表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/10

8.アラタと百合の関係

「ただいま」



自宅のリビングのドアを開けると、柴犬の玄白が出迎えてくれる。大理石の床では爪がカツカツと音を立てる。



「朝帰りなんて珍しいわね。まぁ、時間的には昼帰りだけどさ」



医療ドラマの再放送を見ながら母が言う。看護師で毎日病院にいるのに、なぜ休日までそんなものを見ているのか。理由はこれだ。



「あ、またミス発見。こんなの、現実にありえないわ」



医療ドラマの粗捜しをして喜んでいるのだ。こういった性格の悪さは、克哉とそっくり。



「お父さんは?」


「医師会のゴルフ。よかったわね。娘の朝帰りなんて知ったら気絶しちゃうから、内緒にしてあげるわ」


「克哉には言ったクセに」


「怒られた?」



私を見ると、ニヤリと笑う。



「朝イチに連絡があったのよ。愛香が帰ってるか?ってね。もう大人だから何しても構わないけど、同じ家に住むなら連絡くらいしなさいよ」


「はーーい」



25才、実家暮らし。母の言う通り、最低限のルールは守らなくては。



自分の部屋に入ると、どっと疲れが出た。展開の早さに頭が追い付いていかない。


ベッドに倒れると、いつの間にか眠りに落ちた。




◆◆◆




「かわいいよ」



ーー誰?それって私のこと?



「もっと、もっと聞かせて」


ーー恥ずかしい声は、誰の声?



「どこ?どこがいいかちゃんと言って」



ーーもっと奥の方だなんて、言えないよ。



「ここが気持ちいいんだね」


ーーうん、そう。そこが疼くの。



「こら、まだダメだよ」



ーーだめ、そんなに強くしないで。



「あーーあ、もうイッちゃった」



目が覚めたときには顔が火照っているのがわかった。覚えていないと思っていたのに、ちゃんと脳と身体に残っているなんて。



快楽に溺れていく様が、今さら脳裏に甦る。




◆◆◆





月曜日、午前の診療が終わり休憩室に入ると、百合さんに声をかけられた。他のスタッフは外にランチに行ったらしい。2人で向かい合って食べることにする。



「なんか、肌がいい感じね」



百合さんは、じっと私の顔を見ている。


「さては、抱かれたわね。しかも、最上級の男と見た」


「え!」


「ふふん。だから言ったでしょう。女性が美しくなるには、ヒアルロン酸もプラセンタ注射も必要ないのよ。好きな男に燃え尽きるまで抱かれてこそ、女は花咲くものなのよ」



そう言われて、またアラタに抱かれたことを思い出し、朝から職場で赤面してしまう。



「顔に出てるわよ」


「百合さん、私どうすればいいでしょう」


「なになに?」



楽しそうな表情。恋話も恋愛ドラマも大好きなんだから。



「実は、その、相手の名前は伏せるのですが。ちょっと、いえ。わりと有名な方と致してしまったのです」



そこまで言うと、ポンと手を叩く。



「なんだ、愛香ちゃんの相手ってアラタなの?」


「え!なんでわかったんですか?」


「弟だもの」


「誰がです?」


「だから、dulcis〈ドゥルキス〉のアラタ、本名は長谷川新だけど、彼の姉は私よ。両親が離婚して新は父親に引き取られたから、苗字は違うけどね」


「ええーーーー!」



ここに来て、また新情報が加わり、脳内整理できません。



「なるほど、そっか。うんうん」


「百合さん、なにをそんなに納得してるんですか?置いていかないでください」


「あらあら、喜んでるのよ」


「なにに?」


「弟の女性不信を治してくれたのが、職場の可愛い後輩だったなんて、嬉しいじゃない。いつまでも、男の克哉相手に満足してるようじゃ、姉としては心配だったのよ」



ぶっ、思わずお茶を吐きそうになる。



「え!百合さん、知ってるんですか?」


「だって、克哉と新を引き合わせたのは私だからね。まさか、セフレみたいな関係になるとは、流石に思わなかったけど」



百合さんはお弁当を食べ終わると、どこまで知ってるのか分からないけど、そう前置きをして話してくれた。





アラタは大学時代に当時の彼女に裏切られ、ベッド画像が流出し活動停止になった。それがトラウマになったのか、その気はあっても、肝心な所で男性として機能しなくなった。


医師で姉の百合さんに相談したところ、アラタも知っている、大学の先輩であり、その手の知識もある克哉を紹介された。



「医師と患者のはずが、変な関係になったと聞いたときは驚いたけどね」



「そんな話まで姉と弟でするなんて仲良しですね」



おっぴろげに話せる内容ではない、よね。



「母親の考えでね。性に対してはオープンな家庭で育ったの。セックスは悪いことではない、真剣に向き合えば絶対必要だってね」


「なるほど。すごいお母様ですね」


「恋人を作っては何度も家を出た人だから、子供からしたら大迷惑な女よ。それを何度か許していた父も、相当な変わり者だけだね」



なるほど。変わっているのは家族総出だと。



「克哉とアラタが真剣な交際ならともかく、そうではない以上、他に心を許せるパートナーが現れてほしいと、姉は願っていたわけよ」


「パートナー、ですか」


「それ、私なんかでいいんしょうか」


「精神的なEDを無意識に治しちゃうなんて、すごいじゃない。今度うちの実家にも遊びに来てよ。母も喜ぶわ」



お母様も、きっと美人なんでしょうね。



外にランチに行っていたスタッフが戻ってきたので、百合さんが「この話は内緒よ」と、囁いて終わった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ