾》を連続で放とうとした。が、その瞬間、《危険察知Ⅱ》が反応した。気が付くと眼前にノエルの姿があり、剣で首元を狙っているのがはっきりと分かった。


「クッソが!」


 間一髪、強化したキースの身体は、視界の隅から迫る剣の切っ先から体を仰け反らすことで避けることに成功した。追撃を食らわないように一旦距離を置くため、高速移動でノエルから遠ざかろうとするがここであることに気づく。

 ノエルがいない。先ほどまでは確実に自分の目の前にいた。《危険察知Ⅱ》をフル稼働させ、ノエルを高速移動をしながら探す。そして、すぐ横で反応した。


(もう......いる......)


 キースに並走する形でノエルが不敵な笑みを浮かべながら剣を握りしめ、振りぬく。


「がっ!!!!」


 激しい痛みに襲われる。血は出ていない。大丈夫だ、掠っただけだと自分に言い聞かせる。

 スピードで劣るのならば、魔力でゴリ押すしかない。魔力差は歴然、ならば負けるなど絶対にない。


「風よ、我が声にこたえ、全てを薙ぐ刃と化せ! 《ウィンド・カッター》!」


 《ウインド・カッター》は風の基礎魔法だが、剣を振らずとも手からの発射・乱射が可能であり牽制にはもってこいの魔法だった。

 だが、ノエルはそれを全て剣で防ぎつつ高速で距離を詰めてくる。


「ダブルブレード!」


 1度の剣の振り下ろしで2つの斬撃を飛ばす剣技スキルであった。が、斬撃は明後日の方向へ飛んでいく。


(受け流されたのか!?)


 ドスッという音がしてみぞおちに鈍い痛みが走る。ここで膝をついてしまえば確実にやられてしまう、そう感じたキースは苦悶の表情を浮かべながらも高速移動を止めなかった。

 キースの高速移動について来られるだけのスピードや《ダブルブレード》を受け流す剣技、このからくりを見破らなくては勝機はない。

 だが《鑑定眼》を使用しても、やはり魔法・スキル欄には何もない。

 何度か《鑑定眼》を使用するうちにキースはここであることに気が付いた。魔力値が0なのである。黒髪の時にはわずかにあった魔力が消えている。


(う、嘘だろ!? じゃあまさか!?)


 魔力を持たないという事は魔法は使っていない。仮にこれが本当なのだとしたら《鑑定眼》は正常に機能している。つまりスキルも何も持っていない。

 という事は、とキースはある一つの結論にたどり着く。


ー全て、身体能力・技術によるものー


 一体、何年、何十年の歳月をかければこの境地に至るのか、それがどれほど難しい事なのか25年しか生きていないがキースでも痛いほど良く分かった。AランクやSランクの冒険者でさえこの境地に至っている者は少ないだろう。皆、スキルや魔法ありきの実力だ。

 そして、この男は恐らく手加減をしている。これは剣の指導に近い。先ほどから何回か攻撃を食らわせられたが、全て血が出ていない。恐らくあの奇妙な形の剣の刃ではない部分で攻撃しているのだろう。

 まるで歴戦の猛者と手合わせしてもらっているようだった。

 それほどの差をキースは感じていた。


(遥かな高みから見下ろされている......この俺が......)


 迫りくるノエルを視界の片隅に置き、キースは最後の賭けでカウンターを狙った。右からの切りつけ、つまり反対側は隙だらけという事だ。その隙だらけのノエルの半身を切りつけようとした。

 しかしその時、反対側からも剣が現れた。


(ダブルブレード!?)


 スキルではない。同時に2撃の剣が現れた。1回の振り下ろしで2撃放つスキルとは全くの別物。実際に、瞬きする間に2回剣を振り下ろされていた。正に本物の《ダブルブレード》そのものだった。

 首に何かが当たる感触があり、それと同時に意識が遠ざかる。


(す、すっげぇなぁ......)


 キースの身体が崩れ落ちる。

 ノエルは静かにそれを受け止め、そっと地に横たえた。

お久しぶりです。書く気がわいたので書きます。

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