第10章 ユキの新たな一歩
春の終わり、動物園では毎年恒例の「こどもまつり」が開かれることになった。シロやユキがいる北園エリアでも、動物たちが出し物の準備をしている。
「今年は“どうぶつたちのおしごと”ってテーマなんだってさ。フライは空のおしごと、ランは走るおしごとだって」
シロが楽しそうに話すと、フライは檻の奥から顔を出した。
「おれは……空飛ぶお仕事って言われてもなあ。高いとこ、怖いし……。けど、子どもたちに“鳥ってのは飛べるんだぞ”って教えるくらいなら……まぁ、いいか」
フライの顔は、少し照れていた。
一方、ランは動物園の小さなランウェイ(ステージ)をぐるぐる走っていた。
「やっぱりオレ、速くはないけどさ。子どもたちが『すごーい!』って言ってくれたら、それだけでうれしくなるんだ」
そんな二頭を見て、ユキはふと口をひらいた。
「私は……どうすればいいのかな」
「ユキもなにかやってみたら? 無理に泳がなくてもいいよ。たとえば、氷の上でゆったり歩いてみせるだけでも、“わあ、シロクマだー”ってなるんじゃない?」
「そうかな……」
シロが言う通り、ユキは泳がなくても自分にできることがあることに気づいた。ユキは氷の上でゆっくりと歩きながら、鼻先で氷を転がすような仕草をしてみた。まるで、遊んでいるように見えるその様子は、子どもたちの目にはとても楽しそうに映った。
数日後。イベント当日。北園エリアにはたくさんの子どもたちが集まっていた。
フライは、檻の中で翼を大きく広げてみせた。
「これは“つばさ”っていってね、空を飛ぶためにあるんだ。こわいけど……がんばってるの」
ランは少しゆっくりなスピードでステージを一周し、ポーズを決めた。子どもたちは大喜びだ。
そして、ユキの番。
「みんなー、今から“ゆきだまリレー”やるよ!」
ユキは、飼育員が用意してくれた氷のボールを鼻先で転がしはじめた。普段のユキならその氷に触れることは少なかったが、今日はそれが子どもたちとの遊びの一部だと感じた。
子どもたちは大はしゃぎで、氷のボールを追いかけて転がすユキを見て大声で応援する。
「がんばれー!シロクマ、すごーい!」
ユキは氷を転がしながら、何度も子どもたちとアイコンタクトを交わす。雪のように白い毛がきらきらと輝いて、遊ぶ姿がとても自然に見えた。
シロはその様子を見守りながら、ぽつりと言った。
「ユキ、かっこいいな。自分のやり方で、ちゃんと輝いてる」
「ありがと……シロ」
その言葉をきっかけに、ユキは改めて自分のやり方を見つけた気がした。泳がなくても、遊んで、笑顔を見せて、子どもたちを楽しませることができる。それが自分にできることだと、ユキは感じた。
イベントが終わったあと、ユキは満足そうに氷の上に座り込んだ。
「子どもたち、楽しそうだった。……なんだか、私も楽しかった」
「ね、ユキはユキらしくしてていいんだよ」
「うん……ありがとう、シロ」
ユキは少し照れたように笑った。
そしてその笑顔には、前よりもずっと柔らかい光が宿っていた。
さ




