ぼくはシロ
こんにちは。この本を手にとってくれてありがとう。
このお話は、「泳げないシロクマ」が主人公です。
「えっ?シロクマなのに泳げないの?」と思うかもしれません。
だけど、みんなが得意なこと、苦手なことって、きっとそれぞれちがうはず。
そんなちがいをどうやって受け入れたり、助け合ったりできるのか――このお話では、動物たちの世界を通して考えてみます。
読んでくれるあなたも、自分らしさや、まわりの人とのちがいについて、ちょっとだけ思いをめぐらせてみてくれたらうれしいです。
ぼくの名前はシロ。白くて、ちょっと丸っこいオスのシロクマだ。生まれたのは、この動物園。だから、北の国の氷の上なんて見たこともないし、雪の中で走り回ったこともない。
でも、ここには大きなプールや、岩の山、それから毎日見にきてくれるたくさんのお客さんがいる。飼育員さんはやさしいし、となりの動物たちとも仲良し。ぼくは、この毎日がけっこう気に入っている。
「おい、シロ。今日の魚、うまかったか?」
声をかけてきたのは、となりのチーターのラン。体はシュッとしてかっこいいのに、じつは走るのがちょっとにがて。いつもためいきをついてるけど、根はまじめで、とてもいいヤツだ。
「うん! 今日はね、高い岩の上に魚を置かれてて……」
ぼくは得意げに言った。
「登って、すぐにパクッて食べちゃった!」
すると、ランはちょっとびっくりした顔で言った。
「……それ、ほんとにシロクマの動きか?」
ぼくにはわからない。高いところに登るのって、わるくない。気持ちいいし、上から見ると景色も変わって見える。けど、たしかにとなりの動物たちは、みんなそんなぼくに少しだけ首をかしげる。
ある日、ガラスのむこうで、飼育員さんたちがなにやらヒソヒソと話していた。
「そろそろ、シロにお見合いさせてみようか。」
「うまくいけば、繁殖のきっかけになるかもしれないし。」
お見合い――それってつまり、結婚の相手を見つけるってこと?
ぼくは少し胸がドキドキした。もしかしたら、家族ができるかもしれない。でも、それといっしょに、モヤモヤした気持ちもわいてきた。
だって――ぼく、泳げないんだ。