第11章 しろくまってなんだろう?
こどもまつりの余韻が残る午後、ユキはプールの前に座っていた。水面には青空が映っている。そばにはシロが静かに腰を下ろした。
「シロ、泳げるようになりたいって思う?」
ユキがふいにたずねた。
シロは少し考えて、首をかしげた。
「うーん、どうだろう……。なれたら、かっこいいかなって思うけど。でも、泳げないからって困ったこと、今までなかったんだ」
「そっか」
ユキは水の中を見つめながらつぶやく。
「私、小さいころから、父さんみたいにプールに飛び込んで、お客さんを楽しませるのが“いいシロクマ”だって信じてたの。自分の意思っていうより、そうしなきゃいけないって、どこかで思い込んでた」
「でも、ユキは本当はどうしたいの?」
「……まだ、ちゃんとはわからない。でも最近は、考えるようになった。“シロクマらしくいること”と“自分らしくいること”って、同じじゃないけど、まったく別でもないのかもって」
シロが首をかしげる。
「どういうこと?」
「たとえば、泳げることは“シロクマらしさ”の一つかもしれない。でも、それだけが正解じゃない。自分らしく生きながらも、“らしさ”の中にある可能性を全部捨てる必要もない。選べるって、そういうことかなって」
シロはその言葉をかみしめるように、ゆっくりうなずいた。
「僕も、自分が“ちゃんとしたシロクマ”じゃないんじゃないかって思うことある。でも、ユキと話すと、なんだかちょっと前向きになれるよ」
ユキは、ふっと笑った。
「ありがとう。私も、シロと話すと、自由になれる気がする」
そのとき、プールの水がきらっと光った。
それはまるで、ふたりの中にひらいた「しろくまらしさ」と「じぶんらしさ」のあいだの世界が、水面に映ったようだった。




