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5話 推しとの初デート?

おかしい。これは、夢でも見ているのだろうか。



大好きなアイドルグループ、dulcis<ドゥルキス>のアラタが、私の目の前でメニューを広げている。


長くてキレイな指。爪の先まで手入れをされて、思わず見とれてしまう。




「愛香ちゃんは、何飲む?ビール?ワイン?ハイボール?」



見とれてばかりじゃ、ダメだ。



「ジンジャエールをください」


「あれ。お酒ダメだった?」


「いえ、でも、克哉から、飲むなと言われてきました」


「えーー、なにそれ、克哉は保護者?パパかよ。あ、パパって言うと意味が変わるか」



今夜、迎えに来ると聞いた通り、スタッフが全員帰った20時、本当にアラタはやって来た。


クリニックの外に車を待たせてあると言って、事務所のスタッフだという男性が運転する車に乗せられ、銀座までやって来た。



「アラタさんのこと、よろしくお願いいたします。飲み過ぎないように、見張ってくださいね」



スタッフさんはそう言って去って行った。


お宅の大事な売れっ子が、女性と2人きりでレストランに入るのは、問題ないのだろうか?


ファンの心理としては、モヤッとしてしまう。それとも、これが信頼関係なのだろうか。



「好きなの頼んでいいからね」



アラタの知人が経営するイタリアンレストランは、超ではないけど、敷居は高そうなお店だった。



「じゃ、乾杯」



出されるままに、グラスを合わせる。


フルートグラスに入ったジンジャエールは、照明に照らされて金色に輝いている。アラタが飲むシャンパンと同じように、細かい泡が美しい。



「お嬢様だね、愛香ちゃん」


「え?」


「育ちの良さが分かる」



面と向かって言われたのは初めてだった。




内科医だった祖父は、私が生まれてすぐ、自宅兼病院を4階建てのビルに建て替えて開業した。


父は祖父と同じ内科に勤めており、「若先生」と患者に慕われ、母はそこで看護師として勤務している。


叔父である克哉の父親も、歯科医として同じビルにいるし、叔母は歯科衛生士だ。



医者=お金持ち、ではないけれど、不自由なく大人になれたことには間違いない。



「克哉に似てるね。姿勢も、食べ方も」



幼いころから忙しい両親に代わり、私も克哉も祖母に面倒を見てもらうことが多かった。


優しい祖母だが、食事のマナーは厳しかった。



「あの、聞いてもいいですか?」



せっかくの美味しい料理も、気になることを聞く前では、喉を通りそうもない。



「なに?何でも聞いて。答えられないこともあるけどね」



長い前髪を後ろにかき上げながら、笑った。白い歯がのぞく。


ちょっと、本当に夢ではないよね。頬をつねりたい衝動を押さえる。



「2人で食事なんて、その、いいのかなって。アラタさん、変装もしないで普通に一緒に車からお店に入りましたよね」


「デートみたい?」


「いやいや、そんな滅相もないです」


「アイドルだって普通に生きてる人間だからね。食事もするし、トイレも行くし、女の子と食事だってしたい。キスもしたいし、エッチもしたい。普通の成人男子ですから」



あれ?女の子って言った?気のせい?昨日のは?



「それは、すごく真っ当な話だと思うのですが、いちファンの立場からすると、とっても複雑です」


「そうだね、ごめん」



アラタが声に出して笑う。


くしゃっと笑う表情は、ミュージックビデオや、モデルとしてランウェイを歩く姿からは想像できない。



dulcis〈ドゥルキス〉の5人のメンバーの中では、一番テレビ出演が少なく、特にバラエティーやロケなどはめったに出ないから、素の表情を見れるのは、インスタライブやYouTubeの企画もの、あとはライブのMCのときだろうか。



「ベッドでの撮影禁止」


「え?」


「よくあるでしょ、芸能人のエッチな動画が流出しちゃうスキャンダル」


「ファンがガッカリするヤツですね」


「そう。うちのメンバーの絶対的なルールは、エッチしてる場にスマホやカメラを持ち込まない。適当な相手となら当然、どんなに気を許した恋人であってもね。火のないところに煙は立たないってね言うでしょう」



そういう場で写真や動画を撮りたがる人は一定数いる。


私は絶対に嫌だけどね。しつこく言われると、こっちはどんどん萎えるのに。いえ、昔の話です。


彼女側がこっそり撮影というパターンもあるのだろうか。


におわせ女は、ファンが1番嫌うのだが。



「例えば今この場を週刊誌に取られても、言い訳はいくらでもできるし、相手も確証はないでしょ?」


「そうですね」


「でも、2人で、いや、2人とは限らないかもしれないけど、裸でいる画像が流れちゃったら、もう言い逃れできないじゃない?」


「2人以外っていうシチュエーション、私にはありえませんけど」


「そこは聞き流していいんだよ」


「失礼しました」


「とにかく、証拠は残さない。大人だからね、多少のことは自己責任だけど、ファンの子を悲しませることは、スタッフにも迷惑がかかるし、自分の仕事がなくなっちゃう」



分かるような、何とも言えない。



「火の無い所に煙は立たぬって言うけど、火が出たら早めに消火しないとね」



つまり、何が言いたいかというとーーーー?



「俺と克哉のしてるとこ、写真に撮ったりしていないよね?」



アラタの顔から笑顔が消えて、ガラス玉みたいな瞳で私を見据えた。



「昨日、俺と克哉がエッチしてるところ、見てたでしょ?」



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